作成された"ゾウムシの標本"に於て、度々見られる奇妙な事態…。
"不格好にもこの項目だけ"
この項目だけ、ピンではなく糊で台座に留めてあるのだ。理由は至極簡単。"針が刺さらないから"である。

"擬態"せず
されど"補食"、固過ぎてされず
"翅"、固過ぎて開かず

『黒硬象*』
Pachyrhynchus infernalis
分布:フィリピン〜沖縄県八重山諸島

体長十五ミリ弱の小さな黒い球は、"最も硬い昆虫"の一つとして、その名を知られている。



13:Was war im Krater versteckt?



短く息を吸い込み、慶次は思い切り地面を叩き、抉った。無数の石礫がマルコスと黒硬象*型に目掛けて飛んでいく。マルコスはアシダカグモの瞬発力で難無く礫を交わしたが、黒硬象*型は避けずに両手を前に出して礫をガードした。

バゴッ!!
礫を交わしたマルコスが、そのまま勢い付け黒硬象*型の顔面に蹴りを入れる。
衝撃で前に組まれていた両腕がほどけ、片方の腕を掴み、爪先で飛んできた礫を捉え、右眼に打ち込んだ。

「………折るぜ!!」

掴んだマルコスの身長と変わらぬ程の太い腕に絡み付き、腕を折ろうと全体重を掛け捻る。ーーーだが、

「………ッ!!!」

全くびくともしないどころか、右眼に打ち込んだ石礫は、眼を潰すこと無く粉々に砕け散っていた。当のテラフォーマーは全くダメージを受けていないのか、余裕の様子で養殖したであろうカイコガを食べている。

「カ……カタゾウムシって、目も硬いの……?」

想定外の硬さに冷や汗を流すマルコスを、黒硬象*型は思い切り腕を振り上げ、鬼塚目掛けて投げ飛ばした。
飛んできたマルコスを何とか受け止めた慶次だが、投げ飛ばした勢いをそのまま利用し、その身体を回転させ地面に拳を打ち込んだ。

ズドォンッッ!!!…衝撃が地面を伝い、拳を打ち込んだ地面がビキッと、皹割れた。
「えっ!?」と、驚くマルコス達四人の足元にも一瞬で皹が入り、次の瞬間には完全に地面が崩れ落ちた。綺麗に大きな円形の穴が空き、四人は落下する。

「くッーーー!!(じょっ……冗談だろコイツ…!昔の漫画じゃねーんだからよォッ!!)」
「(違う!元々地盤が不安定だったんだ。急激に地下の氷が溶けだしたせい……いや、)」
「(そこを見付けたか、若しくはーーー掘っていた!予め!!)」

蚕蛾型も巻き込まれ落下するが、それも策の内だったのだろう。指先から器用に糸を放出し、巨大な穴の壁面と壁面を繋ぐように糸を紡いでいく。
偶然目の前に放たれた糸を掴み、小吉は糸の上に着地する。

「い"ででッ!!」

クラウディア達他三人は壁面を掴み、勢いを殺しながら穴の中へと滑り落ちた。
黒硬象*型も穴へ滑り落ち、蚕餓型は糸の上に着地する。新たに加わった飛蝗型と、腕の形状からして、恐らく蟷螂型であるテラフォーマーは、穴の上からクラウディア達を見下ろしていた。

「(恐らくこれが奴等のーーー "策"!!)」

蚕餓の糸は網を張るように壁面に張り巡らされ、穴は深く、二体のテラフォーマーを前にして自力で登るのは難しかった。

「(いかにもタイマン向きなヤツの特性に加え、これはーーー…)…!!」

ぞわり…と、マルコスの蜘蛛の体毛が毛羽立った。
これは、敵の主力を此処に"追い込み"ーーー
落とし、"分断させる"為の策…!!

"だとしたら次は"

「慶次、頼んだ!」
「えっ」

言うや否や、マルコスは壁面に向かって蜘蛛の素早さをフル活用して駆け出した。蜘蛛の脚の筋力と身軽さ故か、マルコスは難無く壁を登っていく。

「うおォォォォォみんなァアァァッッ!!!」

マルコスの声が聞こえたのか、加奈子は「え?」と声のした方を振り向く。

「"飛び道具"だッッ!!!」

だが、遠過ぎて何を言っているのか分からないのか、「ーーー何て」とマルコスの方に視線を向ける。
その一瞬"余所見"をした瞬間、崖の上にいたテラフォーマーが投げた投石が、加奈子目掛けて飛んできていた。

