『こんにちは、爆豪くん。
爆豪くんが、これを読んでいるということは……なんて始まりはあまりに定番すぎるけど、実際、こんな状況で手紙を書いてみると、それ以外の書き始めというのも思いつかないものでした。
自分がいなくなると決まって初めて知ったことのひとつです。
そう、なんと私は消えてしまうそうなんです。

きっかけというか、原因は、私が戦ったヴィランの個性です。それほど強い敵ではありませんでした。他のヒーローの応援も必要もなく、私ひとりであっさりと拘束できるくらい。
だから、少しだけ油断してしまったところもあるかもしれせん。男が私の身体に触れた瞬間、ぞくりとした不快感が全身に走って、すごく嫌な予感がしました。
そして、男は笑って言ったのです。「お前は今から三日後に消える。俺みたいに」と。そう言い残して男は消えました。文字通り、本当に、その場から。

後から駆けつけたヒーローに、男が消えたことだけを伝えて全員で探したけれど男は見つかりませんでした。
みんな不思議がっていたけど、私だけは男は本当に消えたのだという確証がありました。そして、私も消えるのだということも。なんていったって自分のことですから。

男が私に言い残した言葉のことは誰にも言っていません。言ったところで男が消えてしまった以上、個性を解除する術もわからないし、検査だなんだと三日という猶予が減ってしまうのも嫌だったから。

この三日間を、私はとにかく身辺整理に費やしました。立つ鳥跡を濁さずってやつです。そして今、空っぽになった部屋でこの手紙を書いているのです。
爆豪くんにだけ宛てた手紙です。
本当は他にもたくさん手紙を書きたい人はいるけど、時間がないので爆豪くんにだけ残すことにしました。

爆豪くんはきっと、失踪した(たぶん、そういう扱いになってるよね?)ただの同級生が、突然自分に手紙を残してきて困っていると思います。ごめんね。
理由はまた後で書くので、とりあえず少しだけ私の思い出話に付き合ってください。
爆豪くんは、私たちが雄英の三年生のときにクラスのみんなでやったバーベキューのことを覚えていますか?』




▽ ▽ ▽





風に流される煙と香ばしいにおい。
両手にお肉の刺さった串を持って騒ぐ上鳴くんたちをちらりと見てから、煙の届かない少し離れた場所で腰を下ろす。木々の隙間から覗き見る夜空には綺麗な天の川がかかっている。

「もう食わねェんか」

声のする方へと顔を向けると、爆豪くんがこっちへと向かってきているところだった。爆豪くんから私に声をかけるなんて意外だな、と思いながら一度だけ頷いた。

「もうお腹いっぱい。今、砂藤くんと女の子たちがデザート用意してくれてるから、そのぶんのスペースは残しておかなくちゃ」

お腹を擦りながら笑ってみせると、爆豪くんは特に何も言わずに私の隣に座った。あっ、座るんだ、と口には出さないものの驚きながら、あと少しで肩が触れてしまいそうな爆豪くんとの距離にどぎまぎした。ドキドキではなくて、どぎまぎ。

「あっ、別に料理できないからキッチンから追い出されたわけじゃないからね! 買い出し行ったから免除になったんだよ」
「思ってねぇわ、ンなこと」

料理下手認定されるのは癪だったから懸命に弁解すると、爆豪くんが少しだけ笑った気がした。その表情から目が離せなくて、心臓も鼓動を早めていく。今度こそ本当にドキドキ。
なんだか急に照れくさくなって目を伏せる。

「……花火、買ってくればよかったなぁ」
「花火?」
「うん、夏といえば花火じゃん。きっと楽しかったよ」

みんなでワイワイと花火をする光景は、想像するだけで楽しかった。きっと轟くんが大活躍だ。
すると、私の顔をじっと見つめていた爆豪くんが突然、手のひらを差し出した。不思議に思って首を傾げる。
すると、パチパチと火花が散った。
何かを破壊するための激しいものでなくて、夜の闇を照らす仄かな光。向こうで騒いでるクラスのみんなは気づかない、密やかなオレンジ色の光が弾けては消える。

