※現パロ


電気も付けずにベッドの上に膝を抱えて座りこむ。時計を見れば深夜三時を少し過ぎたところだった。
街の明かりがぼんやりと差し込む部屋は薄暗くて、心の中をからっぽにしてしまうようだ。最後に切ったのはいつだったか、足の指の爪がみっともなく伸びていることに意味もなく苛立ちを覚える。

隣には寝息すら立てずに死んだように眠る銀色。
誰かと一緒に眠ることは自分の眠りを妨げるという話を聞いたことがある。自分の呼吸のタイミングを乱されるのらしいけど、こんなに静かに眠る三成とではそんな心配いらなそうだ。ああ、だけどそれじゃあ、どんなに肌を寄せ合って、まどろみの底に二人で落ちて行ったとしても、私の心はどこまでも寂しいままだということか。一緒にいるのに私はただただひとりぼっちだ。

からっぽの私の肺の中は同じようにからっぽで吐く空気すらないのか、溜め息すらでてこない。チクタク、と響く時計の秒針が私を急かしているようだ。けれど嫌に目が冴えてしまっていて、とてもじゃないけど眠ることなんて出来そうにない。
こんな夜が続くのはもう何日目になるんだろう。

ゆっくりと瞼を閉じれば、真っ黒な世界が眼前に広がった。まるで体が闇の中に溶けてしまったような錯覚。こんなにも眠ることに悩むようになったのは、間違いなく三成と付き合い始めてからだ。眠っている三成は見ていないと、本当に呼吸をすることを忘れてしまうんじゃないかと不安になる。私が眠っているうちに、三成はこのまま目が覚めないんじゃないかなんて、あまりにも稚拙な考えが頭から離れない。

体を重ねているときですら、三成の体のあまりの細さに、このまま私を置いていってしまうんじゃないかって泣きたくなる。繋がる体と体の熱に、いっそこのまま一つになれたらと縋ってしまう。
隣にいることすらこんなにツラいなら、彼を穿つ刃にでもなればよかった。あまりの優しさに刀を持つ手が震えてしまう前に、二人の未来なんて掻き消してしまえばよかったんだろう。

何度も頭の中で考えてははじき出す答えを、私は今日も小さく小さく噛み砕いては、声にすることもなく飲み込むんだ。

「……なまえ」
「あ、起こしちゃった?」
「いや、かまわない」

暗いこの部屋でも、はっきりと私を見据える彼の瞳に胸の奥がギュッと苦しくなった。盲目的なまでのこの恋はいつかきっと私の身を滅ぼしてしまうんだろう。
廃れた硝子玉がパリンと割れてしまうように。そうと知っていながらも私は腰に回された三成の細すぎる腕をほどくことは出来ない。

三成と出会う前にだって私の生活はあったはずなのに、今となってはそんな生活は思い描けさえしない。病気だと言われたって納得してしまいそうなこの恋を、人は哀れだと言うんだろうか。
ああ、私はゆるやかにこの恋に殺されている。

「ねえ、三成」
「なんだ」
「夜だね」
「……そうだな」

訝しげに眉をひそめる三成。当たり前だろうと言いたげなその表情に思わず笑いがこぼれる。
都会の空気で濁った空には今夜も星が光っているんだろうか。誰に見られるでもないくせに、燃え尽きるまで輝こうなんて、なんて健気で、あまりにも愚鈍だ。私はきっとどう足掻いたってそうはなれないに違いない。

繋いだ私たちの手は互いの首を絞めるような鎖になって、遠くへ行こうとする足を戸惑わせる。鍵のかかっていない鳥籠ですら、今にも死んでしまいそうな私には逃げ出すことは困難で、劇薬を飲み干す自殺のように愛という名の甘味に浸って現実から目を逸らすのだ。
間違いにはずっと前に気付いていた。会わなければよかったと何度も嘆いた。しかし、それでも私はこの愛を渇望してしまった。

「三成、愛しているよ」

必死に吐き出さないようにと押さえ込む涙と別れの言葉がチクチクと私の体を蝕んでいる。





他力消滅願望


back : top