引越しの日取りに平日の昼間を狙ったのは正解だった。
中学卒業と同時に地元から逃げるように都内の私立高へと進学した後、そのまま大学卒業までの7年間を向こうで過ごしてきた。だが、やはり物価の高い都会では何をするにも動きづらく、気付けば地元に就職を決めてしまっていた。
遊び場所がないだとか小洒落たことができないだとかで学生時代はあんなに毛嫌いしていた地元も、今となっては穏やかで住みやすい土地だと凪いだ気持ちで接せられる。今日のような普通の日ともなるとすれ違うのは軽の涙型マークやトラックばかりだが、懐かしい光景に感化された今ではその景色すら愛おしく感じられた。
開け放った窓から入り込む新鮮な空気は、ここが都会ではないことを改めて実感させてくれる。
「この道覚えてるか、名前。そろそろ家に着くから」
「あ、はい…。懐かしいですね。この風景も、この車も」
すこし擦れたシートを撫でれば、こまめに掃除はしているもののやはり年月の経過を感じられた。最後に乗ったのは、いつごろだったか。
運転席に座る男は最後に会った時から少し痩せて老け込んでいた。理由を辿れば詮無いこととは思うものの、久々の会話で湿った空気を流すのも気が引けて、未だ言い慣れない呼び方で声を掛けた。
「今日はわざわざ迎えにきてくださってありがとうございます…お義父さん」
青い車体がゆっくりと停止するのを確認して荷物ごと降車する。家具や衣服などは後々に業者に頼んでいるので、直近で必要な最低限のものをまとめたボストンは膨らんだ見た目の割に軽い。
名前の様子をみた義父は、エンジンはかけっぱなしの状態で使い古しているであろうキーケースを取り出し玄関を開ける。
「先に上がってなさい。私はこいつを車庫に入れているから荷物は…あぁ、あいつに任せておきなさい」
「姉貴!」
「…カイくん、ひさしぶり」
エンジン音で気付いたのか、階段を転がり落ちるようにして玄関へやってきたのは、記憶に残るかぎりまだ胸より下に頭があったはずの義弟。すらりと伸びた身体はいつからのものなのか、唯一見覚えのある長い睫毛をしたつぶらな瞳は上がり框までの高さを引いても頭一つ上にある。
7年も経てばここまで変わるものかと感慨に耽る暇もなく、カイは名前の手にしていた荷物を取り上げ帰宅を促した。
「すっかり大きくなったんだね。今もう何才だっけ?」
「今年で19。今月で高校卒業…ったく、弟の歳くらい覚えてろよな」
ああ、この小生意気さは変わらないのか。受け取ったメッシュ地のボストンをリビングのソファに雑多に置くと、カイは戸棚の引き出しを漁りながら続けた。
「仕事いつから始まんの?すぐってわけじゃないんだろ?」
「3月末から。研修で少し早めに来てくださいって」
「ふーん…。あぁ、これ家の鍵。スペアこれしかないから無くすなよ」
聞いておきながらあまり興味なさそうな返事をすると、