※現代パロ
怒涛の一週間を終えた、金曜日の夜。
いつもなら家でテレビでも見ながら一人でお酒を飲んでいるのだが、今日は違う。
というのも、突然ユーリから連絡が来たかと思えば一緒に飲まないかと誘われ、流れで宅飲みをすることになったのだ。
自宅か、ユーリの家にするかで悩んだけれど、●●の家の方が色々揃ってて捗ると言われたので、私の家で開催することに。
仕事を終えて待ち合わせ場所に向かうと、少し離れたところにユーリの姿が見えた。もしかして待たせてしまっただろうかと思って駆け寄ろうとすると、私に気付いたユーリが一瞬目を丸くした直後、少しだけ困ったように笑いながら「急ぐと転ぶぞー」と離れたところから私を制してくる。
大人しく歩いて彼のもとに向かい、漸く合流。通話やメッセージなんかでしょっちゅう連絡は取ってたけれど、直接会うのは久しぶりなせいか、何だか以前よりも大人っぽくなっている気がした。いや、元からかっこいい部類の人間であることは理解していたのだけれども。
「久しぶり!何だか背、伸びた?」
「そうか?●●の背が縮んだんじゃねーの」
「えぇ・・・それは嫌だなぁ・・・」
ユーリとは幼なじみで、昔は一緒にいる時間の方が長かった。ユーリと、フレンと、ラピードと、私。いつも一緒に何処かに行っては遅くまで遊んでいて、ずっとそんな日が続くと信じていた幼い頃の自分。
だけど人間はどうしても変わる生き物なわけで。大きくなるにつれて、心も身体もどんどん変わっていって。学校も別々になり、そして社会人になり、それぞれが仕事や色々な責任を抱えるようになり。いつの間にか幼い頃のように遊ぶことも、会うこともなくなって、気が付けば電話やメッセージなどの電子的なやり取りで済ませる様になっていった。
便利な世の中に助けられていると思う反面、指先一つで何でも片付いてしまうことに寂しさを感じる自分もいる。特別苦労をしたいわけでもないし、苦労を相手に強いるつもりも毛頭ないけれど、うまく言葉に出来ない何かが胸に詰まっている感じだ。
そんな個人的な感情をそっと奥に押し込んで、行こっか、と彼の背を軽く叩いて先に歩き出す。すると、ワンテンポ遅れてそうだな、という彼の声が少し後ろから飛んできた。その声がどこか、迷いがあるような声に聞こえたのは気のせいだろうか。
「●●、お前何食べたい?」
「んー、何でもいいよ。ユーリが作るものは美味しいし」
「それ、答えになってねぇんだけど・・・んじゃー、どうすっかな」
リクエストを聞かれたもののパッと思いつかなかった私は、1番困る回答だと分かりながらも何でもいい、と返す。ユーリの料理がなんでも美味しいと思っているのは本当で、何が出てきても嬉しいのも確かだ。
元々飲むのも好きだし、料理もするので道具は一通り揃っている方だと思う。(特別高級品なわけではない)ユーリの家も道具が無いわけじゃないけど、彼は時々面倒くさがって調理法を省略しがちなので、ちゃんとしたものを作る時は大体私の家に来て料理を振舞ってくれるのだ。腕が良いので、結局何をどう作らせても美味しいのは凄い。あとは彼の性格的に、人に振る舞うのが好きなのもあると思う。大抵、その相手に選ばれるのは私なのだが。他にもフレンとか。
私の返事に呆れた様子を見せながらも、頭の中ではしっかりとメニューを考えてくれていたのか、スーパーにつくなりカートを引いて手際よく野菜やお肉をカゴに入れていく。他愛ない会話をしながら笑って、食べたいものを好きなように買って、荷物を分けて持ちながら慣れた道を歩く。
こんな風にユーリと笑いながら帰るのなんて、本当に久しぶりな気がする。電話やメールでのやり取りが主になってから全然会ってないし、何よりお互い仕事等で家が離れてからは生活圏も被らなくなってしまった。
久しぶりの再開と懐かしい感覚に嬉しくなって、自然と頬が緩んでしまう。
「さっきからなに一人で笑ってるんだよ」
「ふふっ・・・なんか、こういうの懐かしいな〜って」
自宅が見えてきた頃、頬を緩めている私に気づいたユーリが怪訝な顔で尋ねてくるので素直に答えると、何だそれとでも言うように笑いながら私の手から一つ荷物を奪っていった。
ただでさえユーリに多く荷物を持ってもらっていることもあり、申し訳なく思って取り返そうとするものの、首を横に振られてしまう。思わずムッとしていると、別に意地悪じゃないからな、と前置きしながらユーリが建物を指差す。
「荷物持ってたらドア、開けられないだろ。俺は大丈夫だからそっち頼むわ」
「あ、なるほど。じゃあお言葉に甘えて」
理由を聞いてすんなりと納得した私は、少しだけ歩を早めて先に玄関へ向かって鍵を開ける。
一足先に自宅に入り、部屋の明かりをつけてから再び玄関に向かってドアを開けると、ちょうど着いたらしいユーリがさんきゅ、と言いながら軽々と荷物を持って玄関に入ってきた。
