つみぶかくあいしてよ


 オレがこうして生きているのはきっと、君に出逢うためだったんだ。





 大真面目にそう言うと、ナマエは心底おかしそうにケラケラと笑った。
 オレはその人を馬鹿にしたような彼女の笑い方が意外と嫌いじゃない。








 人生なんか面倒くさいと思ってた。
 夢も希望も愛も全部面倒くさい。
 死にたいと思ったこともある。人を殺したいと思ったこともある。
 でもさすがに殺すのはマズイから、自分の手首を切ってみた。
 死ねなかったけど。(この腕輪、実は傷を隠すのにすごくちょうどいいんだ、)

 ああ失敗したか、と他人事のように思いながらまたのらりくらりと生命活動を続けていたら、彼女に出逢ってしまったというわけだ。
 それでオレは。何というか、不覚にも、生きててよかったのかも知れないと感じられて。


「そっか。じゃあ、生きてておめでとう」

「ありがとう」

「でもさ、それなら…これでもう、悔いなくいつでも死ねるってこと?」

 あたしに逢うために生きてきたんでしょう?と試すような視線を投げかけてくる。

「そういうこと…に、なるかな」

 そう答えると、やっぱりナマエはケラケラと笑った。
 何がおかしいんだろう。オレはこの上なく真面目だ。

「オレを殺しても、いいよ」

 もし君がそうしたいのならの話だけど。







 オレは彼女の笑い声を塞ぎこむように深く強く口付けて、それからそのまま、ひとしきり愛し合った。
 喘ぐ声さえまるで笑ってるみたいで、彼女とのベッドタイムは楽しい。
 (ほら、こんなに生きている充足感でいっぱいだ)






 目覚めるとベッドにも狭い部屋のどこにもナマエの姿はなかったけど、代わりに安っぽいコーヒーメーカーがゴボゴボと音を立てていた。
 コーヒーメーカーの前に置かれたマグカップにメモ用紙が敷かれていて、ふざけた字で“おはよう ほーすけ君ハッピーバースデー!”と書かれていた。
 今日は誕生日でも何でもない日だけど。
 でもなんだか。
 まあ、彼女がそう言うのならそれでいいのだ。
 ハッピーバースデーの文字を指でそっとなぞって、そして出来上がったコーヒーをカップに注いだ。
 どうせならこんな何気ない朝に死にたいと思う。
 もしもこのコーヒーに致死量の毒が盛られていたとしても、それはなんて幸せなことなんだろうと思うだろう。
 彼女がオレにくれるのはいつだって、そう。


罪深いほどの。

毒みたいな、愛だから。







SHORT
式日