Obwohl ich feststellte, dass es sicher in meinen Armen war,
wurde mir klar, dass es furchtbar leer war und ich von Anfang an nichts hatte.
( 求めたものは確かに腕の中にあったが手に入れたそれはひどく空虚で、初めから何も持っていなかったのだと気付いた )

Alles, was du liebst,
ist die groBe Tauschung der menschlichen Geschichte,
die von Menschen gemacht wurde,
die nicht alleine leben konnen
( 愛なんてものは独りで生きていくことの出来ない人間が作り出した人類史上最高の欺瞞だよ )

Denkst du,
dass der Tag kommen wird,
an dem du denkst,
dass es eines Tages wunderschon werden wird?
( いつかそれすらも美しいと思える日が来ると思うのか )



01:Was fur ein schoner Albtraum ist.



「ーーーって事は、お前ら4人で最後か。手術を受けるのは。確率から言って、お前らのうち1人か2人が死ぬわけだ。
まぁ…、せいぜい麻酔が効いてるうちに死ぬ事を祈るんだな。どうせ生き残ったところで、任務じゃ大して使い物にならないんだから」

言い過ぎてはないかと思うかもしれないが、事実であるのだから仕方がないだろう。
今私の目の前には若い男女が4人居る。1人は”私達”が連れてきた少女だ。歳は皆20を越えていないだろう。

「お前なぁ、ちょっとは言葉を選ぶとか」
「事実を言ったまでです。それじゃあ、エヴァ(それ)のことは頼みましたよ。私は仕事なので」

淡々とした口調で伝え、私達が連れてきた少女を日本人の男に預ける。
『小町小吉』
国連航空宇宙局(U-NASA)火星探索チーム総隊長、艦長(キャプテン)。直属ではないが、上司に当たる男だ。

「クレア、少し待ってろ」
「あぁ、分かった」

クレア、と呼ばれたのが私だ。
今日はエヴァを連れてくるついでにこっちに顔を出した。まぁ、仕事もあるからだが、主に用があるのはアドルフであって、私ではない。
『アドルフ・ラインハルト』
U-NASAドイツ支局所属。”幹部乗組員(オフィサー)”と呼ばれる者の一人だ。ちなみにアドルフの他に、小町小吉含めて幹部は6人居る。

「クラウディア久しぶりだな。お前もこっちに用事あったのか?」
「いえ、私はエヴァの付き添いです」

先程からエヴァ、と呼ばれているのは、『エヴァ・フロスト』。”補充兵”の1人。とは言っても、まだ手術を受ける前であるため、”補充兵”となるかどうかは、先程アドルフが言った通り運次第と言ったところだ。
そして、先程のアドルフの物言いに腹を立てていた他の”補充兵”の男女だが、自棄にこっちを見てくる。主に、少年2人が。

「艦長、その人も幹部の人っすか?」
「いや、彼女はお前たちと同じで”乗組員(クルー)”の人だよ。先輩なんだから敬語使え?」
「クラウディアだ。先程は悪かったな。いつも言葉が足りないんだ、アイツは」

そう言うと、エヴァ以外の3人は目を丸くして顔見合わせた後、こちらを見てきた。

「…案外まともだ」
「アイツと同じで感じ悪いかと思った」
「コラ!!」

ボカッ!と、鈍い音がした。少女が少年2人の頭を叩いたのだ。
「いてぇなシーラ!」と金髪の方の少年が、シーラと呼ばれた少女に食って掛かる。それでも全くシーラは動じていない。

「すみませんアホ2人が!」
「別に。アイツの言ったことは事実だから私は否定はしないし、私も決して感じが良いとは思っていない。謝ることはない」

小町艦長が「やれやれ」といった感じで肩を竦めた。
先程、実は彼等がエヴァに対して自己紹介をしていたのだが、アドルフの「覚える気ないんで」の一言で両断されてしまった。そして冒頭に至る。
少女が『シーラ・レヴィット』、金髪の少年が『マルコス・エリングラッド・ガルシア』、もう1人この中では一番年長らしき少年が『アレックス・カンドリ・スチュワート』というらしい。

