星と魚/オリキャラのBL
オリジナルのモブキャラ同士のBLです。モブと友達のケイトが出てきます。
授業内容や人魚に関しての捏造があります。
何でも許せる方のみ閲覧して下さい。
薄暗いモストロ・ラウンジの店内は水槽の光を反射してきらきらと輝いていた。どこからか静かにピアノの音が聞こえてきて、その場を盛り上げる。自分の知らないその曲は冷たい海の曲なのだろうか、切なさや愛しさに包まれるような気分にさせる。へー、いい曲じゃん、今のフインキにピッタシかよ。そんな事を頭の隅で考えながら、リックは目の前の後輩が口を開くのをじっと見ているしかなかった。
「りっくんもこれで彼氏持ちかぁー!おめでとー!」
「ケツ使う時は言いなよ。お気に入りのローション教えてあげるから」
「うるせー!」
今日の三年生の占星術の授業は、少人数でチームを作り課題に取り込むというものだった。リック・ベッカーが組んだのはハーツラビュル寮のケイト・ダイヤモンドと、同じオクタヴィネル寮のイレール・オードランだ。一年生の時にクラスが一緒になり、そのままそこそこの関係を続けている数少ない友人達だ。三人は占星術が得意な事もありよく授業で会うので、顔を合わせれば中身の無い話をする。今日も担当教員は指示だけ出して準備室に引っ込んでしったので、他のチームもダラダラと話しながら作業をしているようだった。
占星術は得意な生徒と不得意な生徒が分かれる科目だ。基本を知っていれば楽勝だと言う生徒も居れば、莫大な量の暗記をしなければならないと嘆く生徒も居る。一年生は必修なので全員受けなければならないが、三年生にもなると選択科目のこの授業は人が少なくなる。今年も三年生は一クラス分も人数が集まらなかったと先生が喜んでいた。
これからしばらく取り組む課題は、チームで六十四年以上前に実在した歴史上の人物を一人選んで、その人物の生死や何らかの出来事が起こった時の、人物の頭上に在ったと思われる星図を予想し書き起こす、というものだ。その時にどんな星の加護があり、星々はどう集まってかの人物へ影響を及ぼしたか。それを星図を中心に纏めて発表するのだ。三年生になるとこういった応用的で自由性のある課題が多くなる。リックたちが選んだのはベルラ・トライルという海洋探検家で、陸と海の国が交流するきっかけを作ったとされる人物だった。輝石の国の生まれのベルラ・トライルは船で世界中を旅する中で人魚達と交流を持ち、法的に残っている記録では初めて人魚と婚姻を結んだ人間だった。世界的に有名な人物なので彼に関する資料も多い。出来事の日付は正確で時間帯も大まかに把握されていて、現在のきちんと記録されている図表から遡って計算もしやすい。人間の歴史に疎いリックでも知っているし、隣には輝石の国の出身者もいる。ここのチームは歴史上の人物選びからして無難で手堅かった。リックはこの三人で組んでヨカッタヨカッタと思いつつ、器用なニ人に挟まれる苦悩をも予想する。
今日の話題は勿論、少し前に告白されたリックの恋バナが中心だった。相手は一つ下のサバナクロー生で、閉店後のモストロラウンジでの告白だった。
「それで?告られてオッケーして?一週間くらいっしょ?進展は?チューくらいはいっちゃったわけ?」
「う〜ん……」
口調の割に興味が無いような顔をしているケイトの質問に、どう答えようかとリックが考えていると、先にイレールが話し出してしまう。
「それが、なあーんもナシ。メールでオハヨウとオヤスミして、ラウンジ通って少しお喋りして終わりだっけ?よくもつよな。早く部屋入れてあげれば?」
「俺はお前と違ってハジメテは大事にしてんの!てかなんで知ってんの?見てんの?」
確かに、リックはメールでのやり取りはイレールに相談した。しかしモストロ・ラウンジの仕事の後に会っている事は言っていない筈だ。何故知っているのかと詰め寄る前に、またすぐケイトが口を開いてしまう。
「っかー!ウブな恋してんね〜!ま、二年だとサバナクローも一人部屋じゃないだろうし、手は出しにくいか。学年も寮も違うと前途多難だねー」
