撃ちあげたら撃ち落とせ!



 このところ大分長くなった太陽の光もようやく落ちて、生温くも心地よい風が体中にまとわりつく。
 虫の声が聞こえ始める。
 夕闇の散歩は私と龍一さんの日課になりつつあった。いつも、会話はあまり無い。
 あったとしても、みぬきちゃんやホースケ君の話ばかりになってしまう。
 でも無理やりに話題づくりに気をもむ必要もなかったし、時々遠慮がちに指先を触れ合わせたりだとか、隣を歩くお互いの姿をちらりと見遣ったりすることが、私たちにしてみれば会話のようなものだった。
 この人はきっとこの先も愛を語ったりなんてしないだろう。そんな彼を、私は大満足としてにんまりと見つめるのだ。

 いつも散歩の折り返し地点にしている河原の橋のそばまで来たところで、パァンという軽快な音で私たちはふと足を止めた。
 土手の下を見下ろすと、ぎゃあぎゃあと騒いでいる人影。夏にはよくある光景だ。
 中高生のヤンキーがロケット花火を飛ばしてはしゃいでいるのだ。

「おー、やってるやってる」

「ふーん、花火かぁ。……ナマエちゃん、ケータイ持ってる?」

「うん?」

「ちょっと貸して」

 龍一さんはひょいと私の手のひらから携帯電話を取り上げて、慣れた手つきで操作してどこかにダイヤルした。
 彼の悪い癖なのだけど、あまりケータイを携帯しない。
 どーせ滅多にかかってこないし、という言い分もよくわかるけれど、仕事のこと等で彼に連絡をとるホースケ君は、そのことでしょっちゅうプリプリと怒っていた。

「もしもし、みぬきー?」

 何コール目かで、龍一さんは電話先の相手の名を口にした。
 まぁ、彼がわざわざ電話をする相手なんてのは初めから想像がついていたんだけど、やっぱりみぬきちゃんのようだ。

「うん、そう、いま人情公園の先の土手なんだけど。ちょっとみぬきも出ておいで。…ん?ああ、いいよオドロキ君も一緒で」

 一方的にみぬきちゃんとホースケ君を呼びつけ、そしてある「おつかい」まで頼んだ彼は、通話を切ったケータイを私の手の中に戻しながら楽しそうに笑った。







「ねぇちょっとコレ、買いすぎたんじゃ」

 荷物もちを押し付けられたホースケ君の、腕の中にぎうぎうと詰め込まれたしろものを見て思わず不安になってしまった。
 4人でやるには明らかに量の多すぎる花火の山だ。

「夏といったら花火!これくらいドカーンとやらないとですよ!」

「…ってみぬきちゃんが言ってきかないんですよ」

「はっはっは、さすがみぬき」

「ドカーンの意味が違うよね、たぶん……」

 龍一さんがみぬきちゃんとホースケ君に頼んだ「おつかい」とは、駅前のスーパーで花火を買っておいでというもの。
 どうやら河原のヤンキーたちに触発されたらしい。
 普段アクティブとは程遠いくせに、ときどき突発的にこういうことを言い出すのだ、彼は。



 きゃあーと歓声を挙げながら、みぬきちゃんがいち早く土手を駆け下りていく。
 「危ないから走るなよ」とかなんとか口を尖らせながらも、ちょっと楽しげに浮き足立つホースケ君がそれを追う。
 微笑ましい。ふたりを見ていると、本当に自分の子供みたいに愛おしい気持ちがこみ上げてくるから不思議。
 それはたぶん、龍一さんも同じだと思う。

「おーい、パパー!」

「ナマエさんも!早く早く!始めましょうよ」

「うん、いま行くよー!」

 ちらりと彼の顔を見遣ると、私が想像していた通りの顔で微笑んでいた。
 手を握る。
 少しだけ、汗ばんでいる手。
 子供たちがはしゃぐ声。
 赤々とする火の色と、火薬の香り。
 ああ夏って暑いだけじゃなくて、こんなに素敵な季節だったのか、と私は思った。

「さぁ始めようか、毎年恒例・成歩堂家花火大会」

「…毎年恒例だったっけ?」

「今年から、恒例にすればいい」

「あははっ、そうだね」

「来年も再来年も、ずっと…さ、続けようよ。みんなでさ」

「うん、いいね。やろうね」

「…ちょっと遠まわしすぎたかな」

 龍一さんが不意にそんなことを呟いて、いまいち意味を捉えなかった私は思わずきょとんとしてしまった。
 少しだけうーんと彼は唸って、頬を掻きながら「つまりこう言いたいんだけど」と言い改めた。





「一緒にいようか。みぬきと、君と、僕と。あ‥あとオドロキくんもか」

「へ?……う、ん?」

 やっぱりきょとんとする私を見て深く深くため息を吐いて、そして呆れたように眉を下げてケラケラと笑った。

「君って時々異様に鈍感だよね。ずっと一緒に居ようって言ってんだけど。ああ、まぁいいかこんなこと言葉にしなくたって。あー恥ずかしい」

 恥ずかしい、と言いながら彼はみぬきちゃんとホースケ君の待つ土手の下にのんびりと下りてゆく。
 私も慌ててそれを追いながら、今の会話をあらためてゆっくりと咀嚼してみた。
 (え。うん、つまりその意味って)
 ようやく意味を理解したころ、顔が熱くなる。
 彼は私を鈍感だと言った。
 確かに鈍感だったかもしれない。でも私は悪くない。普段愛を語らないようなヤツが急にそんなことを言い出すのがいけないんじゃない!
 ああやだ、どうしよう。
 あなたがそんな風に頬を染めると、私まで恥ずかしい。


「龍一さぁん!」






 だいすき!と叫んだら、河の向こう岸にいる人からも冷やかしの口笛が飛んできた。





・・・・・
thanx 1st anniversary!
みかさんのセリフリクエスト
「一緒にいようか。みぬきと、君と、僕と。あ‥あとオドロキくんもか」

SHORT
式日