りゅうちゃんのはなし3


 若気の至り、酔った勢い、据え膳喰わぬは云々。
 言い訳ならいくらでもできるのだけど。
 こんなとんでもない事態に陥ったのは、ひとえにあたしが馬鹿だったから、なのだと思う。


 生暖かい唇が重なったときにはもう、金縛りにかかったように動けなかった。
 ぬるり、といとも簡単に舌が進入してくると、ぞくぞくぞくと腰の辺りに鳥肌が立つ。
 正直なところ上手いとか下手とか比べられるほどの立派な経験は無い。
 なのに。
 間違いない、と思う。
 これは上手いキスだと。
 そんなことを冷静に分析しておきながら悲しくなってしまうのはあたしの身勝手か。


 カランといやに大きな音をたてて、テーブルからビールの缶が落ちる。
 まだ3分の1ほど残っていた中の液体がこぼれ出したけれど、慌ててそちらへ手を伸ばそうとしたあたしの腕を、彼は掴んで離さなかった。
 もう一方の手がわき腹のあたりからあたしのカットソーの中にすべりこんで、それとほぼ同時にあたしのもう一方の手が彼の頬をとらえた。
 小気味いいほどの爽快な音が部屋に響く。

「…どういう、つもり」

「……、」

 成歩堂は鳩が豆鉄砲喰らったように酔って充血した目を丸くして、平手打ちされた頬を確かめるように擦った。

 だって、あんたが、そんなことするからじゃない。
 好きじゃないくせに、そんなことするから。
 誘ったのはあたしだった?
 知らない、そんなの、知らない。
 ただキスがひどく官能的で、嘘のできごとみたいだった。
 どういうつもりなの。
 好きじゃ、ないくせに。


 ああ憎き、成歩堂龍一。
 それでもどうしてだろう。
 あたしは、こんなに心乱されておきながらも。
 困り果ててなぜか正座してしまった彼がなんだか可愛いなんて思ってしまうほどのりゅうちゃんバカ。
 惚れた弱みは恐ろしい。

「責任とってよ」

「う、え、?」

「カーペットのクリーニング代」

「あ、ゴメン」

 足りるかな、とかなんとか言いながら本当に財布から千円札を取り出すんだから、救いようがない。
 ビールの染みなんて叩いて乾かせばすぐ取れるのだから。
 あたしは彼から受け取った千円札で、もう一度アルコールを買い足しに行くことを提案した。
 コンビニへの道すがら彼は「ゴメン」ばかりを繰り返して、あまりにうざいので許してあげると言ってやった。

 (最初から許してるのは、解りきっているかもしれないけど)


SHORT
式日