「わあ、もしかして花火の代わりに?」

びっくりして爆豪くんの顔を覗き込むけど、特に何か言われることもなかった。夜だから少し色を潜めた赤色の虹彩に、パチパチと爆ぜる火花が映る。綺麗だった。そして、どうしようもなく嬉しかった。

「すごく綺麗。爆豪くん、ありがとう」





▽ ▽ ▽





『私、あの日に爆豪くんが見せてくれた花火(?)が人生で一番綺麗だったって、今でも本気で思っています。そして、そう思ったまま私は消えることになるので今後の更新もなく、爆豪くんが私のナンバーワン花火です。やったね!
なんて、笑えないですね。ふざけてごめんなさい。

正直、自分がもうすぐ消えてしまうなんてことを、どうしてこんなにもすんなり受け入れているのか不思議なんです(それも含めて個性なのかな?)。それでも、この三日間何かやり残したことは何だろうと、ずっと考えていました。もちろん、まだまだやりたいことだらけなんだけど、その中でも一番最初に思いついたのが爆豪くんのことでした。

爆豪くんの独立が決まって、クラスのみんなでお祝い会を開いたとき、あの日の帰り道で、本当は爆豪くんに言いたいことがあったんです。』




▽ ▽ ▽





さらさらと耳に届く川のせせらぎ。すっかり闇にのまれた河川敷の道は、吹き抜ける風が心地好い。川向こうの住宅街の明かりがぽつりぽつりと光って、少し離れた線路を電車が過ぎ去っていった。いつもよりはしゃいで飲みすぎてしまったアルコールが、ふわりふわりと気持ちを軽くする。
二次会、行きたかったなあ。なんで明日は早出の任務があるんだろう。なんてことを考えながら、流れる川面を見ていたら、突然強く腕を引かれた。

「危ねェぞ、アホ」
「わっ」

よろけた身体のすぐ隣を無点火の自転車が通りすぎていった。うわ、これってヒーローとして注意すべき? と逡巡しながらも、それよりもまずは助けてくれた人にお礼を言わないといけないと思って振り返る。私の腕を掴んだ無骨な手。そこには、さっき別れを言ったばかりのはずの見知った顔があった。

「びっくりした。爆豪くんじゃん」
「俺のがビビったわ。ヒーローやっといて自転車なんかに轢かれかけてんじゃねェぞ」

本気で呆れた様子の爆豪くん。確かに自転車に轢かれて怪我をしました、なんて格好悪いし、所長にも怒られること間違いない。だから、へらっと笑ってから爆豪くんに「ありがとう」とお礼を言った。ふん、と鼻を鳴らした爆豪くんがそのまま私の隣に並ぶ。

「あれ、二次会は?」
「行かねぇ」
「えー、今日って爆豪くんのための会なのに、いいの?」
「いーんだよ。どうせ何か理由つけて集まりてェだけなんだから」

文句を言っている瀬呂くんたちを想像したけど、かといって、私が無理に戻りなよというのも変な気がしたから、それ以上追求するのはやめた。爆豪くんと並んで歩く河川敷。視界の先の夜景がさっきよりもずっと綺麗に見えるようになった気がした。

「爆豪くん、本当おめでとう」
「何回言う気だよ。聞き飽きたわ」
「えー、言い足りないくらいだよ。こんなに早く独立なんて凄いもん」

一歩ずつ、ゆったりとした歩みは、きっと私に合わせてくれているのだろう。そんな些細な気遣いが嬉しくて、爆豪くんの横顔を見ようと思ったら、ふいに目が合ってしまった。心臓が高鳴る。

「おまえは?」
「私?」
「これから、どーすんだよ」

数回まばたきを繰り返して、それから「そうだなぁ」と呟きながら、視線をまっすぐ道の先へと向ける。向かいから自転車がやってくる。今度はさっきと違って、きちんとライトがついている。

