りゅうちゃんのはなし2


「だ、誰?」

 フィッティングルームから出てきた僕を見た彼女の第一声がそれだ。見立ててくれた張本人がそうなのだから、僕自身もいささかこそばゆかった。
 危うく、鏡に映った自分にハジメマシテと挨拶をするところだった。
 この青い人は僕か。


「…変じゃない?」

 彼女はぶんぶんと首を横に振った。

「……似合う?」

 今度はぶんぶんと縦に。

 顔がひどく赤かった。それが頭をやたらと振りすぎたせいなのか他の理由なのか、あるいはその両方か。
 彼女の気持ちをなんとなく知っている僕としては、ちょっと落ち着かないわけなのだけど。 でも勿論のこと、似合うと言われたのは素直に嬉しかった。


 見立ててくれたお礼にささやかだけれどコーヒーを奢ると、彼女は満面の笑みでカップを受け取った。
 泡の上にかけられたキャラメルソースを楽しげにスプーンで弄んでいる姿は、何と言うかまぁ、可愛い、と思う。

 はて、この距離をどうしたものだろう。

 自分のために泣いたり笑ったりする彼女に、僕はコーヒー以外の何かを返すべきだろうか。


 彼女はそう、
 僕のことが、好きなのだ、おそらくは。




「成歩堂、」

「んー?」

「りゅうちゃんって呼んでもいい?」

「絶対だめ」


 その気持ちを知っているからこそ。
 僕は彼女の吐き出すように言う「あんた」とか「成歩堂」の呼び捨てが特別のものに聞こえているんだから。
 僕はもう、「りゅうちゃん」である必要はない。


 僕が潔く却下すると、彼女は嬉しそうに笑った。



SHORT
式日