りゅうちゃんのはなし1
深く深く、底のない、青すぎる海みたいな。
そんな目をしていた。
成歩堂龍一はキャンパスで学生が死んだあの事件のあと、気でも触れたかのように図書館にこもって、法律や裁判の資料をいつも高く積み上げて勉強していた。
バカ丸出しのピンクのセーターも、阿呆みたいに見せびらかしていたペンダントももう身につけていない。
隣に座って横顔を見つめるあたしを、気が散るとでも言いたげに彼は一瞥した。
あのデレデレがこんな冷たい顔をするんだ、と思うと、色んな意味で美柳ちなみの凄さを思い知る。
ついでに少し、泣きたくなってしまった。
成歩堂が彼女の前では「りゅうちゃん」であったことも、あたしはきちんと納得していたのに。
「成歩堂、あんたさ、ピンクよく似合ってたよ」
「…それはどうも」
「でもねあたし、あんたは青だと思うの」
そう言うと、資料に向けていた目を彼はきょとんとこちらへ寄越した。
「青?」
「うん。海みたいな」
深く深く、透き通って、少し悲しい海の青。
あたしはそれを思い浮かべながら、いつの間にかぽたぽたと涙をこぼしていたらしい。
成歩堂は慌ててカバンをさぐっていたけれどどうやらハンカチは持っていなかったらしく、自分の袖口でちょいちょいとあたしの目元を拭ってくれた。
「今度は青にしなよ」
「青いセーター、編んでくれる子がいたら、ね」
苦笑いの彼。
ああ参ったな、あたし編み物は苦手。
「ていうかもう、セーターって季節じゃないよ」
「うん」
「シャツ、とか、スーツがいいかも、だから」
「うん」
「あんた、たまには勉強休みなよ」
「……」
「一緒に、見立てに行ったげるから」
彼は笑った。久々に笑うのを見た。
それは「りゅうちゃん」の笑顔ではなかったけど、
凪いだ海みたいな、優しい色をしていた。
SHORT
式日