「先のことはわかんないけど、とりあえず当分は事務所でサイドキックを続けるかな。独立とかまだ考えらんないし、もしかしたら一生今のままかも」

自転車にも轢かれかけるくらいだし、と笑って付け加えようとしたら、それよりも早く爆豪くんが口を開く気配がした。

「おまえなら十分やっていけんだろ」

馬鹿にしているような響きもなく、ただ平然と思っていることを言っただけ、というような声音。それが、何度も私の中で反響した。

「え! 爆豪くん、もしかして今私のこと褒めた?」
「褒めてねーわ」
「あれで褒めてないの? 爆豪語難しくない? 緑谷くんに聞いてみてもいい?」

本気でスマホを取り出した私を「やめろ」と叱る爆豪くん。こんなふうに爆豪くんと話せることが楽しくて、いつまでもこの時間が続けばいいと思ってしまった。




▽ ▽ ▽






『あの日、実はあのまま何かが始まるんじゃないかって、本当は少しだけ期待してたんです。知っての通り、何もなく私たちは駅で解散したわけなんだけど。
ここまで書いたらもう察しはついていると思うのですが、私は爆豪くんのことが好きです。とっても。
だから、あの日も本当は何度もこのまま想いを告げようと考えていました。それが出来なかったのは単純に、爆豪くんと気まずくなるのが怖かったからです。

そうやって、ずるずると片思いを引き延ばしてきたけれど、もう言えなくなると思うと、やっぱり伝えておいたらよかったと後悔の方が大きかったんです。だから、こうして爆豪くんに手紙を書いています。
ただ、好きだと伝えるためだけに、随分と回りくどいことを書いてきてしまったけど、要するに爆豪くんと過ごした時間が私にとって凄く大切なもので、爆豪くんが大好きだったということです。

返事を聞くのは怖いから、手紙という形にしたことは許してください。
読み終わったこの手紙は爆豪くんの好きにしてください。気兼ねなく捨ててくれても構いません。突然、こんなことを言われて戸惑っていると思うけど、本当にこれは私の自己満足なんです。私が消えたことについては、当たり前だけど爆豪くんには何の責任もありません。むしろ巻き込んでしまって、ごめんなさい。

さて、これで長くなってしまったこの手紙も終わりです。
どうか、いつまでも元気で。そして、たくさん幸せでいてください。
さよなら、爆豪くん。本当にあなたが大好きでした。』




▽ ▽ ▽






瞼を透かす太陽の光を感じる。頬を撫でる風、鼓膜を揺らす川のせせらぎ。今までずっと飛ぶように軽かった体が、急に重くなったような気がして、ゆっくりと瞼をひらく。

「よお、よく寝たかよ」
「え、爆豪くん? なんで……え、冷たっ」

突然目の前に現れた爆豪くんに驚いて飛び起きる。びしゃりと跳ねる水滴。そこでやっと、自分が森の中、しかも浅い川の上で眠っていたことを知る。
ついさっきまで、自分の部屋にいたはずなのにと混乱していると、爆豪くんが深いため息を吐き出して私を抱えあげた。

「てめェな、もっと分かりやすいとこに居ろよ。なんのために手紙書いてんだ、アホ。おかげで、探すのにすげェ時間かかったわ」

草の生え茂る岸に下ろされると、爆豪くんは持ってきていたらしいタオルで私のことを拭き始める。乱雑なように見えて優しい手つきにされるがままになりながら、少しずつ目が覚める前の記憶が戻ってきた。

「いや……だって、私消えちゃったはず……」

そう呟くと、爆豪くんの手がぴたりと止まる。

「おー、しっかり消えとったわ。ひと月もな」

ひと月。声に出さないまま唇だけでその言葉をなぞる。記憶も身体の感覚も、そんな長い時間が経っていたとは、とても信じられなかった。
だけど、私がここにいることも、爆豪くんの真剣な表情も、それが嘘ではないことを物語っている。私はひと月もの間、この世界から消滅していた。そして、今またここに存在し始めた。

「じゃあ、あのヴィランの個性は……解けたってこと?」
「説明するから、よく聞いとけ」

そこから爆豪くんが話してくれたのは、私が消えてからの話だった。
時間になっても出勤しない私を不審に思った所長が部屋に行くと、引っ越しでもしたのかと疑うような空っぽの部屋の真ん中に爆豪くん宛ての手紙が置いてあったこと。爆豪くん立ち合いの元で手紙を検分し、私の身に起きたことが明るみになったこと。

