夏のオドロキ君
「あたし冷え性なのよね。暴力的なまでの」
彼女はバッグから薄手のカーディガンを取り出して袖に腕を通した。彼女は真夏でもバッグにそれを常備している。本人の言うとおりの冷え性で、室内の冷房にはめっぽう弱いからだ。今いるような冷房がガンガンに効いている場所にはまずカーディガンが欠かせない。
ちなみにオレは暑がりなので、これくらいガンガンの方が非常にキモチイイのだけど。
「じゃあ外に出ようか」と提案してやれば、「でも外は暑いじゃない」と返される。
どうやら暑さの感じ方は人並みらしい。
厄介な人だ。
でも、なんだかこの人のこういう厄介なところが面白いというか魅力というか、オレはなんだか、好きなんだよね。いつからMになったんだろう、オレ。
「あーん、寒い寒い!この席、冷風チョクゲキだよ王泥喜くん」
そう言いながら指先までカーディガンにすっぽり隠して、オーダーした温かいハーブティーを啜っている。
コーヒーは身体を冷やす。紅茶も身体を冷やす飲み物なんだけど、ハーブティーには身体を温めるものがあるんだって。前回一緒にお茶したときにそれを教えてもらった。
そういえばそのときと同じ店だったな、ここは。
オレと彼女のふたりで行った事のある場所は、何軒かのファストフード店と喫茶店だけ。
まだ、それだけ。
「なんだか丁度良い、ぬるぅい場所って無いかねぇ」
「ぬるぅい場所、ねぇ」
無いよねー夏だもんねーと観念したように彼女は笑ったけれど、オレにはひとつの名案がよぎっていた。
確かにある。ぬるぅい場所。
夏なのに冷房ガンガンではなく、それでいて暑すぎず、ややじんわりと汗ばむ程度の丁度いい気温の場所が。
ただ、その名案にはひとつネックがある。
オレには彼女をそこに誘う資格が、まだない。
六畳一間のやっすいアパート。
エアコン無し。
でも暑くないんだよ。
びっくりするほど日当たりが悪いからね。
きっと彼女の要望にしっくりくると思う。
オレの部屋に来る?
って言いてぇ。
でもダメだよなぁー。
付き合ってもないのに、さ。
下心丸出しっていうか。
さすがに「え?」って思われるよね。
それってでも、逆転して考えてみれば、付き合ってればいいのかな。
そうか、それだ。
しょうがない。こうなったら、きちんと順序を踏めばいいのか。
オレの部屋に誘う資格をまず、得なければ。
というわけで。
「オレと付き合ってくれませんか!」
「ぶはぁっ、んっと、どういう流れでそういうお話になったのかサッパリ見えてこないよ王泥喜法介くんよ」
びっくりしたらしい彼女は、美しい口元からハーブティをだばだばと零しながら笑った。
ええ、嘘なに、冗談!?とか言いながら赤くなってる。
可愛い。
可愛くてうろたえててなんか笑える。
「あ、ちょっとなんかあたし熱くなってきた。作戦?そういう作戦か?」
「そういう作戦じゃないんだけど」
説明不足の告白で申し訳なかった。
変に誤解されて冗談だととられてしまいそうだったので、オレは改めて数分の時間をかけてその意味を説明させてもらった。
まず大前提としてキミが好きだと。
キミの要望する場所へ連れて行ってあげたいんだと。
そしてその場所とはオレの部屋がいちばんふさわしいんじゃないかと。
でもいかがわしい意味だと思われたくないからまずは相応の関係になりたいんだと。
切々とこの暑苦しい想いを語った挙句に、「王泥喜くんって変な子!」と言われて、彼女は席を立ち上がった。
レジのほうへ向かって、踵を返す。
「え、嘘…」
あまりに唐突すぎて、帰ってしまうのかと思った。
あっさり振られた。そう思った。
けど。
「ハーブティーの茶葉、買わなきゃ」
「え?」
「だって無いでしょ?王泥喜くん家には」
レジの前で振り向いて、赤い顔の彼女が言った。
もうすっかり寒さなんて関係無いみたいに見えた。
ついでだからオレん家までの道すがら、お揃いのカップも買っていこうか。
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過去拍手。
タイトルがやっつけすぎる。
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式日