※サンプルは後半の媚薬を飲んだ後の一部です。
※冒頭は夢主が飲んだ癖の強い媚薬(沖田作)の説明です
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一、服用により腹痛が起こる
二、服用により性感が高まる
三、服用後、他人からの身体的接触により性的興奮が高まる
身体的接触のない限り性的興奮は起こらない
四、性的興奮の高まりにより腹痛が鎮静する
五、身体的接触を中断することにより性的興奮が鎮静し、腹痛が再発する
その際腹痛の程度は性的興奮が高まる前より深刻化する
説明書じみた書きっぷりに苛立った、のは最初だけで、その衝撃的な内容に、後頭部をバットか何かで思いきり打ち抜かれたような心地になった。
どんっだけややこしい薬作ってんだ、癖ありすぎだろ! こんな前提条件、駆け引きを楽しむ気満々で作ってんじゃねえか、デスノートじゃねえんだぞ!
いずれ俺に使うつもりでこの薬を作っていたのだとしたら神経を疑う。地愚蔵のときといい、このところ俺への嫌がらせにかける熱量が尋常じゃない。ほんのちょっと前まではよくわからない黒魔術だの儀式だのを実践する程度だったはずなのに、いつの間にか自作の薬、それもこんな複雑な条件を付与したものを作れるほどになっていやがったとは。子どもの成長は早いと言うが、マヨネーズで動く車があると嘘をついていた頃がえらく可愛く思えてくる。あの頃はまだ簡単に首根っこを掴んで磔にもできていたのに。
それはさておき。行き過ぎた悪戯でしかないこんな内容、面と向かって一体どんな顔で説明しろというのだ。
「これがこの薬の効果だとよ」
俺の口から説明するのはコンマ一秒で諦めた。しゃがんでメモを彼女に突きつける。それを読む彼女の顔はもう、少しも色めいていない。
「……わかった、ありがと」
メモを読み終えた彼女はそう言ってさらに丸まった。さっきより顔色が悪くなったどころか、歯を食いしばって痛みに耐えている。
この一連の様子と説明書の記載に矛盾はなさそうであるが。
「この説明書の内容は本当か?」
「……本当、だと思う」
「そう、か……」
だとすると、彼女は媚薬の入った茶を飲んだことで腹痛を起こし(項一)、性感が高まった(項二)。性感の高まったことで俺が腕などに触れただけで性的興奮が引き起こされたが(項三)、手を離したことにより興奮は鎮まり、代わりに腹痛が再発した(項四)。一度性的興奮が起こってしまったために、痛みの増した状態で(項五)。
くそ、せめて先に説明書を読んでおけば……。
つまり、総悟の言っていた通り、この薬を飲んでしまったら効果が切れるまで痛みに耐え続けるか、継続的に性的興奮を感じ続けるかのどちらかしかないというわけだ。
後者は当然論外だ。となると痛みに耐える、の一択しかない――のだが、しかし。彼女の苦しみようは見るに堪えない。女の方が痛みに強いと聞くが、だとすれば相当な痛みであるはずだった。故意ではないにせよ痛みが増した原因の一端は、さっさと説明書を読まなかった俺にもあるわけで「じゃあ後は頑張れ」とほったらかしにするのも気が引ける。
何か。何か痛みを軽減してやれる方法はないのか。
(中略)
「痛みに耐えられそうにねえんだったら、俺が腕かどっかさすっててやろうか」
「え……」
それであれば妙なことをせずともよく、病人の背をさすってやるのと大差ない。
彼女は目を伏せ逡巡した。
「……三時間も、平気?」
「ああ。幸い今日は内勤だ、資料やら報告書やら読みながらやりゃ業務に影響ねえ。事務作業やってりゃいつも三時間なんかあっという間だしな」
「……」
ちらりと一瞬、何か言いたげに見上げられる。
「何だよ」
「いや、何でも。じゃあ、お願い」
彼女は息もきれぎれにそう言った。
自室から書類を持ち出し、また彼女の部屋に戻った。布団に横たわる彼女の右側に文机を寄せて座る。
「腕、触んぞ」
うん、と彼女が小さく頷く。彼女の左腕だけが出るように掛布団を捲り、できる限りそっと撫でる。隊服の上から、二の腕を上から下へ。
「ん……っ」
するとたったそれだけで、たちまち彼女の表情は艶めき、荒いだけだった呼吸が甘さを帯びる。俺は思わず手を引いた。
とんでもない提案をしてしまったと、俺はそこでようやく気が付いた。どれだけこちらが看病のつもりでいようが絵面上問題がなかろうが、全身性感帯になっている彼女にとっては、これは言ってしまえば愛撫されていることと何ら変わりないのだ。痛みを和らげることばかりに気を取られ、すっかり見落としていた。看病と同じなどと楽観視していた数秒前の自分をぶん殴ってやりたい。
