10*愛は時々哲学めいている


とある事情で入院したボクのお見舞いで、先輩と彼女が病院の廊下で鉢合わせしたらしい。


「あー。はいはいはい。あなたがあれね。噂の"カカシ先輩"」

「そういうきみは噂の"クルミさん"」

「はじめまして」

「こっちははじめましてって気はしないんだけどね」

「どうして?」

「ま、色々とね」

「やだもしかして口説いてる?私のこと好きになっちゃったりして?」

「あっ、それは全く無いから安心してちょーだい。好みじゃないし」

「はっきり言うのね」

「きみみたいな相手にはね」

「あら、私のことどんな女だと思ってるのかしら」

「かわいー後輩をたぶらかして金品巻き上げた詐欺女?」

「失礼ね。心を入れ替えたのよ。水商売辞めて、お金もちょっとずつ返してるし」

「どうやらそうらしいね」

「それにヤマトさんのこと本当に好きだし」





愛は時々哲学めいている





「きみに会ったら是非訊きたいと思ってたんだけどさ─」

「えっ、スリーサイズ?経験人数?」

「そもそも何であいつをカモに選んだの?」

「ボケを無視しないで欲しいわ。あー…、それはね。下忍さんたちにうまくヨイショされて奢らされてる場面を見たことがあって、お金持ってるけどチョイ抜けてる人なんだなって思って」

「…なるほどね。で、引っ掻けてみたらまんまと金づるになってくれたわけだ」

「私の想像をはるかに越えるお人好しだったのよねぇ。…あっ、でもそれだけが理由じゃなくて」

「?」

「顔も好みだったから!」

「へぇー」

「黒目がちで、可愛くない?」

「お、おぅ…?」

「目元なんかは童顔系なのに全体から溢れるオッサン感が面白いのよね。あと、あのヘッドギアも邪魔でくそダサいけどその微妙なセンスがなんかクセになるっていうか」

「ねぇ誉めてないよねそれ」

「誉めてるし。それにねー、流行りのグルメとかブランドとか私のためにリサーチしてくれるのがさ、必死すぎてキモいのを通り越していとおしいの」

「はぁ…」

「なんかそれってすっごく、すっごく、『あいされてる』、みたいじゃない?」

「………」

「私、愛されてるなぁって生まれて初めて思えた」

「…はじめて?…そんな、ことで?」

「そうよ。そんなことで。だってお金で売ったり買ったりする愛しか知らなかった。…ヤマトさんにはお金を全部返して、いちからまっさらな気持ちで向き合うって決めたの!」

「…クルミさん。きみは、オレが思っていたよりは、まぁまぁマシな方の詐欺女かも」

「そーでしょそーでしょ。惚れてもいいわよ」

「それは遠慮しときます」




病室に入ってきたカカシ先輩はボクを見ると、本当に不器用なのは彼女のほうだったのかな、と笑った。


式日