りゅうちゃんのはなし5


 初詣に行こうよ、と言い出したのは彼女の方だった。
 断る理由もなかったし、僕は快く応じたのだが、当の彼女といったら、言いだしっぺのくせに「寒い」だの「遠い」だの挙句の果てには「面倒くさい」なんて言いやがった。
 まったく信じられない。
 なんだってわざわざ初詣だなんて言って僕を呼び出したんだよ。
 会いたかっただけか?そうなのか?
 それならそうで、僕はかまわないけれど。
 いいように振り回しているのはどっちだ。振り回されているのはどっちだ。
 最近さっぱりわからなくなった。
 ちくしょう。
 僕はキミの気持ちなんて、すっかり解り切っているのに。






「何を祈願した?」

「春から仕事、うまくいきますようにって」

「ふーん」

 聞いてきたくせに、素っ気の無い返事。
 いつものことだ。

「キミは?」

 僕が何を祈願したのか彼女がたいして興味を持たなかったように、僕にしたって、彼女が祈願したことなんて本当は興味なんて無かった。
 ただ、聞かれたから聞き返しただけのことだ。

「もうすぐ、卒業だね」

 彼女は僕の質問なんて華麗に無視して、そう呟いた。
 もうすぐ、卒業だね。
 その言葉が乾いた空気に溶け込めずにふわふわ浮いているように思える。
 なんて言ったらいいのか解らなくて、「ああ、そうだね」と答えた。




もうすぐ、卒業だね

ああ、そうだね

どうして僕は、泣きそうなんだろう。




 僕はもっと他にキミに何か言ってやりたくて、でも言葉がどうしても見つからなくて、言葉は無力だなぁと思った。
 弁護士になろうっていうのに、不甲斐ないな。
 でも、本当に、キミの前では特にそうなんだ。
 僕は無力だなぁ。



 相変わらず寒い寒いと繰り返し彼女が言うので、手を握って、つないで帰った。



SHORT
式日