愛の必要性と僕らのずるさについて(爆豪)
真新しい白のケトルが、ピューとお湯が沸いたことを知らせるように鳴る。ジージーと低い音を立てていたトースターが、チンと甲高い音を立てる。
朝特有の騒がしさ。バタバタと出勤の準備をしながら、ふとテレビの前で足が止まる。意味もなくつけていた朝の情報番組は討論コーナーへと変わっていて、今日の議題は『ズバリ! ヒーローに恋愛は必要か!』なんてテロップがデカデカと掲げられている。
──ヒーローだって一人の人間ですから、誰かを愛する資格はありますよ。
──しかし、民間人を守るという使命を持っているのだから、誰かを特別視するのはどうかと思いますけど。
──仕事とプライベートは別ですよ。守りたい人がいるから強くなれることもある。
訳知り顔で話し続けるゲストの芸能人やアナウンサー、番組内でご意見番などと呼ばれる評論家。彼らの声が滑るように身体を通り過ぎていく。ふつふつと込み上げる苛立ち。キッチンでは相変わらずお湯の沸いた甲高い音が響いている。
心の奥底で何かがプツンと切れそうになる。それと同時に、テーブルの上から乱暴に掴んだリモコンで、テレビの電源を落とした。
「外野が勝手に語るなよ」
真っ暗な液晶に映る情けない自分の表情。こんなことに過剰に反応している方が惨めだと分かっているのに、心がどうしたってついてこない。
だって、まだ別れて三日だ。三年間付き合って、たった数分の喧嘩であっさりと終わってしまった。喧嘩を始めたのは私で、一方的に別れようと突きつけたのも私なのに、本当に私たちがもう、元恋人というだけの他人になったことを受け入れられないのも私だった。
▽
朝の混みあった電車内。目の前のおじさんが、通勤初心者かと疑いたくなるほど、空気が読めずに堂々と広げた新聞の一面。そこに印刷された元カレの名前と写真から、無理やり目を逸らした。
人気ヒーローの名前は当たり前のように街の至る所で現れて、易々と私を傷つける。勝己は今日もどこかで誰かを助けて、今日もどこかで誰かに感謝されたのだと知ってしまう。
勝己は、私が会社でどんな仕事をして、誰の代わりに怒られて、その理不尽を仕方ないと押し殺すために何杯のコーヒーを流し込んだのかも知らないのに。
その差が、耐えきれなくなってしまったのだ。あの日、突然に。
勝己と別れることになった日は、三週間ぶりの彼の部屋への泊まりでのデートだった。週の半ばのこの日に合わせて休みを取るために、前の週から仕事を調整した。なんとか残業をせずに退社し、そのままの足で向かった勝己の部屋で二人で夕食を作った。
出来上がった料理をテーブルに並べて、さあ食べようかというタイミングで、スマホを確認した勝己が「あ」と声をもらした。
「明日、駄目んなったわ。朝の新幹線乗っから」
それはつまり、私がどんなに待ったところで勝己はもう明日は帰ってこないということで、その上で、朝までは泊まっていくか、あるいは夕食を食べたら帰るかという判断を委ねられたという意味だった。
それくらい「どーする?」まで聞かれなくたって分かってしまうくらいに、よくある出来事になってしまっていた。
だから、いつもだったら、勝己の迷惑じゃなければ朝までは一緒にいたいと精一杯のワガママで我慢した。勝己だって、急に呼ばれるくらいの任務前なのに、私を側にいさせてくれるんだからって自分を納得させた。
だけど、この日はそうやって上手く自分を制御することが出来なかった。それは、休みを取ることについて、たまたま機嫌の悪かった上司に嫌味を言われたせいかもしれないし、ミスをしておいて定時に帰ろうとする後輩の尻拭いをしたせいかもしれない。
そして、そんなこと何も知らないで、勝己が今日の埋め合わせなんて、いつでも出来ると思っているように感じてしまった。