「っぱし先輩がリードした方が良いんじゃないか?俺から寮長には上手く言っといてやるよ」
「オレも他の寮にお泊まり行きたいなー」
ニヤニヤと悪い顔で提案したり、言いたい事だけ言って茶化す友人達に、リックの頬は赤くなる。付き合って1週間で部屋に入れてナニかをするなんて、流石に早すぎるだろうと。
「うううるさい!そーゆーのはまだ早ぇし!」
「りっくんうるさい」
「お前が一番うるさい、手ぇ動かせ」
「すみませんんうう〜」
叫ぶようにして会話を無理矢理止めたが、ケイトとイレールに注意されてリックは項垂れる。ぽんぽんとリズム良く会話をしているが、二人の手元はそれぞれきちんと作業していた。いつに無くあたふたしているリックは、割り振られた人物の大まかな年表作成の作業が進んでいなかった。ケイトは図書館のサイトにアクセスして人物に関する本をピックアップしているし、イレールは生誕の日時と場所から星を予想しつつ書き出している。二人に責められ、リックは涙目になりながら目の前のノートに集中しようとした。するとケイトが視線はスマホに固定しつつも、口だけを器用にうごかしてリックに再び問いかけてくる。
「てかさ、その感じだと別に両思いってワケじゃないんでしょ?何でオッケーしたの?」
「……なんでかな?」
「流されちゃったんだよね、ベッカー君は」
「えーっとあのね、なんとゆいますかね……」
「まぁた?ホント、りっくんて甘いっていうか、気が弱いっつーか、お人好しっていうか?」
「慈悲深い我が寮にぴったりの男だろ」
「後々メンドー起こすタイプじゃん?」
「それな」
人柄を褒めて貶して上げて落として楽しんでいる友人達に、早速集中が途切れたリックは抗議の声を上げた。
「いやいやアレは仕方がなかったって!」
そう、あれは流されても仕方ないとリックは思うのだ。人気の無い静かなモストロラウンジに流れるイイカンジの曲。水槽からの光を反射してゆらゆらと不安そうな顔する後輩。寮長に呼ばれて入った店内はいつもと全く違う世界だった。あの時リックは何も分からず、目の前に立つ後輩を眺めていた。そして段々と赤く染まっていく彼の頬を見て、ようやく事態が飲み込めてきたのだ。
「トーカくんがさ〜あ、」
「このトーカ・レアンストってのが彼氏の名前な」
「うんうん」
「モストロ何回も来てさあ、ポイント貯めてたらしいんだよねー」
「ポイントカード三枚貯まると寮長に相談出来るシステムに変わったの知ってたか?」
「うんうん、こないだちょっと聞いたよ」
涙目で話し出すリックに、イレールが注釈を入れ、ケイトが相槌を打ち、会話はスムーズに進行していく。
「やっと三枚たまったカードでアズールくんに何お願いしたと思う?」
「惚れ薬だな」
「媚薬」
「うるさいぞスカラビア」
近くに居たスカラビア生が話を聞いていたらしく、話に割り込んで来た。しかしすかさずイレールが一蹴する。イレールもその辺りは寮長から何も聞いていないのか、やや食い気味の姿勢だった。
「それがさー……、アズールくんに『先輩と二人で話す時間を下さい』ってお願いしたんだって」
「……へーえ……それは、なんていうか……」
「ケナゲじゃんカワイーじゃんラブじゃん」
純愛とは遠い所にいるイレールは引いているし、ケイトはセリフは肯定しているがあからさまに適当な返事だった。二人の自分との温度差が酷く、リックは泣きそうになった。
「可愛いというかさあ、なんかさあ……年下にそこまでされてフれる?」
「俺は断る」
「オレもー。そんなのカンケー無いし」
「慈悲がないなお前ら」