「あ、待って。そっか、あの手紙、爆豪くん以外も読んだのか……めちゃくちゃ恥ずかしいかも」
「うるせぇな、てめェの配慮不足だわ」

赤裸々にしたためた恋心。それを所長にも知られたことに顔を覆うと、爆豪くんが私を軽く睨み、また続きを語りはじめる。
私の失踪がヴィランの個性によるものと判明したことで、そこから現場の防犯カメラ等の映像で男の身元を割ることが出来た。氏名や年齢。そして、個性。男は無個性として届け出がされていた。
驚いて言葉もなく爆豪くんを見つめる私を、爆豪くんもまた見つめ返す。

「だから、ソイツの地元当たったんだよ。個性だと思われてなかっただけで、なんかあったんじゃねェかって」
「え? 爆豪くんが?」
「そーだよ。悪ぃか」
「いや……」

口ごもりながら、やっぱり変な責任を感じさせてしまったかと申し訳ない気持ちになる。爆豪くんはそれを無視するように、視線を逸らした。
そして、話は男の小学生の頃の同級生を見つけるところへと繋がる。男は小学生のある時点から不登校になっていたらしい。それは、男が同級生の私物を盗んだと疑われたことが原因だったらしい。男は昔からよく自分の私物を失くしていた。そして、それを決まって「突然消えてしまった」と言っていた。
さらに、その数日後には男の近くにいた誰かの同じものが失くなる。鉛筆だったら鉛筆。ノートだったらノート。男の同級生たちは、男が自分が失くしてしまったことの腹いせに盗んだんだと責め立てた。以降、男は引きこもりがちになり、人との接触を拒むようになったらしい。

「そういう個性だったんだろ。てめェのものと同質のものを隠すことができる。そんで、個性を扱いきれてねェせいで、やたらと物を消しちまうし、突然消えたなんて誰も信じねェ。数日のタイムラグがあんのはよく分かんねェけど、それも本当ならコントロール出来たのかもな」

通報を受けて駆けつけた私を見て、強く正義を憎む発言をしていた男のことを思い出す。
誰にも自分のことを信じてもらえず、正義感に駆られた同級生たちに犯人扱いをされ責め立てられる。それは幼子心に酷い傷を負わせたことだろう。自分のことを消すことも厭わずに、正義を語るヒーローを消してしまいたいと思うくらいには。
思わず顔を伏せると、私を一瞥した爆豪くんに「同情なんかすんなよ」と嗜められた。黙ってそれに頷く。理由はどうであれ、男は人間ひとりを消し去ろうとしたのだ。

「あ、でも、なんで私は戻ってこれたんだろ」
「言ったろ、消すんじゃなくて、隠す個性だったんだよ」

男が不登校になったあとの話には続きがあった。男に盗まれたはずのもののいくつかは、思いも寄らない場所から突然現れたのだという。たとえば、祖母に買ってもらった筆箱をどうしても諦めきれなかった女の子は、学校の至るところを探した。それでも筆箱は出てくることはなく、途方に暮れながら、せめてしっかり謝ろうと祖母の家へと向かった。そして、その家の居室の机の上にその筆箱はあったのだという。
女の子は間違いなく筆箱を学校へ持って行ったはずで、その日何度も部屋を出入りしたはずの祖母はその筆箱の存在に気づいてはいなかったという。不思議なこともあるものだと思いながら、そのうち、そんなことがあったことも忘れていたことを、爆豪くんと話ながら思い出したという。

「解除の条件は、見つけたいと強く思うこととか、その失くしたもんと関わりの深い場所を探すこととか、そんな感じだろ」
「じゃあ、爆豪くんは私のことを見つけたいと思ってくれたの?」

深く考えずに口からこぼれ落ちてしまった疑問に、爆豪くんがバツが悪そうに眉をひそめた。言ってしまってから、私が爆豪くんに告白をしていたのだということを思い出して、私も「あっ」と口を噤む。あまりの展開に圧倒されて意識が薄くなっていたけど、私は爆豪くんに告白をしているのだ。この場合、あれはどういう扱いになるんだろう。
そして、もう一つ、聞いておかないといけないこと。