そこそこの量だし、飲み物で重さもそれなりにあるはずなのに、難なく運ぶのを見るとやはり男だなぁと思う。私だったらとっくに腕が悲鳴を上げてそう。
荷物を置き、キッチンを確認し終えたユーリは早速料理の準備に入る。ユーリ曰く、さっと出来るから先に飲んでても良いとのことなのだが、久しぶりに一緒に飲むお酒をフライングする気にはなれなかったので、荷物の整理をしてみたり、テレビをつけて適当な番組を流してみたり。寛げるようにクッションも持ってきて。
だらだらのんびり飲むための準備を済ませても時間が余ってしまうので、仕方なく大きめのクッションを抱きながら適当にスマホを弄る。いつもなら何時間でも触ってられるくらいにはネットやゲームに没頭しているはずなのに、今日は全く気乗りしないのはやはりユーリがいるからなのかも知れない。どうやら、自覚している以上に自分は浮かれているようだ。
「なんだ、眠いのか●●?」
少しするとパタパタと足音が近づいてきて、部屋のドアが開くと同時にお皿を持ったユーリが現れた。
ソファーで寝そべっている私を見て眠そうに見えたのか、テーブルに料理を置きながらこちらに視線を向けてくる。
一方私は、彼の一連の動きを視線だけで追いかけ、料理をするために結われた髪がさらりと揺れたのを見ては似合うなぁなんてぼんやり考えていた。返事をしない私を疑問に思ったのか、今度は私の方に近づいてきたかと思えばぺちん、と額を軽く叩かれてしまった。
「いった」
「んな強く叩いてねーよ。それよか聞いてんのか、俺の話」
「ちょっと考え事してただけで眠くはないよ。お腹も空いてるし」
「っそ。そんじゃ食べようぜ。俺も腹減った」
ひとまず私に問題がないことを確認して安心したのか、ふっと目を細めて笑ったユーリはテーブルの前に移るとクッションの上に座って、置いておいた袋の中からお酒を出し始める。
私も身体を起こしてユーリの隣に移動し、差し出されたビールを受け取った。しっかりとお店で冷やされていたものを買ったので、冷たさは十分だ。
「久しぶりの再開ってことで、乾杯」
「乾杯っ!」
お互いに缶の口を開けて、乾杯を交わしてから同時に一口を流し込む。仕事が終わってからのお酒は格別に美味しさを感じるが、今日は気分が上がっていることもあってより一層美味しく感じる。一人で飲むのは好きな方だけど、やはり誰かと同じ空間で飲むのは別の美味しさがあるなぁと思う。
そこからは改めてお互いの近状を話したり、他愛ない思い出話に花を咲かせてみたり、時には流しっぱなしにしていたテレビ番組を見て笑ったりして。
ユーリが作ってくれた料理も昔と変わらず美味しくてお酒も進む。ほろ酔いで少しふわふわした感覚が心地良い。あぁ、今この瞬間、最高に幸せかも知れない。
ただ、ふと時計を見る度に短針が1つずつ進んでいて、どうして幸せな時間はあっという間に過ぎてしまうのか、と内心ため息をついてたのは内緒にしておこう。
「それにしても、ユーリからの誘いなんて珍しいよね。あんまり飲むタイプでもないのに」
一通り喋り尽くして、のんびりとした空気になった頃。
空になったグラスを揺らしながら気になっていたことを口にすれば、ちょうど飲み物に口をつけようとしていたユーリの手がピタリと止まった。
何か変なこと言ったかなと一瞬考えたけれど、深追いはせずに私は再びグラスへお酒を注ぐ。
「ん?まぁ、俺にだってそういう気分な時もあるって。・・・それに」
「・・・?それに?」
「・・・久しぶりに、●●の顔見てぇなって思ったから」
ユーリの言葉に、今度はお酒を注ぐ私の手が止まった。
言葉だけじゃなく、今までに聞いたことないような優しくて、どこか甘い声音に思わず心臓が跳ねる。そんな風に言われたのが初めてな所為もあるかも知れない。子供の頃から顔を見る度に呆れたような顔でまたお前か、って言われることばかりだった。
それでも私はユーリに会いたかったから何度でも会いに行って、一緒にいて。それは幼なじみであり、居心地の良い友達だと思っていたから、なはず、なのに。それは昔から変わらない、はずなのに。どうしてこんなに私の心臓は煩くなっているのだろう。顔が熱い。今になって急にお酒が回ってきたんじゃないかと思えてきた。
「そ、っか」
「・・・ふーん? そういう反応されると俺、期待しちゃうけど?」
「な、なにを・・・?」
何か返事をしなくてはと思い持っていた物をテーブルに置いて、ユーリの方を向いて笑みを作りながらなんとか声を絞り出せば、そんな私の様子を見たユーリは一瞬だけきょとんとするものの、すぐにどこか悪そうな表情に変わってじりじりとこちらに顔を近付けてくる。ユーリの言葉の意味が分からずに首をかしげれば今度は大きな手が私の頬に添えられ、そうやって固定された事によって、吸い込まれそうなアメジスト色の、力強い瞳を強制的に見つめさせられてしまう。
「俺のこと好き、とか」
「はっ!? お、幼なじみとしては好きだけっ」
「・・・じゃあ、”男”としては?」
「えっ?」
男としては?