「ところで気になってたんすけど、さっきのアイツとクラウディアさん?って、」
「恋人かなんかです?」
「ばっ!いきなり何そんな事聞いてんのよ失礼でしょ!!」

再び2人の頭がシーラに叩かれた。先程よりも割増し強めに、拳で。
今度はアレックスもマルコスと一緒に撃沈した。殴られたところを押さえて悶絶している。

「いや違うよ。彼女は、」
「家族っちゃ家族だが、夫婦じゃない」
「へっ、それじゃあ…、」

「姉弟だよ。私が姉で、アドルフが弟」

私は『クラウディア・ラインハルト』
良くこの質問はされる事があるから慣れてはいるが、
「「姉!!?」」「お姉さん!?」と、ここまで大袈裟に驚かれたのは初めてだった。エヴァに最初に会った時も同じ質問をされたが、ここまで驚きはしなかったな。

「…え、全然似てなくね?」
「良く言われる」

本当に良く言われるためマルコスの言葉に頷いた。直後にシーラに「敬語使いなさい敬語!!」と、怒られながらまた頭を殴られていた。



「…皆さんは、何で怖くないんですか?だって、本当に6割死んじゃうんですよね…?」

エヴァの言葉で空気が沈んだ。

彼女達が受ける”手術”、というのが、現在の火星にて、生身で長時間・高強度の活動をするための手術だ。
人類が、21世紀に火星環境の地球化”テラフォーミング”を始めて、現時点で500年程経過している。
予定通り、火星は暖まり酸素を作られ始めているが、まだ完全ではなく地球で言えば、海抜7000m程の大気の薄さだ。

そして、その手術の成功率は、現時点で ”36%”

何故、火星開拓のために、そんな人生を賭けた大博打でしかない人体改造手術を受けなければいかないのか…、まぁ、彼女達は”その手術を受けなければいけない現状にいる”わけだが。
手術を受けなければいけない詳しい理由の説明については、順を追って説明するとして、
エヴァが不安に思っているのはその僅かしかない”成功率”。
言ってみれば、残りの64%の人間は、手術に失敗して死ぬわけだ。アドルフが言っていたのはこの事である。

エヴァの落ち込みようを見て、マルコスとアレックスは、

「…なんかこの子、幸薄そうな上にえらいネガティブだな」
「あぁ…、Negative tits(ネガティブおっぱい)、略してNTT」

などと意味のわからんことを言っている。この2人が此処に来た理由については知らないが、稀に見るレベルの楽観ぶりだ。

「…クラウディアさんも手術受けられてるんですよね?」
「ん?あぁ…、私が受けたのはもっと前だがな。その当時と比べたら、まだ成功率は上がっている方だ」

私の言葉に「上がってても36%…」と、更に表情を曇らせる。
そこに、誰かが部屋に入ってきた。1人は金髪に眼鏡を掛けた女性、もう1人は青年が歩行器に身体を預けながら歩いてきた。手術を終えて間もないのだろう。
女性の方は、私の見知った顔だった。

「見たまえ2人とも!ここに恐らく手術を終えた補充兵の方が2人も歩いているではないか。しかも平然と!!」
「4割なんてこんなモンよ。ね?案外楽勝だったよね手術」
「あぁ…まぁでも俺ら2人は体質のせいで元々成功する確率が高かったんだ。そんで、こちらの方は補充兵じゃなくて幹部だぞ」

真面目な男なんだろうか。2人の言葉に真面目に答え訂正部分は訂正しながら答えてきた。そして、その答えにマルコスとアレックスは、

「うわ、出たよこーいうタイプ。同じくらい馬鹿だと思ってた友達が国語の成績だけ良いんで、コツを聞いてみたら『国語は感覚だろ』って言い放たれた時のような気持ちだわ…」
「D〜っ、ここカットで!」
「えーーーっ!?」

と、この反応である。極めつけにマルコスに「空気読んでほしいわ〜」と言われる始末。彼等なりに場を和ませようとしたのだろうが、聞いた相手が間違っていたようだ。

「何だこの会うなり不遜極まる輩は。殴っても良いですか!?」
「いいけど無理すんなよ」

GOサインを貰って二人に向かっていくが、歩行器でやっと歩いてる状態なんだろうに、どうやって殴るつもりだろう。

「クラウディア」
「!ミッシェル」

『ミッシェル・K・デイヴス』
U-NASA火星探索チーム総隊・副長。小町艦長の副官、とも言える立場の人間だ。彼女とは、以前から交流があり、顔を合わせる度に話を良くする。とは言え、話すとは言っても軽く現状報告や世間話、みたいなものだ。

