泣かないで。君は僕の総て


 水音が滴り落ちていた。ぽたり、ぽたりと地面に滲んで、乾いた土の色を濃くし、奥へ、奥へと滲んでいた。

 鮮やかな色彩が目の前に広がっていた。足元に生えていた草花は風に揺られ、踊るように、そこへ立つ僕の足を擽っていたな。

 手の中にあったコンクリートの破片を握り締めると、無機質な感触が肌に伝わってきた。降ったものは、通り雨とも言えないな。ほんの僅か、数分にも満たない時間しか降らなかったからね。

 見上げる空は高く、薄くて白い雲が立ち込めていた。

 小雨が止んだらそこは、とても静かだったよ。現実だとは思えないような、深々とした静寂の中で、ただ、仄かに濡れた草花が日の光を浴びて艶やかに輝いていた。その生きいきとした色合いだけがやけに目立って見えた。

 おや、起こしたかな? 寝ている横で語られたらそりゃあ起きるって、ねぇ、君、今日くらいだよ。いつもは全然起きないもの。

 そうそう。これは、昨日見た夢の話だよ。現実だとは思えないようなって、そのまんま幻だったわけだ。

 手の中に何故、コンクリートの破片があったのかって、拾ったんだよ。その、だだっ広い空き地に落ちていたんだ。きっとそこには昔、何かが建っていたのだろう。忘れられてしまったその破片は、無機質だからかもしれないけれど、とても物悲しそうに見えた。形は、歪。長方形が崩れて、もっとたくさんの角を無理矢理剥きだされていた。

 やっと完全に目が覚めた? 喉が渇いているのでは?

 いらない、か。それならキスをしよう。君が、満足するまで、何度もね。

 ああ、触れた唇、かさついているね。こら、そこを舐めてはいけないよ。唾液で潤そうとしても、逆に、乾き易くなってしまうから、僕がリップクリームを塗ってあげよう。ほら、唇をん、って、結んで?

 君はいつまでも変わらず綺麗だね。白く滑らかな肌が目に眩しいよ。淡い笑みが似合う顔立ちに、僕はいつだって胸が高鳴ってしまう。


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