しかし、手を止めれば彼女の痛みは激化する。気まずかろうが続けるしかなかった。
俺は極力無心に腕を撫で続けた。彼女が耐えきれずに時折漏らす小さなくぐもった声にいちいちどきりとしては、そのたび気まずさを充満させながら。まっとうに健全な気持ちであればあるほど、そういう反応をされる居心地の悪さといったらなかった。
「――あっ」
ふいに一段大きな声があがり、びくっと肩が震えた。彼女も自分で驚いたようで、ふと潤んだ瞳と目が合ってしまった。お互い、息を呑む。そしてすぐに気まずさに負けて慌てて目を逸らす。
正直、かなりきつい。まだほんの数分しか経っていないというのに。
でも耐えろ。いいか、気まずかろうがこれはれっきとした看病だ。俺が触っているのは腕。日々刀を振るって健康的に鍛えられた腕。ただの腕。腕、腕、腕、腕、腕。彼女が声や息をあげているのは苦しいからで、やましいことは何もない。
そう思い込もうとするが——思い込むも何もそれが事実なのであるが——、目を逸らしても耳に入ってくる音は防げない。むしろ視覚情報がない分、変に想像力をかきたてられ気が散って仕方がない。
入力に対する出力が想定と異なりすぎていて、頭がおかしくなりそうだった。ひどくよくないことをしているような気になってくる。真昼間の屯所、羞恥に耐えながら声を抑える彼女。そういうシチュエーションもお門違いな背徳感にますます拍車をかける。ただ善意の看病をしているだけだというのに、どうして俺がこんな気分にならねばならないのだ。
そうだ。これは腹を下した近藤さんだと思おう。地鳴りのごとき唸り声をあげ腹痛に苦しむ近藤さんだ。おい何やってんだよ、女にふられたくらいでやけ食いして腹なんて壊して。はあ? 俺に優しくしてくれるのはトシだけ? おいやめろ、そういうつもりがなくても気持ち悪ィんだよ。
できる限り気が逸れ醒めるようなくだらない茶番を頭の中で必死に展開する。もはや事務作業どころではなかった。
すると、ふいに腕をさする手首を掴まれた。はっとして彼女の顔を見て、苦しむ近藤さんとの差に心臓が跳ねた。
「ありがと。やっぱいいや」
「大丈夫、なのか」
「書類、全然集中できてないでしょ」
「……」
彼女に退けられるまま素直に腕から手を離す。申し訳ないが、正直ほっとした。かなり。きっと彼女もこの気まずさに耐えられなかったのだ。それもそうだろう。彼女にしてみれば、その気のない相手に仕方なく慰みを受けているようなものなのだから。
しかし、触れるのをやめるということは、当然ながらまた腹が痛みだす。それも、より激しさを増した状態で。彼女の顔がみるみる歪み、汗の粒が浮く。すぐに呻かずにはいられなくなって、食いしばった歯の隙間から、ぐぐ、うう、と声を漏らしながらさっき以上に縮こまる。普段は多少攘夷浪士に斬られようが殴られようが平然としている彼女が。
「おい……」
それでもきれぎれの呼吸の合間にぎりぎり聞き取れるくらいの声で「大丈夫」と強がってみせるので、とても見ていられない。
気まずいなどと言っている場合ではないのではないか。それは息の止まった人間を前に人工呼吸を恥ずかしがるようなものなのではないのか。不可抗力でこうなっているとはいえ、いや、だからこそ、俺が変に意識するせいで彼女に必要以上の恥辱を感じさせ、気遣わせてしまったのだ。
「なあ、やっぱ薬が切れるまでは」
身体を乗り出し彼女の腕に手を伸ばす。しかし、彼女は手首を掴んでかぶりを振った。
「さっきは俺がよくなかった、悪かった。今度はちゃんとするから」
「……」
「気になるだろうが、でもあと数時間その激痛に耐えるよりはいいんじゃねえのか」
「……」
「もしあれだったら俺は耳栓とアイマスクでもしといてやるから」
だがそこまで言っても、呻くほど苦しいくせに俺の手首を掴む力を緩めようとはしない。
「なあ、今はそんなこと気にしてる場合じゃ」
「そ……じゃ、なくて」
「え?」
「それも、ある、けど……うっ……それ、より……」
目を閉じたまま口を開いたり閉じたり、苦しんでもいるが何か言い淀んでいるようで、なかなか続きが出てこない。
「何だよ」
促すと、彼女はたっぷり間を置いてからうっすら目を開けた。
「中途半端、で……しんどい、から」
「あ? だから今度は薬が切れるまでさすっててやるって」
「……じゃ、なく、て」
彼女は気まずそうに――そしてそれ以上に苦しそうに――目を閉じ、黙ってしまった。
「じゃなかったら、何なんだよ」
「……これじゃ、足り、ない……」
「はあ? 足りねえって一体――」