黙り込んだまま何も言わない私に、勝己が苛立ったように舌打ちをした。私に怒っているというよりも、こんな状況になってしまったこと自体への苛立ちという風ではあったけど、つい肩が跳ねる。
「仕方ねェだろ、ヒーローなんだから」
ヒーローなんだから。その言葉が面白いくらいに私の中で何度も反響した。勝己がヒーローとして活躍するのを疎ましいと思ったことなんてなかった。
ただ、ヒーローだからと盾に取られたら、私が何も言えなくなることを知ってて言っていることが嫌だった。
そして、勝己がヒーローである限り、これから一生、こうやって私は振り回され続けるだけなんだと思ったら堪らなかった。
「なにそれ、仕方ないってそれは勝己の都合じゃん」
「は? じゃあ、どうして欲しいんだよ」
「どうして欲しいとかじゃなくてさ、私のことも考えてよって言ってるの」
よくないと思っているのに言葉は止まってくれなくて、自分の中にこんなにもたくさんの不満が募っていたことに驚くくらい溢れ出していった。
だって、私は本当に今日が楽しみだった。この三週間であったこと、何を話そうかと浮かれていた。少しでも勝己と長く過ごせるように頑張った。
行くなと言ったわけじゃない。ただ、その気持ちを汲んでくれるだけで十分だった。ヒーローの恋人っていうのは、そんなことさえ願ってはいけないんだろうか。
「いつでも好きに休めるような、てめェの仕事とは違ェんだよ」
完全に売り言葉に買い言葉だった。それは自分の発した言葉に、驚いたように目を丸くしている勝己の表情からも分かる。
だけど、ただスイッチをひとつオフにするだけのような容易さで、あんなにも猛っていた心が急激に冷めていく。
「今のは……」
「分かってるよ、本気じゃないんでしょ」
勝己の瞳に安堵の色が宿った。そんなところにさえ、私たちはあまりに距離が空いてしまったのだと思う。勝己は私が今、何に傷ついているのか分かっていない。そして私も、そのことを言葉にしないまま分かってもらいたいと思うことを止められない。
こうして同じ部屋にいて、たとえ喧嘩だとしても言葉を交わしているのに、私たちはどこまでもすれ違い続けている。噛み合わないまま食い違い続けて、もう戻れなくなる。
「本気じゃなくてそんなこと言えちゃう時点で、私たちもう無理なんだよ。ごめん、別れよう」
勝己が驚いたように目を丸くして、私の腕を掴もうと手を伸ばした。その手の甲を思いっきり叩き落す。ぴしゃり、と響いた乾いた音。そこまで拒絶されるとは思っていなかったのだろう勝己がたじろいで、その隙に荷物を手に部屋を飛び出した。
部屋を出る直前に見たテーブルの上のチーズのペンネは、すっかり冷めきって固まり始めていた。もう、どうしたところで美味しくは食べられないだろう。
△ ▼ △ ▼
一日の仕事を終えて帰った部屋は、当たり前だけど朝と何ら変わりはない。別に期待していたわけではないけど、勝己が部屋の前で待っているなんてこともない。だって、ダイナマイトは今、他県での任務を終えたところなのだから。
今日の昼間のニュースに映った勝己の姿。あの日、勝己が呼ばれたのは、この件だったのだろうと思いながら見た映像は、それなりに大規模な事件のようだった。敵を寄せつけない強さと、ヒーローらしからぬ罵声。勝己に怪我がなかったことには安心しながら、この件が私たちの別れの原因になったことについては、なんの感慨もわかなかった。
そうやって過ごした今日一日は、私の気分になど関係なく、とてもいい日だった。難航していた商談は上手くまとまり、上司には褒められ、出張から帰ってきた同期に貰ったお土産は美味しかった。
勝己と付き合っていようが別れようが、良いことも悪いことも関係なく私の日常には訪れる。胸にポカリと空いた喪失感も、そうした日常に押し流されて、いつしか気にならなくなるんだろう。
だけど、今はまだ瞼を閉じると繰り返し思い出してしまう勝己のせいで夜は上手く眠れない。
