おかえりりゅうちゃん


 弁護士・成歩堂龍一が法廷に復帰するという、ごく短文の記事が新聞の片隅に載って数日後のことだった。
 事務所に一通のハガキが届いた。
 それは絵ハガキで、向日葵の絵の、よくある暑中見舞に使われるポストカード。
 宛名のほかには差出人の名前もなく、たった一言だけメッセージが添えられていた。





「おかえり」






 やさしい文字。

 この文字に見覚えがあっただろうかと記憶をさぐる必要もなかった。
 僕の頭の中では、「おかえり」というその台詞が、しっかりと彼女の声で再生されていたから。
 電話でもメールでもなく、わざわざハガキで寄越すというその微妙な距離のとりかたもまた彼女らしさを示していた。


 あれから何年経ったのだっけ?
 7年、いやそれ以上会っていないはずだった。
 大学のキャンパスに置いてきてしまった、たくさんの、彼女と僕の思い出。
 たくさん話をしたっけな。くだらないことも、その逆も。
 情けない姿も見せたっけ。
 駅のホーム、背中越し、彼女は僕を好きだと言った。
 僕は聴こえない振りをした。
 ああ、僕は結局、言わなかったのだっけ?
 彼女に。

 僕も、あの頃、キミのことを。


 若かったな、馬鹿だったな、
 彼女ははぐらかす僕の態度にきっと傷ついていたことだろう。
 今の僕だったら絶対に...。絶対にそんなこと。




 僕はクローゼットを勢いよく開け、ぐっちゃぐちゃの衣類の中からそいつを引っ張り出し、オフィスで書類整理をしている男に投げつけた。

「オドロキくん!おつかい頼む!」

「...は?」

 僕の放り投げた青いスーツを反射的にキャッチして、オドロキ君は目をぱちくりと瞬いた。

「成歩堂さん、これ、」

「クリーニング出してきて。急ぎだって言ってね」

「また着るんですか、これ」

 とーぜん、と僕が笑うと、オドロキ君も少し笑って、わかりましたと言ってクリーニング店のカードを探しはじめた。
 あれは、そう、僕の原点でもあり、僕と彼女の思い出の一端でもある。それはそれは大切な。



 あのスーツを着て彼女に会いに行こう。
 そう思った。
 僕らはちゃんと、大人になっただろうか。
 僕は心からの素直な気持ちで彼女に言えるだろうか。








 ただいま。







 やっとこの日が来たよ。








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5発売記念、なるほどくん弁護士復帰を祝して!


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式日