「さっき艦長から聞いてな。今日はヴィルヘルムはいないのか?」
「邪魔だから置いてきた」
「正解だな」

「アイツは横にも縦にもでけぇからな」とけらけら笑いながらミッシェルは言う。その人物に関しては後から話すことになるだろう。

ふとエヴァとシーラの方に視線を向ける。騒ぐ男3人を余所に、2人は2人で仲良く出来そうだ。歳も近いだろうし、”若い補充兵”が来たと聞いて、連れてきたのは正解だったか。まぁ遅かれ早かれ連れてくる予定ではあったが。

「…ところで、彼は?見たところ東洋人っぽいが」
「あぁ、アイツは”私と同じ”だよ」

”ミッシェルと同じ”、と聞き。あぁ、”例の青年”か、と納得した。
名前は確か、『膝丸燈』

「………」
「…?えっと…、」

マルコスとアレックスに歩行器を捕まれ揺らされ、どうしようもない膝丸燈を眺めていたら目が合った。

「ドイツから来た、クラウディアだ」
「ちなみに私より歳上だからな。敬語使えよ」
「よっ、よろしくお願いします!膝丸燈です!」

ペコッと頭を下げられ、少し驚いた。恐らく名前からして日本人、だと思うが、日本人っていうのは礼儀正しいというのは本当なんだな。一部例外がいるが。小町艦長とか。

「よろしく」
「え、わっ!?」

わしゃっ、と頭を撫でてみると驚いたのか声を上げる。多分私と同じくらいの背丈だろうが、歩行器に身体を預けているため姿勢が低いのもあってか、頭が丁度良い位置にあった。
「え、え、えっと、え?」撫でられたところを押さえて見上げてきたが、そこにすかさず「頭撫でられてなに照れてんだよ」と、マルコスに茶化され、ムカッと来たのかまた食って掛かった。

「珍しいな。お前が”男に触る”なんて」
「…滅多に見ないタイプの青年だな」
「あんまり遊ぶなよ」
「子供構うのは好きなんだ」
「随分図体のでかい子供だな」

私からしたら、あれ位の歳の頃はまだ子供みたいなものだ。
まぁ私もそこまで歳が離れてる訳でもないが、マルコス達のやり取りを見ていると、10代そこらの少年少女のやり取り、掛け合いってのはこんなものだろう。

「…私はアドルフの所に行ってくる」
「あぁ、また後でな」

ミッシェルと別れ、アドルフの所に向かう。仕事っていっても短時間で終わるような事だ。今頃嫁さんに電話でもしてるんだろう。



「イッヒ リーベ ディッヒ!!」

向かう途中で職員に声をかけられ、雑務を済ましていたら少し時間をくってしまった。で、やっとアドルフを見付けたわけだが、声を掛ける前に小町艦長の声が聞こえた。
テンションと言葉からして、電話中のアドルフを脅かしたか何かしたんだろう。

「か、艦長…?最悪だ…」
「次から電話する場所は変えた方が良いな」
「!クレア…」
「此処良く来てるぞ艦長」
「…マジかよ」

電話の内容を聞かれたのか少し照れてる様子。電話を持ってない方の手で顔を押さえた。

「…俺は今からまた仕事に戻るが、クレアはどうする?」
「私は今日はもう仕事はないからな。エヴァの様子を見てる。後からまた来てくれ」
「分かった…」
「ついでに若い可愛い補充兵の事も見ておくよ」

「………聞いてたのか」
「結構最初から」

今度はムスッとした顔をされ、額を小突かれた。こんなところで電話をしてるアドルフが悪い。



「そうだ艦長。そういや何で俺等改造手術してまで生身で火星に行くんスか?それもこんな大勢で
順を追って説明するってさっき言ってたじゃないスか」

部屋に戻ると小町艦長達が鍋を囲って馬鹿騒ぎしていたが、アレックス話を切り出し、艦長とミッシェルの表情が引き締まる。

「………うむ…、重力も気圧も違う火星での運動能力を上げるため…、そしてそれは、火星の生物に対抗するためだ」
「火星の生物?いるんスかそんなの…」
「あっ、アタシ聞いたことあるかも」

「…ほんの500年前くらいまで、火星に生物ないなかった。それどころか滅茶苦茶寒かった。火星には大気が殆ど無かったため、太陽光を全然吸収出来なかったんだな。
だが、幸いにも火星の地中には大量のCO2(ドライアイス)が埋蔵されていた。気化させれば充分に火星全体を覆える量だ」