勝己の部屋に泊まる日に眠れないと言うと、面倒くさそうに「黙って目を瞑っとけ」と、素っ気なくあしらわれていた。だけどそのくせ、最近あった出来事、たとえば切島くんたちと飲みに行ったときの話とか、雑誌の対談で緑谷くんに会ったとか、事務所で聞いたのだという他愛ない話とかを語って聞かせてくれる。
そういうときの声は、いつもより少しだけ低くこもっていて、それを聞いていると自然と眠ってしまっている。勝己の声に抱かれるみたいに眠りにつく夜が、私は何よりも好きで、眠れなかったくせに急に眠ることが勿体なくなる。夜なんて明けなければいいと無邪気に願っていたあの日々。
それなのに、勝己と別れただけでこんなにも夜が長いことに驚かされる。浅い眠りと覚醒を繰り返す夜。なんとか明るくなった朝に込み上げた安堵と絶望を吐き出しながら、いつもより早く支度を済ませて乗った電車。
満員には程遠い空いた車内で、目の前に座ったおじさんの広げた週刊誌。それを見て、現実っていうのはなんて残酷でままならないのだろうと恨まずにはいられなかった。表紙を飾る『ダイナマイト! 熱愛発覚か!』の文字からは流石に目を逸らせない。
そして結局、見なければいいのに調べずにいられなかった。相手は最近よく名前を耳にする女性ヒーローだった。ビルか何かの物陰から撮られたと思う写真で、二人は親しげに寄り添いあって飲食店から出てきている。今までも何度かあった勝己の熱愛報道と似たような内容で、そのどれもが都合のいいように切り取られた悪意あるものだったから、今回もすべて真に受けているわけじゃない。
だけど、彼女がヒーローであること。それを意識せずにはいられなかった。
そんな私の気分が悪い空気を引き寄せているのか、あるいは単にそういう巡り合わせだったのか、今日は一日最悪な日だった。朝から次から次へとトラブル対応に追われて、やっと帰宅した部屋の前に勝己はいた。
「……遅せェ」
「……何してんの」
「てめェを待ってたんだろ」
不遜な物言いのわりに、どこか気まずそうな勝己の表情。別れようと言った私の言葉が伝わっていなかったというわけではないらしいと思いながら、元カレを部屋に入れることと、人気ヒーローと家の前で喧嘩をして騒ぎになること、どちらが面倒くさいか天秤にかけて仕方なく勝己を部屋にいれる。
「ケトル、新しくしたんだな」
「前の焦げ付いてたから……あの日、こういうことにならなければ、そんな他愛もない話をするつもりだったんだよ」
部屋に入れてしまった以上、勝己をソファに座らせてキッチンで紅茶を淹れる。様子をうかがうようにこっちを見ていた勝己に嫌味を返せば、少しだけ眉根がぴくりと動いて、だけど言い返されることはなかった。
その殊勝な様子に、勝己なりに今日はあの日のこと謝りに来ているのだろうとは分かる。
そう、あの日、私を置いて仕事へ行ったことを謝りに。
私はもう私たちは別れたとは思っているけど、勝己がそうではないのは、部屋を飛び出してから何通と届いたメッセージや電話で分かっている。それに、別れるにしろ互いの家に置いてある荷物もあるのだから、一度くらいきちんと話し合わなくてはいけないと思っていた。
だけど、それはもう少し心の整理がついたところでするつもりで、こんなに早く勝己の方から家までやってくるのは予想外だった。持っている荷物の量からして、あの他県での任務から帰るなり、そのまま来たのだと分かってしまう。
それだけ必死だったのかな、と考えそうになって慌てて首を振る。紅茶の注がれた二つのマグカップをテーブルに置いて、私も勝己の隣に腰を下ろす。互いに顔を合わせようとしない沈黙がしばらく続いてから、勝己がすうと息を吸った。
「あれ、誤解だからな」
「……それを私に言う必要ある?」
別れているのに、まではあえて口にしなかった。
