客間へと続く廊下で悲鳴を聞いた。
聞き慣れない声に、それが先ほど姫といた侍女だと察する。忍の屋敷で一体何をと瞬身で向かい、声もかけずに襖を開く。が、部屋の様子に変わったことはない。
先ほどと違うところといえば、後ろで控えていた侍女が青い顔をしてなまえの傍にいることくらいである。
「姫様!姫様!!」
「どうした?」
先ほどと違いがないのではない。正しく、なまえは伏せていた。体の力が抜け、崩れている。
「気分が優れないのか」
体を起こしてやると、侍女以上に青ざめたなまえ。青いというよりしろい。
「だいじょうぶで§@&♭」
明らかに大丈夫ではない。語尾が聞き取れない。
なまえを片腕で支えたまま印を結び、影分身を出す。一体に蒲団を、一体に医忍を呼びに行かせた。
「失礼する」
なまえを抱き上げると、ぞくりと肌が粟立った。重厚な着物に丁寧に包装されているくせに、なまえの体はおそろしく軽い。軽いくせにやわらかい。潰して、壊してしまいそうだ。
扉間は扉間の持ちうるやさしさ全てを使い、そっと蒲団へ降ろした。
忍でないからだろうか。
それとも、姫という生き物だからだろうか。
腕に残る感覚に、思春期らしい戸惑いを覚えた。
扉間の敷いた蒲団に横たわるなまえは、短く息を吐いている。肩まで蒲団を引いてやると、姫の青白い頬が目に入った。
荷をあさる侍女の気配を感じながら視線をそそいだ。
まごうことなき美少女が横たわっている。
美少女が、扉間の(敷いた)蒲団で、浅い呼吸で、横たわっている。
「姫様、お薬を」
侍女の声にうっすらと目を開いたなまえに心臓が跳ねる。流石にそれを表に出すようなことはないが、ちょっとドキドキした。
「持薬か?」
「は、はい」
「あとで医忍が来る。診せてもよいか」
「あ、ええと…」
侍女が視線で窺うと、なまえは微笑んだ。
「かまいません。ありがとうございます」
まだ語尾はふにゃふにゃしている。
頬は青白く、苦しいのだろう。目の縁はあかい。けれど、扉間を見つめる瞳はとても柔い。
「…自分の体調くらい考慮すべきではないのか」
「はい」
「もし道中倒れていれば、どうなったことか」
「ごめんなさい」
しゅんとなるなまえに、言葉が詰まる。言い過ぎてしまったかもしれない。くノ一でもない、ましてや姫などという貴い身の人を相手に話すための言葉を、戦に明け暮れる忍である扉間は持ち合わせていなかった。
「とにかく、しばらく寝ておられよ」
「ごめいわくを」
「よい。落ち着いたころまた来る」
腕の感触が消えない。
私室に戻ったあとも、何度も腕をさすった。