リック・ベッカーは所謂人魚らしい人魚だった。染めたピンクの髪とダークブルーの瞳で、見た目は船乗りを惑わす人魚のような美しさだ。中身も享楽的で刹那主義、とまではいかないが、その場が楽しければそれで良いと考える所があるし、友人達に言わせると顔の良いアホだった。確かに、美味しいご飯と安心出来る寝床と、後は暇潰しがあれば生きていけるとリックは思う。自分の利益を追求するアズール・アーシェングロットには特に嫌われる能天気なタイプだ。空気を読む事に長けているので年下の寮長の元でも上手くやってこられたが、今回の告白騒動にはその長所が裏目に出た形になる。少しだけ知り合いなだけの後輩が、何日もかけて何マドルも費やして手に入れたのが、自分との時間だったのだ。それもたったの数分間。そこまでされて即座に振るなんで、ハッピー事勿れ主義のリックにはできなかったのだ。
しかし付き合うとなるとそれなりの覚悟が必要なわけで。どうしたもんかと昼休みの廊下を歩いていると、リックの悩みの種が向こうから寄って来るのが見えた。
「うえ!」
「こんちは!ベッカー先輩!」
「うん、ハイ、えーっとこんにちは」
目の前で止まったリックの悩みの種もといトーカ・レアンストは、耳としっぽを嬉しそうに動かしている。焦茶色の暖かそうな、獣人の証だ。リックよりも大きい体と溌剌とした顔。顔は悪くないと思うし、イレールも確か同じ意見だった。あの面食いのイレール・オードランが悪く無いと言うのだ、誰が見てもカッコイイ男ということなのだろう。成績はそこそこ良いのをリックも知っているし、部活にも真剣に取り組んでいて、この学校では珍しく模範的と言っていい生徒だ。
見た目通り真面目な性格で、間違ってもリックの様な怠惰な人魚に懐くタイプには見えないのだが、何故かこの後輩は懐くを通り越して恋愛感情を持っているらしい。リックは恋愛する相手の性別に強い拘りがあるわけでは無いが、今まで付き合ってきたのは全部女の子だった。それがいきなりこんなムキムキで男らしい男が彼氏になってしまったので、戸惑いがあって当然だった。
「もうメシは食いました?」
「えっと、今からだよ。食堂いっぱいだったからパン買ってきた」
リックは自分の背後の食堂を指してからパンの入った袋を見せる。これから中庭にでも行って食べようと思っていたのだ。それ聞いたトーカが何か言いたそうにしているのを見て、ついリックは手を差し出してしまった。
「……トーカくんまだ?一緒にくう?」
「え!いいんですか!?」
驚きと嬉しさを素直に表現する後輩に、リックは悩みも忘れて笑ってしまう。普段付き合っている友人達はこんな反応はしてくれないので新鮮で気持ちが良い。ニコニコと、自分との時間を幸福だと感じているような後輩にリックも嬉しく思った。そうか、この素直でカッコイイ男は自分を好きなのかと、改めて認識する。それって悪くないいし、気分いいかも。うん。
「べつに驚くことじゃないじゃん。俺ら付き合ってるんでしょ?」
「う、……そ、そうッスね……」
自分の発言に照れて頭をかくトーカに、ますますリックの気分は上がっていく。
「じゃーパンでも買ってきなよ。俺そこらへんで待ってるから」
「はい!」
これから食堂へ行こうとしていたトーカは急いで買ってくる、とリックを残して廊下を駆けて行った。その後ろ姿を見て、リックはためていた息を吐いた。トーカを見た時からあった緊張が、彼の素直な反応のおかげで無くなっていくのが分かる。
どうなるか分からなかったけど、とりあえずはどうにかなりそう。リックはトーカの事をそれほど良く知らないし、それはトーカも同じだろう。ただ相手からの好意を気持ち悪く思わないのは、リックもトーカを気に入っているという事だ。付き合うに際してのアレコレは今は置いて、素直な恋人との時間を楽しめば良いのだ。悩んでも仕方がない無い事は、とりあえず前向きに楽しむ方が特だ。
リック・ベッカーは典型的な人魚らしい人魚だ。美しい見た目と能天気な思考を持ち、深く考える事を苦手とする。今が良いならそれで良い。そうやって問題を後回しにして痛い目を見たこともあるが、リックは何とか今日までまで生きてきたし、明日からも何とか生きていけるだろうと思っている。あとは勘の良い同級生が言うような、メンドーな事だけ起きなければ良いのだ。
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