考えるまでもなく分かる、今朝見たばかりの勝己の熱愛報道。なるほど、あんなものが出てしまったから急いで駆けつけてきたのか。鼻で笑ってしまいそうになる衝動になんとか耐えて、淹れたての紅茶を一口飲んだ。
「こんなん信じられたら、取り返しつかなくなんだろ」
「これがなければ、取り返しがつくと思ってたの?」
付き合ってから初めて、いや、もしかしたら生まれて初めて出したような冷淡で鋭利な声。その声が示す明確な拒絶に、勝己がわずかに怯んだ。
ほら、私たちはこんなにも違う。私はもう戻れないくらいこの関係は終わりきったと思っていたのに、勝己はまだ私たちはやり直せると思っていた。
根本からあまりに噛み合っていない。私たちの問題はもう、反故にしたデートをやり直したり、報道された相手についての説明を受けるだけでは、取り返しのつかないものになっているのだから。
顔を上げると、今日は朝から一度もつけていないテレビの液晶に、暗澹とした表情の私がいた。なんて絶望的な顔をしているんだろう。謝罪ひとつ受けるだけで収まったことを、ここまで押し広げたのは私自身なのに。
「この前、朝の番組でヒーローに恋愛はいるのかってテーマで討論会やってたの見た?」
「……見てねえ」
「うん、私もちゃんとは見てないんだけどさ、色々な意見があったよ。でも私は、その討論に恋人の気持ちみたいなのが考慮されてないのが一番不満だった」
ヒーローは、ヒーローは、と口々に語るコメンテーターたち。それを聞きながら、ヒーローの恋っていうのは、そんなにもヒーロー側からじゃないと語って貰えないのだと、ひどく冷めた気持ちになった。
「ヒーローの恋人だからって、同じものを求めないで欲しい」
声に出してみて初めて、これが何よりの自分の本音だったと知る。
確かにヒーローだって誰かを愛する資格はあると思う。その人のために強くなることだってあるのかもしれない。だけど、ヒーローに愛されたからって強くなれるわけではないのだ。
少なくとも私は、なれなかった。
「勝己が誰かを助けるのが嫌なわけじゃない。デートが突然なくなるのはそりゃ、いい気持ちはしないけど理解できないわけじゃない。ただ、それが当たり前だと思われることが嫌だった」
誰かの不幸や死を願ったことなんてないし、つらい思いをしたり、危険に晒されたりしている人がいるなら救われて欲しいと思う。だけど、それはあくまで一般的な感覚の範疇を出ることはできない。
ヒーローを目指したことなんてないし、救われて欲しいけど、自分を犠牲にしてまで救いたいわけじゃない。目の前に私の幸福があるのなら、それが一番大切なのだ。
私はそういう、普通の人間でしかない。
「ヒーローの恋人なら自分が優先されないことを不満に思うことも許されない? それならさ、私はヒーローの恋人には向いてなかったよ。不満に思って、でも、我慢するから褒めて欲しいと思っちゃう」
ぎゅっと手のひらを握りしめたまま、勝己の表情を見ることは出来ない。勝己と付き合っていく中で、少しずつ募っていった違和感。勝己にとっての当たり前が、私の感覚とは違うこと。
そういうものが噛み合わなくなっていって、だけど、それに気づいているのは私だけだから、私が我慢しなくちゃいけないと思っていた。だって、勝己はヒーローなんだから。それがあの日、もう我慢の限界だった。
「それくらいしてよって思うじゃん。だって、あんたが私を選んだんだからって……それくらいしてよって……それが出来ないなら、やっぱヒーローは誰も特別にするべきじゃないよ。誰でも等しく大事にしなよ」
涙がこぼれているわけでもないのに、泣いているみたいに湿ってしまった声が情けなかった。勝己の部屋を飛び出してから、何度もイメージした毅然と別れを告げる自分の姿。それとあまりにかけ離れてしまっている現実。
「ああ、それか、同じヒーローだったらいいのかな」