ガンッッ!!!!!
ーーー遥か遠方に居た筈のマルコスが、投石の飛んでくる速さを越え、加奈子に当たる前に弾き飛ばした。その瞬間、加奈子が突風が横切ったのかと錯覚するほどの速さだった。
勢いが付きすぎたのか、加奈子を通り過ぎてかなり離れた先でやっと止まるマルコス。呆ける加奈子だったが、息を整えたマルコスが再び一瞬で、自分の背後に移動してきたのを目の当たりにし目を丸くする。

「お前等なぁーーーっ、

何でもかんでも人間側(オレら)が後手に回って好い様に殺戮できると思うなよーーーッ!!!作戦が雑なんだよ!!!」

怒鳴り散らし、背中の装備から棒状の武器を取り出し組み立てた。

「ーーー脚高蜘蛛(オレ)が五体満足な状態でイキナリ石投げて当たるわけねーだろうが。ま……タマが意外と遅くて助かったけどな。

まとめて来いよ
うちのクリーンナップが"上がってくる"前に、全球打ち返してコールドにしといてやる」

ーーー『クモ』という名前の由来は、
アシダカグモの事を中国で『喜母(シイムー)』と言い、これが日本に渡って『キモ』と読まれたが、転じて『クモ』となった。…という説の他にーーー
『まるで雲に乗って逃げるよう』だと言われるほど、足が速いからだとする説などがある。

「……しゃあねぇ、頼まれた。護ってやってくれよ…マルコス。彼女等を」
「意気込んでるとこついでだが私からも頼まれてくれるか、鬼塚」
「え、」

パンパンと砂埃を払いながら言うクラウディアに視線を向ける。ーーーが、視線を向けた時には既にクラウディアは居らず、「…え!?」と驚いて視線を上に向けると、二匹のテラフォーマーの前に立つクラウディアが居た。

「(今確かに隣に居たよな…!?どうやってこの穴よじ登ったんだ…!?)」
「ーーー二つ約束しろ、」
「…!」

「一つ、私が変態してる間は"何があっても素手で触れるな"
もう一つは、そこの硬いデカブツはお前が適任だ。…任せて良いか」

視線をテラフォーマーから外さずに言うクラウディアに対し、慶次は答える。

「仲間二人に頼られたら、やらないわけにはいきませんよ」
「…運良く、私が先にコイツ等を倒したら加勢に行くが、期待するな」
「"逆"も然りですよ、クラウディアさん。ーーーそっちは一旦お願いします」
「あぁ」

慶次が黒硬象*型と向き直り、改めて目の前に居る二匹のテラフォーマーに視線を向けた。
一体は脚の形状からして飛蝗。もう一体は蟷螂型と見て間違いなく、クラウディアはかつて"バグズ2号"の乗組員のベースの中に、『ハナカマキリ』が居たことを思い出す。恐らくその乗組員から盗った特性だろう。

「………やるか」

ジリジリと間合いを詰めながら接近し、クラウディアが駆け出したと同時に、飛蝗型のテラフォーマーがクラウディア目掛けて突進してきた。



「そ…その棒は…?」

マルコスが取り出した棒を怪訝そうに見つめる加奈子に対し、マルコスは「フッ…」と得意気に笑った。

「タダの"棒"という呼び方はやめてもらおうか…コイツは、俺の忠実なる相"棒"…その名も『アラクネバスターMKU』。因みにアラクネとはギリシア語で蜘蛛を意味し、その由来は女神アテナが、」

「"棒"じゃん」
「アラクネがギリシア語なのにバスターは英語のままなの?」
「マークTはどうしたんだよ」
「その名前だと蜘蛛"を"破壊しちゃうだろ」
「ださい…」

自信満々に説明をしていたのにも関わらず酷い言われようだった。

「良いか…?ここんトコをホラこうするとーーー」
「わー!分かった前見て前!!」

後ろを向いて説明をしようとしたマルコスに慌てる加奈子。その隙を突き崖上から飛んできた投石を、マルコスはアラクネバスターで全て弾き飛ばす。

「ーーー終わりか?」

不敵に笑うマルコスと、周りにいる乗組員達目掛けて、投石の雨が降り注ぐ。

「遅せえ!!!」

アシダカグモの瞬発力、そして8つの眼を用いて、四方から飛んでくる投石を弾き飛ばしていく。シーラの時と比べて冷静でいるとはいえ、少しずつ息が切れ始めていた。
一ヶ所に固まっている非戦闘員達の所に、一匹のテラフォーマーが近寄ってきたが、ジャレットが網で殴り飛ばし捕らえる。