「男も、見つかるの?」
「……今までソイツが失くしたもんが戻ってきたことはねェらしい」
「そっか」

囁くように吐息が漏れる。太陽の光を反射する水面の眩しさが目にしみる。別にヴィラン相手に同情をしているわけではない。ただ、後悔はしていた。
一人一人の事情にまで干渉することなんて出来ないのだから、幼い日の男を救えたとまでは驕らない。それでもあの時、私の目の前にいた男なら止めることが出来たはずだった。自分を犠牲になんて、させずにすんだ。
ヒーローを目指してから何度も、こういう後悔を積み重ねてきた。そして、これからもどうしようもなく虚しくなる日もあるんだろう。だけど、私は明日からもヒーローを名乗っていく。だって、私はここに戻ってきたのだから。
川を見つめながら、そんな誓いを胸に刻もうとしたとき、ハッと我に返る。

「ああっ!」
「んだよ、急に!」
「いや、部屋……完全に消えるもんだと思って、ほとんど全部処分しちゃったよ。うわ、どうしよ。もういっそ引っ越す?」

家具も家電も片っ端からリサイクルショップへと持ち込んでしまった。ベッドすらないあの部屋で、今夜からどう生活していくというのだろう。売ったものを買い直すしかないけど、なんて馬鹿なことをしたんだろうと頭を抱える。カーペットとか最近、新調したばかりだったんだけどな。
肩を落としてヘコむ私を、何か難しい表情でじっと見ていた爆豪くんが、おもむろに口を開いた。

「……うち、来てもいいぞ」
「え……どうしたの、爆豪くんなのに親切すぎない?」

聞き間違いかと疑うような爆豪くんのセリフ。一瞬、呆然としてから心配になって聞き返せば、爆豪くんが爆ぜるような勢いで私の頬を掴んだ。無理矢理に爆豪くんの方を向かされて、否応なしに真っ赤な瞳と見つめ合うことになる。

「どんだけ鈍ィんだよ、ばァか。てめェが手紙に書いたことも、こうやって必死になって探したのも全部てめェだからだろーが!」

川のせせらぎと鳥のさえずりしか聞こえなかったような林の中に、爆豪くんの怒声が響き渡る。あまりの剣幕に驚いたのか、近くにいた鳥が数羽飛び立っていった。唖然とする私の頬にさらに力を込めて、「おまえ以外のクラスのやつ、みんな知ってぞ! 雑魚!」と、さらなる爆弾が投下される。

「だいたい、なんで此処なんだよ! 雄英の敷地内もあの河川敷も何度探したと思ってんだ。んで、デクがてめェに此処の話、何度もしたことあるっつーから、まさかと思って来てみりゃ本当にいやがるし。安心したわ!」

怒ってんだか、安心しているんだか分からない爆豪くんに、私も謝るべきかお礼を言うべきか困惑する。そして、今になってやっとここが、何度か緑谷くんから話に聞いた、ふたりが幼い頃よく遊んだ林なのだと気づいた。爆豪くんの幼い頃の話を聞きたくて、何度か困った顔をしている緑谷くんにせがんだことはあったけど、まさかこんなにも深く私の心にも根付いているとは予想外だった。
そんな場所にたどり着くまで、爆豪くんは忙しい中で必死に私を探してくれていた。

「爆豪くん……」
「俺に言い逃げなんてできると思うなよ!」

爆豪くんの手が頬から離れる。赤い瞳は変わらずに私を見つめ続けている。さすがにここまで言われれば、私だって爆豪くんがどうしてここに来てくれたのかくらい分かる。
好きだった。ずっと、爆豪くんが好きで、私がこの世界から消えるのだと分かってから、これが最後だと分かる瞬間までずっと、爆豪くんのことばかり考えていた。
そして、今この手に連れ戻された。私は確かに此処にいて、今も爆豪くんのことが大好きだと思う。

「傍にいろ。二度と俺の前から消えたりなんて、すんじゃねぇ」

少しだけ爆豪くんの声が震えた。それが、どうしようもない安堵のあらわれだって分かって、苦しいくらいに胸が締め付けられた。だからもう一度、今度は手紙ではなく直接、私の声でこの想いを伝えなくてはいけない。だけど、それより先に、言わなくてはいけないことがあった。

「爆豪くん、見つけてくれて、ありがとう」






謹啓、どうか幸せで


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