「んなこと、言ってんじゃねぇよ」
報道のことを当てこするように嫌味のこもった声で吐き捨てれば、ずっと黙っていた勝己が私の手を掴んだ。勝己の強さを証明するみたいに固くなった皮膚。その感触から逃げようとするけど、強く押さえられて動けない。私を見つめる勝己の双眸はあまりにも真剣で、そして苦しげだった。
「悪かった。おまえが物分りいいのに甘えてた。いや、物分りがいいようにしてくれてんのに気づいてて、それに甘えてた」
唇が震える。その言葉は的確すぎるほどに真実だった。敏い勝己が、私が本当は傍にいて欲しいと思いながら我慢をしていることに気づいていないわけがなく、その上で、それが当然だと放置した。自分が耐えられるのだから、私も耐えられるだろうと私の弱さを蔑ろにした。
「別に、簡単にやり直せると思ってきたわけじゃねえ」
「……じゃあ、何しに来たの」
「おまえが許してくれるまで頭下げに来た。やり直せると思ったんじゃなくて、ぜってェにやり直させるつもりで来た」
あまりに横暴なセリフに虚を突かれて、ただまばたきを繰り返すことしか出来なくなる。握られた手首に力がこもる。その強さと熱がしみ込んできてしまう。
「俺はおまえが、手のかかる後輩無視出来んかったり、どんなに疲れてても後から来たやつに席譲っちまうような、何だかんだ他人に甘いこと知ってんだよ」
切々とした勝己の声。それをこれ以上聞きたくなくて首を振る。言わないで欲しい、もう何も。だけど、そんな願いが届くはずもなく勝己の唇は動き続ける。
「だから、そういうの全部利用しに来た」
身体中の骨が、すべて折れてしまったと思った。支えにしていたものが粉々で、もう一人では立っていられないくらい。
「俺がここで頭下げ続けたら、先に折れんのがおまえだって分かっててここにいる」
「……なにそれ、ズルくない?」
「ズルくなれんだよ、おまえのことなら、いくらでも」
自分で確かめるように、私に言い聞かせるように、ゆっくりと勝己が話す言葉。ぴんと張り詰めていたものが折れてしまった心は、いとも容易くそれに期待してしまう。
「もしも私が、あの討論番組に出たら凄く批判されてたと思うよ。ヒーローの恋人のくせに我儘言うなって」
「は? 言わせるかよ。そもそも出させねえ」
「もしもだよ、もしも」
「大体、他のやつのことなんか、どーでもいんだよ。俺にはお前が必要、そういう話だろ」
勝己らしい傲慢な態度で、勝己らしからぬ稚拙なセリフ。強ばっていた身体の力が抜けて、弱々しく笑ってしまう。そして、勝己のことを許せると思ってしまう。
それを見た勝己が深く息を吐いて私を抱き寄せた。肩に乗る勝己の体温と重み。
「私、これからもきっと、こんな我儘を言うよ」
「言えよ。別に我儘でもねぇわ。今回悪いのは俺だろ」
「だって、もっと毅然と送り出して、それが当然として待っていられる人たちもいるでしょ」
「知らねーし、興味もねぇ」
背中に回った勝己の手が、子どもでもあやすみたいに、トントンと叩かれる。勝己の逞しい腕に触れると、私の柔らかくて弱いところが浮き彫りになってしまう気がする。それでいて、守られているようにも思ってしまう。
勝己の胸から顔を上げて、その瞳を覗き込む。
「こんなに弱いまま、勝己の恋人でいてもいい?」
「たりめーだろ。いてもらわなきゃ、困んのは俺なんだよ」
得意げに笑った勝己が、私の頭を自分の胸へと押し付ける。結局、勝己は私に甘いし、私も勝己に甘い。そして、そんな甘ったれた関係を許し合い、愛しいと思ってしまう。誰も知らない私たちだけの甘さと弱さ。
だからやっぱり、もしも目の前であの討論番組をやってたら、飛び込んでいって「外野は黙ってろ」と中指立てやろうじゃないか。
愛の必要性と僕らのずるさについて
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