「………マルコス…!」

ジャレットが振り向くと、マルコスは肩で息をし立ち止まっていた。ゴキブリと比べて持久力の無いアシダカグモがベースでは、あまり長い時間は走り回っていられない。
立ち止まったマルコス目掛けて、一匹のテラフォーマーが投石を投げ付ける。



「……第一班は、一体何故SOSを…!?」

第一班が着陸した方角に向かって、第二班は移動している最中だった。
現在確認出来た通信で、SOSを発信していたのは第一班と第六班。小町艦長やマルコス達が乗っている脱出機から送られてきたSOSに、膝丸は不安を露にする。

「まさか、俺等の所に現れた"飛蝗"や"玄甲"よりも更に協力なーーー…例えば、"兜虫"とかが現れたんで、流石の艦長とマルコスも苦戦しているのでは…いや、考えにくい事ではありますが……」
「………『バグズ2号』に兜虫はいない……だが、更に硬い昆虫ならいた」

ミッシェルの言葉に、膝丸は冷や汗を流す。

「ーーー燈、

お前がさっき言っただろうーーー仲間を……信じろ」



額にモロに投石を食らったマルコスだったが、倒れることはなく、汗だくで息も上がっていたが、その顔には笑みが浮かんでいた。

「…どうしたヘボピッチ共、ハァ……ッ…ペースが落ちてるぜ……?気付かねぇか?

ひとり"減ってる"の」

ひらり…と、一枚の羽根がマルコスの傍に落ちた。
再び投石を開始しようとするテラフォーマー達は、自分達に目掛けて"飛んでくる"ものに気付くのが遅れた。

ボッ!!!と、崖上に並んでいたテラフォーマー達の身体は大きく削り飛ばされ、モロに一撃を受けた者は上半身もろとも消し飛ばされていた。

初速ではなくーーーー
彼よりも、奴等よりも、

"最大速度"で上をいく生物が、雲の上にはいる


「たとえーーー艦長の針が通らない敵がいても、マルコスの動きで捌き切れない数の奴等に、奇襲を受けたとしても、

私達の信頼すべき本隊…『日米合同第一班』には、"まだ"彼等がいる。


あの、鬼塚慶次と!

マーズ・ランキング『15位』ーーー『ハリオアマツバメ』の三条加奈子が!!」


彼等の目には留まらず、
彼等の尾葉(センサー)だけが強烈に感知したもの。それはーーー陣風(かぜ)!

"針尾雨燕"
Hirundapus caudacutus
ユーラシア東部からオーストラリアにかけて生息する渡り鳥。体長20cm強。
航空工学で使われる、翼長と翼面積と重量を考慮した『力学的相似係数』の値が、MK8型ジェット機と同じ2.4である。
水平飛行時の最高時速は170kmとも、350kmとも言われている。

全身が黒の羽毛で覆われている事から、かつては『悪魔の鳥』と呼ばれていた。

「フゥーーーッ…」

マルコスは加奈子がテラフォーマー達を吹き飛ばす様子を見て、大きく息を吐く。

ーーー彼女が落とした羽根の形である、一本一本、全て違う。

違う方が良いとーーーそうするのが良いと書いてあるのだ。
一億五千万年続いた、力学の講義を全て書き記した、この遺伝子のノートに。

遠い先祖が最初に羽撃いたあの日から、ひたすら空気とぶつかり続けたその躰は、知らぬ間に近付き同化していったーーー『空気力学(エアロ・ダイナミツクス)』そのものに!

対象となる空気の粘性や影響の仕方は、飛行体のサイズによって大きく異なると言う。
即ち、ある虫にとってはこの形ーーー
また、ある鳥にとってはこの形が、最も理に適った飛び方という事。

人間や飛行機が、鳥の構造をただ真似るだけでは飛べない理由がこれである。
だが、彼女は『マーズ・ランキング』の"15位"故にーーー!

強化アミロースの甲皮は軽く、
"鳥類型"に特有の、自身を浮かび上がらせる程の胸肉を持ちーーー

そして、遅いか早いか八百年の歳月をかけて、飛行生物の足元まで追い付いた人類が、彼女だけに持たせたこの背中の"武器(エアロパーツ)"がーーー


彼女を"160センチのハリオアマツバメ"に変える!

ーーーサイズが大きい物ほど、速く飛ぶ事になるため、僅か20cmで350km/hをはじき出すこの鳥が、"人間大だったなら"

8*倍の面積の羽根が全て揃い、
8*倍の体重が全て加速を終えた時ーーー
この水平移動速度はあらゆる生物の中でーーー!