話がはっきりしないもどかしさに苛立って、危うく最後まで質問を投げかけるところだった。すんでのところで彼女の言う中途半端の意味を察し口を噤む。
「……」
媚薬で敏感になっていても腕を触るだけでは足りない、つまり、イきたくてもイけない中途半端な状態でしんどい、ということだ。愛撫と同じなのだからその先も当然あるわけで、言われてみれば至極当たり前のことだった。
確かにそんな生殺し状態が三時間続くのは地獄だろう。だがそれを回避するには三時間の間に何度も彼女が横で果てるのを見届けなければならず、果てさせるためにはいよいよ看病で済まないところに触れることになるわけで、また話が変わってくる。
(中略)
「ん……」
手に軽く力を込め、俺は思わず息を呑んだ。隊士らしくほどよい硬さをした健康的な腕とあまりに対照的だった。そこは同じ人間の身体だとは思えないほど柔らかく、俺の手指の動きに合わせて柔軟に形を変えていくのが下着越しでもよくわかった。下着に包まれていない素肌の部分には極力触れないようにしながら、それでも時折指先にふいに思わぬ弾力を感じてひやりとする。
「……トシ?」
戸惑った声に、はっと我に返った。そうだ、何をしているんだ俺は。揉んでいるだけでは腕をさするのと変わらないではないか。セックスをするわけではないのだ、前戯めいたことをする必要はない。最短ルートでいい。
そう、これは看病だ。手当てだ。人工呼吸だ。自分に言い聞かせるようにそう思いなおし、俺は親指を膨らみの頂点のあたりでそっと滑らせた。
「ん……っ」
やはり腕とは全然違うらしい。そのままホックの外れていない窮屈な下着の中に指を突っ込み、先端を直接摘まんでこまを回すようにさすった。
「あっ」
すると大袈裟なくらいに布団の中で身じろぎをする。そのごそごそと動く衣擦れの音がやけに耳につき、必死に抑えようとして小さく漏れる声がまた俺の後ろめたさを増長していく。極力意識しないよう努めはするが、努めている時点でもう意識してしまっているわけだ。どうしようもない。さっきと違って今度はきちんとそれらしいところに触れている分、余計にたちが悪い。
(中略)
「トシ……やっぱだめ、かも」
「……一応訊くが……そういう、もうだめ、的な話じゃねえよな?」
「うん」
いや。いやいや。普段性感帯でもないところが性感帯になるような状態で、なぜこれで足りないのだ。道理が通らない。そもそもこの突飛な薬の存在自体道理も何もないのだが、このもどかしい苛立ちに文句を垂れずにいられない。
次は下を触れというのか。そもそも胸すら許容範囲を超えているのだ。下など論外、それだけは絶対にしない。しかし、では、どうすれば。
「あ、だったら、もう片方も触るか」
それは良い回避策ではあったと思うが、いざ口に出してみるとひどく変態じみていて死にたくなった。そもそもこの状況下、彼女から指示があるべきではないのか。言いづらいのはわかるが、俺から提案する方がよっぽどおかしいだろう。
「うん……」
しかし絶望は底を知らず、俺は空いた手をもう片方の膨らみに伸ばそうとして愕然とした。両手で触れるにはさっきまでのようによそを向いていられず、彼女と正面からまともに向かい合わなければならなかったのだ。当然である。
しまった……。
ばっちり目が合い、手が止まる。この状態で胸を弄って三時間。嘘だと言ってくれ。
しかし俺が固まっていると、徐々に彼女の顔がまた歪みはじめる。出かかった舌打ちを呑み込み、とっくに容量超えの脳みそのケツを叩く。そうして何とか絞り出した苦肉の策は、彼女の身体を抱き上げ、後ろから抱きしめるような形で俺の上に座らせることだった。
下着は外さずずり上げ、雑に放り出された膨らみの先端にそれぞれ両手で触れた。
「んんっ」
彼女の頭が動いて、いつかと同じ髪の香りが鼻にまとわりついた。彼女越しに自分の手元が見えそうになり慌てて目を逸らす。だが、手から伝わる感触は脳内で置き換えられるものもなく、それが目を逸らせない現実だということを突きつけてくるだけだった。
しばらくそうしているうち、自立する余裕を失ったらしい彼女はすっかり俺に体重を預け、かろうじて自分の口を塞いでいた腕からも力が抜けて声を憚らなくなった。
「ん、あ、あっ」
「おい……っ」
勘弁してくれ、真昼間の屯所で。いや、真昼間でなくとも屯所なのだ。
仕方なく彼女の首にかかるスカーフを口の中に突っ込んだが、いよいよ絵面がひどい。屯所の一番奥にあるこの部屋のあたりをうろつく人間はそういないが、それでももしこの状況を誰かに知られでもしたら舌を噛み切って死ぬ。腹を切る誇りはとうに失った。