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映画大炎上の女装ネタです。
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   ハイライトは純白のポスカで

 姉上と俺は顔が似ているとよく言われた。それが誇らしかった幼い俺は、会う人会う人に「姉上と僕、似てる?」と尋ねては姉上にたしなめられたものだった。
 だから、自分が化粧をすれば姉上に似るのだろうとは思っていた。ただ姉上のようになった自分をどう思うかは、自分でも想像がつかなかった。姉上になりきろうというわけでもないし――それは冒涜だ――、寄せたところできっと同じにもならない。気がかりがあるとすれば、姉上に似た俺を見た土方さんが変な態度をとってくるかもしれないことくらいだったが、それをいじってやれるくらいには俺はもうふっきれている――というのはさすがに虚勢を張りすぎた。本音は、少しでもそれらしい反応をされたら今度こそノータイムで斬り殺してしまう気がしているが、まあそれはともかく、要はやってみないことには何もわからなかった。なのですべてお任せの丸投げで化粧を施してもらうことにした。
 詳細は伏せ、今度女装をするので手伝ってほしい、とだけ伝えて雇った化粧師は俺の顔を前から横から斜めからじっくり観察し、結構な時間を使って悩んだあと、化粧道具を広げた。潜入捜査当日は自分でやらなければならないので、今日はその化け方を教えてもらうことになっている。
 顔中にあれこれ塗ってもらう過程を目で追いながら、予想通りだんだん姉上に似ていくのは感じていたが、完成と告げられ覗いた鏡に映った俺は、思った以上に姉上だった。俺がまだ武州にいた頃、病のもまだそこまで進んでいなかった頃の姉上がそこにいた。姉上を知らない人間が手を加えてもこうなるということは、俺は本当に姉上と似ているらしい。
「沖田さんは元が良いのであまり手を入れるところもありませんでしたが、男っぽさを消しこむためにより柔らかい感じにしてみました」
 なるほど眉や目尻を垂れて見せているのか、俺にはない柔和な雰囲気が生まれていて、どこからどう見ても女だった。いや、女というより姉上で、つまり、最高の女性というわけだ。
 女装の依頼としては完璧な仕事ぶりだった。
 しかし、完璧すぎてそれはそれで困ったことでもあった。だって、この格好で旧知の人間の前に出るのはいかがなものだろうか。土方さんはともかく、近藤さんだってやりづらいに違いない。俺が姉上に似た自分を真正面から受け止められるくらいの時は流れたといえども、すべてを過去のものとするには、あれから重ねた時間はまだあまりに浅い。
 それに何より、あのふたりに変な気を遣われるのはまっぴらごめんだった。
「ちょいと――」
 もう少し姉上から離してもらおうと声を発した瞬間。強烈な違和感と嫌悪感が身体のなかに湧きあがった。思わず鏡を覗きこみ、総毛立った。
 姉上に似た口から出た太い声。そしてそれを聞いてしかめた鏡のなかの顔。どちらも姉上とはまったく似ても似つかなかったからだ。
 姉上はこんな声で話さない。姉上は、こんな表情をしない。
 そう思った途端、さっきまで姉上そっくりだと思っていた鏡に映る自分がみるみる不快な化け物のように見えてきた。そいつからは、姉上の持つ清楚さも、おしとやかさも、たおやかさも、可憐さも、上品さも、知的で家庭的な雰囲気も、高原の空気よりも澄んだ声も、何ひとつ感じられないのだ。
 いくらガワが似ていたって、いや、似ているからこそ、姉上との表情や仕草の違いを許すことができなかった。姉上によく似たこの見た目で俺のまま振る舞うことは、姉上になりきろうとすることよりもよっぽど冒涜だった。
 何が気を遣われたくない、だ。こんな出来損ないのまがいもので近藤さんや土方さんが動揺すると思った自分に腹が立つ。一瞬でもこれを姉上だと思った自分を張っ倒してやりたい。
「全っ然だめでさァ」
「ええ⁉ そんな」
「悪いんですが、やり直してくだせえ」
「じゃあせめてどういうイメージかくらいはご希望くださいよ」
「そうですねィ……とりあえず、方向性は真逆でお願いしまさァ。もっと軽薄そうで、我が強くて、清楚とは程遠い、家事とかも全然できなさそうな感じの。肌の色も今のは白すぎていけねえ」
「なんですかそれ……」
 化粧師は呆れながらも、顎に手を当てしばらくうんうん唸って考えてくれた。
「家事がどうかとはわかりませんが、派手で自分の信念を貫く強さを感じるようなイメージですか? それでいて肌が黒いということなら、ガングロギャルなんてどうでしょう」
「おっ、いいですねィ。ポスカで落書きしたスクールバッグから出したバッテリー奥にプリクラが貼ってあるラインストーンでごてごてのショッキングピンクのデコ携帯片手にLOVE BOATの鏡見ながら髪いじってそうな致死量の平成を積んだ女で頼んまさァ」
「細かい割にはオーソドックスな設定ですね」
 今のもいいのになあ、と名残惜しみながら化粧師が化粧を落としていく。いつもの俺に戻ったあと、出てきた粉の黒さに笑いそうになった。これなら何をどう間違っても姉上にはなりそうもない。
 そうして鏡のなかに出来上がったのは、俺とも姉上とも似つかない、まったく他人だった。ネットを被されていた頭にウイッグを被り、ハイビスカスを挿せば申し分ないギャルになった。
「どうですか?」
 問いに答える代わりに開いた手のひらを前に突きだすポーズをとってみると、化粧師はふいを突かれたように笑った。
「沖田さん、めっちゃ可愛いです」
 親指を突きあげられ、俺は思わずきょとんとしてしまう。いつもであればそんなことを言われようものなら唾を吐いてやろうかと思うのに、どういうわけか、今はすんなりと素直にその言葉を受け入れられたのだ。
「そりゃあ、宇宙一の美人と血を分け合ってるんで」
「え?」
「いや、何でもありやせん」
 もう一度鏡を見つめる。そこには、軽薄そうで、我が強そうで、お世辞にも清楚とは言えない、家事もてんでできなさそうなガングロギャルがいた。
「完璧でさァ」

 後日土方さんがこの姿の俺を初めて見たとき、ぎょっとした直後、ほんの一瞬ほっとしていたのを俺は見逃さなかった。野郎も多かれ少なかれ俺の女装にいらぬ心配があったらしい。
 こういう迂闊なところが気に食わないのだ。でも姉上はきっとそういうところも含めて惚れていたのだろう、それがわかってしまうことも気に食わないし、ついでに土方さんの女装が、コンセプトの疑問はあれどもまあまあいい感じなことも気に食わない。結局俺は、いつまで経っても野郎の何もかもが気に食わないのである。
「さすが土方さん、腐った湯婆婆のコスプレですよね」
 だからそう言っていつものように土方さんがばかみたいに喚くのを見て、俺は溜飲を下げるのだった。