最速である


…空を飛ぶ、加奈子に向かって飛んだ一匹のテラフォーマーは、ハリオアマツバメの"速さ"になす統べなく、空中で首を飛ばされ身体はバラバラに吹き飛んだ。

ーーーそれは、またしても火星のゴキブリ達の識らない生態(スタイル)だった。
空中で食べ、空中で交尾し、そのまま地球を半周する、この雨燕(てき)は、昆虫(じぶん)達の持つ速さとはまた異質。

気付き始めたーーー
"敵はこの速さのまま"
"下りて来ない"ーーーと!…この辺りから、ゴキブリ達の行動が纏まり始める。

"20年前"にも、飛翔ぶ敵はいた。

ーーー残りのテラフォーマー達に向かって、比較的地表に近い高さまで来た加奈子を、テラフォーマー達は捉え、
大きめの石に繋げた特大の網を加奈子の目の前に放り投げた。
スピードを落とす暇も、飛ぶ軌道を変える余裕もなく、加奈子は網に捕らえられる。

二、三十匹いたゴキブリは、既に半分以下に減っていた。
捕らえられた時、三条加奈子は…今度は、焦ってはいなかった。


来ると知っていたから

「……オウ、」

必ず、来ると

「時間稼ぎご苦労!」
「………ありがと。でも、何かちょっと偉そうじゃない?」
「へッ…まぁな」

網に捕らえられた加奈子に近付いてきたテラフォーマー達を、アラクネバスターで一掃する。加奈子が崖上のテラフォーマー達を殆ど一掃したお陰で、マルコスは少し休むことが出来ていた。
一匹のテラフォーマーの胸元をアラクネバスターで貫き、トドメを刺したところで加奈子を捕らえている網を取り払う。

「さ…観念しな残党ども。慈悲の神サマは火星にもいねぇし、勿論ーーー…メキシコにも居ねぇぞ?」

残りのテラフォーマー達をマルコスが睨み付けた、その時である。

バゴンッ!!と凄まじい音と同時に、空中に何かが飛んだ。
8つの眼の内のどれかがそれを捉え、飛んだ物に目線を向けると、マルコスと加奈子のすぐ傍にそれが落ちてきた。ーーー飛蝗型のテラフォーマーの脚である。

プスプスと焦げ臭い匂いが鼻腔を突き、ハッとして加奈子が脚が飛んできた方角に顔を向けた。



「…それに、アイツもいる…クラウディアが」

鬼塚慶次、三条加奈子と続き、クラウディアの名前を出したミッシェルに、
「そういえば、クラウディアさんのベースって…?」…と、燈は首を傾げた。

「何だ、知らないのか」
「はい…そういえば、聞いてなかったなと思って…」
「俺も知らねぇっす」
「まぁ班も違ぇし、人為変態時の訓練はアイツはお前とは違う連中見てたしな」

腕を組み、軽く息を吐くミッシェル。その話を聞いていたヴィルヘルムが続けた。

「クラウディアさんのベースは、彼と同じですよ」
「?」
「…血の繋がりのせいなのか、たまたまなのか…偶然にもクラウディアさんは、あの人と同じベースに適合したんです」

首を傾げる膝丸とアレックスだったが、直ぐに二人同時に「「あっ」」と声を漏らして顔を見合わせた。

「クラウディアさんの『マーズ・ランキング』は"14位"……ですが、適合したベースの生物は、ランキング"2位"の彼と同じーーー」



…バチバチと、放電する音が響く。
マルコス達とは少し離れた場所で、クラウディアは二体のテラフォーマーと戦っていた。飛蝗型と、蟷螂型らしきバグズ手術を受けたテラフォーマーと。

加奈子がクラウディアの方に視線を向けた時には、蟷螂型の姿を捉えられなかったが、飛蝗型は片脚を失った状態で地に伏していた。

「おい、どうした」

みし…っと、地に伏し起き上がろうとしている飛蝗型の首を鷲掴みにし持ち上げる。
器官を絞められ、呼吸が出来ず息苦しさからかジタバタと暴れ、振りほどこうとクラウディアの腕を掴んだ。
そして、残っている方の脚を使いクラウディアを蹴りつけようとしたが、

バンッ!! クラウディアに触れる前に脚は何かに弾き飛ばされた。脚は焦げ、痺れたのか痙攣し、それ以上動かす事が出来ない。

「宝の持ち腐れだな…特性面で言えば、良いベースなんだが」

バチバチと放電し、飛蝗型の首を掴むクラウディアの手の力が増す。

「まぁ、使い手が底辺じゃあ仕方が無い」

右足を軸にし、勢いを付けて飛蝗型の身体を空中に放り投げる。翅を広げてそのまま逃げようとしたが、既に翅は潰されており開くことが出来ず、そのままクラウディアに向かって落下していく。