そう問いかけてくるユーリの表情は、つい先ほどまで悪戯っぽい表情を浮かべていた人物とはまるで別人の様で。まるで獲物を狙い定めたかのような鋭く、どこか艶やかさを纏った紛れもない”男”の顔に思わず息を飲む。
「俺は●●が好きだぜ。幼なじみとしてでなく、女として」
「っ・・・いきなり、すぎて、そんなこと言われても・・・」
「これ以上は待てねぇな、俺ずっと我慢してたし。他に男が居るなら潔く諦めるさ。でも・・・そうじゃないなら答えを聞かせてくれ」
大きな手でそっと私の頬を撫でながら、私の言葉の続きをじっと待つユーリ。目の前の人物に調子も、何もかもを狂わされている気がする。寄った勢いで変なスイッチでも入ってしまったのだろうか。・・・いや、だとしてもいい加減なことは言わないのがユーリなので、これはきっと、恐らく彼の本心だ。そう考えたら、また心臓が煩くなる。
ユーリと一緒にいて楽しいのは、嬉しいのは、落ち着くのは、仲の良い幼なじみだからと思っていた。否、自分に言い聞かせていた。だけど環境が変わって会わなくなって、電子的なやり取りだけになって寂しかったのは、切なかったのは。
・・・私は、随分前からユーリの事が。
「・・・私も、好き」
「! ・・・ん、上出来」
「上出来って、なにが・・・・・んっ!?」
色々な感情がごちゃまぜにながらやっとの思いで返事をすると、ユーリは嬉しそうな顔で笑った。何か引っかかるような物言いに聞き返そうとするものの、添えられていた手に顎を持ち上げられそのままユーリの唇によって口を塞がれてしまった。突然のことにびっくりしていれば、口内にユーリの舌が容赦なく割り込んできてそのまま舌を絡め取っていく。
慣れない感触と何ともいえない感覚にぞくぞくして、彼の行為に必死に答えながらもどうしたら良いか分からず彼の服をキュッっと掴む。そのまま空いてる方の腕で体を引き寄せられ、密着する体勢のまま何度も口吻を交わしていくうちにだんだん頭がボーッとしてきてしまい、体に力が入らなくなりそのまま体重を預けるように身を委ねた。
「っは・・・・・・、わりぃ、大丈夫か?」
「ふぁ・・・ん、だいじょぶ・・・」
漸く唇が離れ、私の様子を見たユーリが少しだけ申し訳無さそうに、背中をポンポンと叩きながら首を傾げる。やっと酸素を取り込めるようになった私はやや荒くなった呼吸を整えてから返事を返した。返事を聞いたユーリは安心したように目を細めると、私を抱きしめながら肩に顎を置いてくる。
「あー・・・、あんまりにも鈍感だからどうなるかと思ったわ。結果オーライだけど」
「だ、だってユーリ別に、今までそんなこと言ってこなかったじゃん・・・」
「色々手は尽くしたつもりだけどなぁ、なかなか気付かないからこうして乗り込んだってワケ。・・・まぁ、こうしてお互い同じ気持ちってのがわかったわけだし、このまま襲っても良いんだけどな」
「へっ!??あの、ちょっと・・・!!」
ちょっとした余韻に浸るかと思えば、私の身体のラインを確かめるようにユーリが私の身体を服越しにさわさわと触り始める。その先が意味することをとっさに理解した私は焦ってユーリの身体を引き剥がすと、焦った私を見てユーリがクスクスと笑いながら冗談だってーの、と言って謝ってきた。
この流れで冗談言うなんて、心臓に悪すぎる・・・本当に。一度意識してしまったせいか、言葉の隅々まで意識してしまって気が気じゃない。ずっとドキドキしっぱなしでどうになかっちゃいそうだ。
「やっとスタート地点に来れたっつーことで、改めてよろしくな、●●?」
「・・・こちらこそ」
もう一度視線を合わせてそれっぽいご挨拶を交わして笑えば、再び唇を重ねてくる。
先ほどとは違って優しすぎるくらいの口吻を受けながら、私は身体をユーリに預けてそっと瞳を閉じた。
(友達の線を超えたら、その先はどんな世界が待っているんだろう)