と、ここまで艦長が説明したは良いが、マルコスとアレックスはほぼ理解できていないようで眉間に皺を寄せて首を捻っている。まともに学校にも行けてないんだろうなコイツ等

「ほ…、ほら、物質って融解したり蒸発すると体積が増えるでしょう?」
「「エヴァ、無駄だ(よ)」」

エヴァがフォローを入れようとしたが止めた。この2人なら余計に混乱するだけだろう。

「つまり…、一度でも火星を暖めれば溶け出したCO2の温室効果もあって、火星は勝手に暖まっていくだろう…って訳だ。凍土が溶ければ水も出来るし。

じゃあ火星を暖めるには先ず、何をしたら良いと思う?」

「核爆弾を落とす」
「ふっ、馬鹿だな、科学ってのは単純かつ回りくどい発想が大事なんだぜ。そうだな、デカい鏡を周りに置くとか」

もはやエヴァもフォローに入る気にもならないレベルの馬鹿だった。シーラに至っては馬鹿すぎて恥ずかしいのか顔を赤くして2人を見ている。

「…まぁ、事実そういう案も大真面目にあったのが驚きだが」
「マジで!」
「あぁ、でも21世紀の科学力じゃ実現できなかった」

核爆弾なんか落としたものなら放射能汚染も残るだろうし、現実的な案ではなかったんだろう。

「あと、フロンガスを使うとか黒い粉を撒くとか、色々あったらしいが、結局…、黒っぽい苔みたいな原始的な草と、それを食べて活動範囲を広げる黒い虫を放って、火星を黒くする事で自然に温度を上げることにした。昔は火星って赤かったんだぜ」

苔を使えば酸素も出すしな。
その苔を使うって案はよかったが、それを食べる”黒い虫”っていうのが、大問題だった。

「知ってる…艦長、その黒い虫って…



”ゴキブリ”でしょう?」

誰しも嫌悪の対象とする虫、”ゴキブリ”
それが、火星に放たれた黒い虫である。その虫の名前を聞いて、マルコスは「げ」っと声を上げ、膝丸は顔を青くした。

「成程、宇宙服じゃちょっと捕まえにくいわな…」
「ちょこまかとすばしっこいからなヤツらは…、成程、そのための手術か」
「いやいや、ゴキブリを捕まえに行くわけじゃないでしょ。それこそ、別に毒や機械で何とでも…、いや、でもしぶといからな」

シーラ達のやり取りを聞き、小町艦長とミッシェルの周りの空気はピ…ン、と張り詰める。

「…普通のゴキブリならどうとでもなったがな」
「えっ?」

「いや…君らが受けるのは、”ゴキブリから身を守るため”の手術だ

すばしっこいのもそのままに、
しぶといのもそのままに、

ヤツらは巨大化している」

巨大化と聞き、あのゴキブリの見た目のまんま巨大化した様を思い浮かべているであろうマルコスとシーラ。
それなら只気持ち悪さが倍増するだけで済んだが…。

「一度目の調査はそれこそ虫を捕まえに行く感覚だった。二度目は手術までしたが、情報も人数も足りず敗走した」

話を進めながら、小町艦長は自分の拳を強く握り締めていた。

「…(艦長は、二度目の調査に向かった1人だったか)」

”バグズ2号”
2599年にバグズ計画により火星へ向かった宇宙船の名だ。

艦長、副艦長を含む、”16人の若い男女”で構成されていたそうだ。
全員が「バグズ手術」、と呼ばれる手術を受けていたが、手術の成功率の低さ故に、前科者や高額の債務等のやむをえない事情で参加することになった者が多かったらしい。
現在の、補充兵を集める方法と、今とおよそ20年前と、大して変わらんな。

U-NASAから事前に言い渡されていた、”建前上”の任務は、ゴキブリの駆除と清掃、となっており、緊急時のためと事前に訓練を受けていた。

作戦終了時の帰還生存者は  2名

「ヤツらのせいで暫く火星開発は完全に凍結されていた…、だが、地球と思わぬ所で、火星からの影響が表れてしまった

先ずは、
それ(火星から来た病原体の問題)を解決する

ヤツらの脅威には備えなければならないが、必ずしも戦争をしに行く訳ではない」

二度目の調査での任務、目的は”ゴキブリの駆除と清掃”だったか、今回の任務は、



”ゴキブリの捕獲”



01:それはなんて美しい悪夢