バァンッッ!!!
比較的身長が高めのクラウディアよりも、遥かに巨漢である筈のテラフォーマーの身体が吹っ飛んだ。
地面に落下する前に、クラウディアに蹴り飛ばされたのだ。テラフォーマーはそのまま小吉と慶次の居るクレーターまで飛ばされ、クレーターの壁にめり込んだ。
飛蝗型の身体からはプスプスと煙が上がり、蹴られたであろう箇所は酷い火傷を負い所々破裂したような痕が出来ていた。

「自分の未熟さを知れて良かったな。ま、もうどうでも良い事だろうが」

その蹴りの威力にクレーターの中にいる小吉は感嘆の声を上げ、慶次は息を呑む。

「すご…」
「やっぱおっかねぇなクラウディアさん」

離れた場所で見ていた加奈子は絶句し、マルコスは渇いた笑いを漏らす。

「けど、凄く頼もしいでしょ?」
「あぁ!」

加奈子の言葉に大きく頷き、目の前にいるテラフォーマー達に向き直る。



「ーーーアドルフさんと同じ、魚類型…『デンキウナギ』の適合者です」

ヴィルヘルムの言葉にアレックスは「マジっすか!」と声を上げ、燈は口が空いていた。隣のミッシェルにアホ面だと言われ口を閉じる。

「でも、それだと何で14位なんスか?」
「それにはアドルフとクラウディアの"特性の違い"が関係してる。同じベースでも、二人の戦い方が全く異なる」
「電気を扱うという特性を最大限利用して、アドルフさんは避雷針付きの手裏剣を用いた中距離戦に対して、クラウディアさんは"接近戦"でしか戦えません」
「?アドルフさんと同じようには戦えないんですか?」

燈の疑問に、ヴィルヘルムは少し顔を歪ませたが、直ぐに戻り、燈の疑問に答える。

「手術をした後の実験で発覚した事ですが、"電気の放電できる範囲が極端に狭い"んです。
実験で、避雷針を使って電気を誘導する事が出来ない事が分かったので、その特性の"違いと格差"から、アドルフさんと同じ戦いが出来ないと分かったんです」
「…同じベースでも、全く同じにはならなかったのか」

「だが、戦い方はその特性に合わせりゃ良いだけの話だ」

ミッシェルは真っ直ぐと前を見て、話を続ける。

「そもそも、その特性が解ったのはクラウディアとアドルフの二人が"会う前"だ。『マーズ・ランキング』の順位に割り当てられる際にその特性の違いが反映されただけだ」

「それでも正直納得いかねぇ順位だがな。本人は大して気にしてねぇが」と、ミッシェルは悪態を吐く。

「だからクラウディアは、自分に"合った戦い方"をちゃんと知ってる」
「クラウディアさんとアドルフさんの特性の違いから、戦い方は違いますが、同じ所もありました」
「同じ?」

「身体から発せられる"電撃の威力"そのものは、二人とも相違が無かったんです」

ヴィルヘルムの言葉を聞いて、二人は「「えっ」」と驚き呆ける。

「電撃の威力は"2位"であるアドルフと変わらない。違った特性から、クラウディアの戦い方が"ゴキブリに近付かねぇと出来ない"って点から出た順位だが、正直クラウディアからしたら、そっちの方が都合が良かった」
「以前、その特性の違いを知った後、クラウディアさんはおっしゃっていました。"細かい作業は得意じゃないから丁度良い"ーーー」



「「"電撃をゴキブリに直接叩き込めば済む話だ"」」



ーーークラウディアはクレーターの傍に立ち、壁にめり込み死んでいる飛蝗型を見下ろした。
アドルフのような細かい特性のコントロールが、どう訓練しても昔から上手くいかず、戦い方も、出来れば避けたい"ゴキブリとの接近戦"に限られた。

だが…"そんな事はクラウディア本人からしたら大した問題では無かった"。寧ろ"都合が良かった"

自分が触れれば、ゴキブリは死ぬ。"簡単な事である"…と

ゾロゾロと何匹かのノーマル型のテラフォーマーが集まってきた。蟷螂型は、飛蝗型を相手にしている間にどこかに身を隠したのか姿が見えない。

「…案外早く片付くかと思ったが、そうもいかんか」

チラッとクレーターの下にいる慶次の方を見たが、軽く息を吐き、指を鳴らした。


ーーー火に囲まれた今はともかく、火星の夜は暗い。そして穴の底は、尚暗い

ーーー彼もまた、落ちてきた。炎が明るく照らす世界から……

「…見えるよ」



暗い闇の底へ



12:クレーターの中にあるのは