銀色野原
銀色の草原が目の前に広がっている。
そよそよと風に揺れて、光を乱反射させる。
鼻先をくすぐる、石鹸に似たやさしい香り。
草原を駆けてゆく少年は「おいでおいで」と手招いて、私を眠りに誘った。
眠りの世界の中で、銀色野原を、怜侍さんと手を繋いで駆けた。
小さくて熱い手のひらだった。
こんな幼いやさしい気持ちがあるなんて。
珍しく泥酔した状態で帰ってきた怜侍さんは、私に抱きつくような格好でそのまま眠ってしまった。大きな身体の彼をベッドに運ぶなんてこともできなくて、私は観念して愛しい彼の髪をなでていた。
美しい、銀糸のような髪。
開けっ放しにしていた窓から流れ込んでくる風がその髪をそよそよと揺らして、それを見ているうちにどうやら私も眠ってしまったらしい。
そんなわけで、小さな怜侍さんと手を繋ぐ夢なんてものを見ていた。
次に目を覚ますと、怜侍さんはやっぱりそのままの格好で眠りほうけている。
私の胸元に顔を寄せて眠っている怜侍さんは、まるで少年みたいに幼い顔をしていた。彼のこんな姿はなかなか見ることができない。
第一、人前で眠ってしまうだなんて、そんな無防備になること事態が稀なのだから。(成歩堂くんと矢張くんと飲んできたのが、よっぽど楽しかったのかな)
「いーなぁ、男同士って」
3人の噛み合わない無茶苦茶な会話を想像していたら、思わず笑いがこぼれてしまった。
「…ム……?」
「あ、起こしちゃったかな」
「ナマエ?」
「おはよう怜侍さん、て言っても真夜中だけど」
「ム…なんだ、酒臭いな…」
怜侍さんは身体を起こすのも億劫といったようすで、私の胸元にもたれたままむにゃむにゃと呟いて顔をしかめた。
寝顔も可愛かったけれど、やっぱり眉間にシワを寄せている彼もすごく好きだな、なんて思う。
「それは私のセリフです。そーとー酔っ払ってるって自覚無いのね」
「ああ、いや、思い出した…。私はワインを飲んでいて、成歩堂はビールで、矢張はカクテル…。うム、そうだ」
「飲んだものは聞いてないんだけど」
「各々の酒を、味比べしていた。随分飲んだ、ような気がする」
「はぁ。つまりワインとビールとカクテルをちゃんぽんしたわけか…」
昔話にも花が咲いたことだろう。そのテンションが相乗効果で酔いに拍車をかけたことは容易に想像がつく。
まったく呆れるというか、普段は利発な人が時々こういう阿呆なことを突発的にすると怖い。限度を知らないのだから。
成歩堂くんにも矢張くんにも、あとでガツンと注意しなきゃいけない。
「そのあと、草原で」
「え?」
「草原で、ナマエに会った。小さなキミと手を繋いだ」
怜侍さんは懐かしげに目を細めて、くつくつと喉で笑った。
「夢、かな……」
最後にそう呟くと、また瞼はどっしりと落ちて、寝息を立て始めてしまった。スゥスゥと再び少年の顔になる。
なんなんだろう、この生き物は。呆れてしまうほどに愛おしい。
どうやら今夜はこのソファから動くことは許されないらしい。
仕方がないので、私はまた彼の髪を撫でた。
それじゃあ、おやすみ。
夢の中でもう一度逢おう。
SHORT
式日