りゅうちゃんのはなし4


 矢張というどうしようもないクサレ縁の友人に頼み込まれて合コンをセッティングした。
 面倒なことこの上ない。
 女の子は誰に声を掛けよう、と考えて浮かんだのは当然、親しくしている彼女。
 いつも図書館で僕の隣の席に意味も無く陣取っていることでおなじみのあの子だ。
 合コンの話を持ちかけると「うわ、めんどくさ」とか言いつつも、頼まれたことはきっちりやってくれるし抜かりなくクーポンなんかも用意しておいてくれて助かった。
 こういうとき僕が不精で気が利かないのを、彼女はよく理解しているらしい。




 合コンはきわめて健全で、可もなく不可もなく楽しく過ごした。

「あんたの友達のさ、あいつ、うるさい」

 帰りの電車を待つ駅のホームで、彼女が刺々しくつぶやいた。
 他の皆はカラオケへ流れて、そして僕らの立つホームはもう終電を待つばかりで、人影もまばら。
 僕と彼女はベンチの裏表に背中を合わせるようにして座っていた。乗る電車が、逆方向だからだ。

「矢張のこと?」

「そう、そいつ」

「悪い奴じゃないけど、イイ奴でもないよ」

「あハハ、何それ」

「キミの友達は可愛い子ばっかだね。特に僕の向かいに居たコ」

 一瞬の沈黙があった。
 沈黙の中、少し遠くのほうから、カンカンカンと遮断機の音が響く。電車が近づいているらしい。

「……成歩堂の向かいって、あたしだったじゃん」

「あれ、そう?じゃあ一番可愛かったのはキミか」

 背中合わせに座っている所為で彼女の表情は見えないけれど、多分彼女はイラついて、イラつきながらも心音を高めているのかなぁと僕は勝手に思った。
 からかって楽しんでるわけじゃないんだ。
 ただ、僕は、

「あんたって最悪」

「なんでさ。褒めたのに」

「可愛いとか簡単に言う、そーいうとこが、最悪」

 キミのそういうところが可愛いなって。
 本当にそう思うんだから。






「…でも…好き、」






 ゴゴゴゴゴと音を立てて彼女の待っていた方の電車が到着した。
 その音が彼女の声を掻き消そうとしたけれど、僕には全部届いていた。届いてしまった。
 聞こえたのか聞こえてないのか、と言いたげに立ち上がって振り向いた彼女に、僕は微笑みかけた。

「…え?悪い、何か言った?」

 聞こえないフリをして。

「何でもないよ」

「そう?」

「うん。じゃあね、また明日」

 僕に声が届いてなかったと思ってホッとしたのか、彼女は気が抜けたように笑って、閉じた扉の向こうから手を振ってくれた。

 じゃあね、また明日。





SHORT
式日