09*ありがとうとさようなら


その綺麗な顔に大きくきざまれたアザを見て、思わず抱きしめていた。




「別れるから」

「…ボクと?」

「あなたとも、あのホストとも。もーおしまいにするの何もかも。ってあいつにそう言ったらね、このザマ」

「顔のアザ、そいつにやられたの?」

「……」

「殺そうか」

「あのねぇ。忍ってすぐそれだから嫌。…身から出た錆なのよ、これは」

「けど、ボクは許せない」

「ヤマトさんには関係無いの。あんなクズに肩入れした私が悪かったんだから」

「それでも殺してやりたい。許せるわけない、きみに、こんな…」

「ヤマトさん、」

「ボクは―」

「そーゆーのウザいのよ」

「っ、」

「…でも。ありがとう、ね。
こんなクズ女にそこまで言ってくれて」

「クルミさん」

「ほんとありがと」

「…ボクら、別れる必要、あるかい?」

「必要ある。身綺麗にして、まっとうな仕事することにしたの。それで得たキレイなお金で、あなたから騙し取ったお金やプレゼントの分を返したい。時間かかるかもだけど…」

「そんなの返さなくていいよ」

「ううん、返す」

「でも!」

「ああもう、うるさいな!返すったら返すの!それまで黙って大人しく待ってなさいよ!」

「…え、待って、って…?」

「全部返してクリーンな状態にならなきゃ、病的にバカでウザくてダサいあなたの彼女にふさわしくないじゃない!」

「………クルミ、さん…」

「意味わかるわよね?」

「ボクは……!いくらでもきみを待つよ、いくらでも…!!」

「………少しの間、さよならよ」







ありがとうとさようなら







「今度は嘘じゃ、ないんだね」

「さあ、どうかなぁ」

「きみを見ればわかる」

「ふーん。そういえばさっき言われた以外にもう一つ吐いてた嘘があったの、気付いてた?」

「もう一つ?」

「あのねぇ私」

「……」

「実はね」

「……」

「……………やっぱ内緒にしよっかな!」

「わー!気になって眠れなくなるから!!」




彼女はくすくすと笑うと、吐息が耳朶にかかるほどの距離で囁いた。
「本当は料理すごく得意なの」と。
ボクは今なら、鍋一杯のカレーもイッキ飲みできると思います。


式日