遠い国の人/トレケイ
※性描写有りトレイには、ケイトは遠い所から来たのだと実感する夜がある。
ケイトは肌が白いのだ。ハーツラビュルは薔薇の王国の出身者が殆どで、輝石の国の、それも北の方の人間はケイトくらいしか居なかった。ケイトの住んでいたところは、春は短く夏はあっという間で、気付くと秋が過ぎて冬を迎えるような、1年の大半が雪に覆われている街らしい。
「雪って言ってもそんなに積もらないんだけどね。ちらちらちらちら、空から小さい雪の結晶がずっと降ってくんるんだよ。」
そう語ってくれたのは1年生の冬の頃。ホリデーに帰るのはどんな場所なのかと聞いたトレイに、ケイトは窓を見ながらそう言った。雪でも探しているのかと、トレイは思った。
そんな寒い地域で育ったケイトは暑いのが苦手で、夏の体力育成は嫌いだ。すぐに肌が赤くなるのだ。1年生の夏に、ケイトは酷い日焼けをした。日焼け止めは塗っていたというその肌は、露出した手足、そして顔や首筋が赤く染まり、可哀想なくらいで、そんなケイトにトレイは今までに無いほどの欲情を感じた。数日続いたその欲望は、ケイトの肌が落ち着いたのと一緒に消えていった。ケイトの肌は黒くならず、ただ赤みが引いただけ。北の人間の肌はそうらしい。太陽に弱く、すぐに火傷をしてしまう。そして、赤く染まり、痛みを残してまた白に戻る。ケイトと自分は違う人種なのだとトレイは思った。またあの赤が見たいとも思った。
それなのに、ケイトは顔に念入りに薬を塗り込み、暑くても長袖を着るようになった。学園内はある程度気温が一定なので、不自然な事では無い。不自然では無いし、ケイトの肌を考えれば当然の対応だが、トレイは負に落ちなかった。またあの赤が見れるだろうと思っていたのに、それが叶わなかったからだ。また見たい。どうすれば見られるのか。ケイトの顔を見て、その肌を思い出す。ああ、きっと綺麗な肌だろうに、なんて惜しいんだ。そんな毎日を過ごしていると、ある日トレイはケイトを好きになっていた事に気づく。ますます、どうにかして日焼けしたあの肌を見たいと強く思った。
トレイの願いは、思いがけないところで叶うようになった。2人きりの、ベッドの中でだ。なんとかケイトと付き合う事になり、ケイトとセックスをする関係になった。そしてすぐに気づいた。ケイトはセックスで肌が赤くなると。胸のあたりから顔が、それはそれはあざやかに色付くのだ。興奮して快感を得れば得るほど、ケイトの肌は赤く染まる。息が詰まるほどの快感でそれは一等強く赤くなり、熱くなる。息が落ち着くとそれも白さを取り戻して、また赤く染まる。その繰り返しを自分の手で行っているのだと思うと、何もかもがどうでも良くなって、その肌に溺れることしか出来なくなる。おかしいと思うけど、やめられない。肌に中毒性のある薬でも塗っているのかとトレイは肌を舐めてみた。ケイトが愛らしく身を捩り、くすくすと笑うだけだった。
電気を消してと懇願するケイトに、肌が赤くなるのが見たいのだと告げた夜は酷かった。いつも以上に恥ずかしがるケイトを抱くのは酷く興奮して、何回も追い詰めて、赤くなる肌を堪能する。顔を隠す手をシーツに押しつけて、満足するまで眺める。裏返して、一面赤く染まる背中に指を添わして、首を辿って耳を撫でる。感じ入るケイトの声が心地よい。無理に顔を見れば、真っ赤な顔にある緑のまるい瞳が綺麗で、愛していると言わずにいられなかった。赤く染まる白い肌に、明るい赤毛に、緑の目。遠い国から来た、とても綺麗な好きな人。
「好きだ、ケイト」
「オレはしつこいのきらい」
「キスは好きだろ?」
遠い国から来た愛しい人に振られたトレイは、幸せのまま、ケイトにキスをした。
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