ミラクル仮面になりたい



部屋は綺麗に保っているつもりだったが、ウォークインクローゼットの奥となるとさすがに埃っぽい。
そこに自分で置いたものを、私はすっかり忘れていた。
まだ幼いころ父に貰った、外国製の宝飾品箱。女の子が好みそうな、おとぎ話に出てくるような装飾の箱だ。
すっかり埃をかぶってはいるが、メッキはまだ輝いていた。
何を入れたのだったか定かでない。でも、おそらくは、あまり目の届くところには置いておきたくなかったから、こんなところにあるのだ。



意外とずっしり重たいフタを開けると、そこにはあの日の私が眠っていた。
父や友人たちと写っている幼いころの写真が何枚も入っている。それは私がずっと目を背けてきた、幸せすぎる過去だった。
どの写真の自分も笑っているのが気恥ずかしい。
こんな頃が、私にもあったのだ。


写真を一枚一枚取り出すと、一番底には数センチ四方の正方形の紙があった。
否、紙というのは正確ではない。正確にいえば、それはシールだった。
ホログラムできらきら光っている、テレビヒーローのシール。昔流行った、チョコ菓子のおまけについてくるやつだ。
(ちなみに私はそのチョコ菓子を買ってもらったことがない。家にはいつも海外土産の菓子が何かしら置いてあった)
しかもあろうことかそのシールは底にべったりと貼り付けられているのであった。
このアンティークの宝飾品箱に。べったりと。
そして察するに、それをそこに貼り付けた犯人は、どうやら自分自身でしかありえなかった。
当時の自分を恨みたい。

おぼえている。嬉しかったのだ。
友人に、そのシールを貰ったことが。





「…?これを私に?」

「うん、あげる!」

「別に要らな…」

「今日、かばってくれたお礼!」

「でもこのシール、集めているんだろう?」

「うん、まぁ…それね、やっと出たレアシールなんだ」

「やっぱり貰えない。というか、要らない」

「エンリョしないでよ。今日ね、ミツルギすげーかっこよかった!ミラクル仮面みたいだったから!」






ミラクル仮面は困ってる人を絶対見逃さないんだぜ、と彼は笑った。






「怜侍さん、何座り込んでるの?…あっ、ああああ!」

「っ!!ナマエ、急に大きな声を出さないでくれるか!心臓に悪い!」

「これってミラクル仮面シールじゃない!?ミラクル仮面チョコの!うわぁ懐かしい!」

後ろからひょっこり覗き込んできて奇声を挙げた彼女は、私の異議も聞いていない様子で目をキラキラ輝かせた。

「キミはこういうのが好きだったのか?」

確かに流行ってはいたが、女の子には女の子で別のブームがあったように思う。
どちらかといえば女の子たちのほうが精神的に大人びていて、ミラクル仮面シールに群がる少年たちを鼻で笑っていたようなものだ。
(かく言う私も、まったく興味が無かったが)

「私の初恋の相手は、ミラクル仮面なのよ」

「ほう、それはそれは……非常にコメントしづらいな」

「あら、妬いた?」

そういう意味ではないぞ、と反論をしようとする前に、唇を塞がれた。
不意のキス。
こうしてナマエに簡単に黙らされてしまう自分がやや情けない。

「大丈夫よ、怜侍さん」

「何がだ」

「今の好きな人も、ミラクル仮面みたいな人だから。浮気の心配はないわ」

「それは私のことを言っているのだろうか」

「さーって、片付け片付け!急がないと、もうすぐ私の荷物が運ばれてくるんだから」

ナマエはほんのり赤く染まった頬を隠すように踵を返した。
そうだった。もうすぐこの部屋に彼女の荷物が運ばれてくる。
ふたりで生活するためだ。
そのために私は自分の部屋を片付けていたというのに、本来の目的を忘れるところだった。





一緒に住んで、もっと近くで触れ合って、
それでも私は彼女の思い描くヒーローのようにいられるだろうか。
自分がヒーローだなんて思ったこともないし、くだらないことだと思う。
それなのに、くすぐったい。
嬉しいからだ。



いいさ。
キミが望むなら、ミラクル仮面にでも何にでもなるよ。



(私が悪の組織にさらわれたら、助けに来てね!)
(安心しろ、悪の組織は必ず有罪にしてやる)
(そーいう意味じゃないんだけど…)




SHORT
式日