05. 土曜の午後の過ごし方


ホグワーツでの最初の一週間は矢のように過ぎた。あまりにも広く複雑な城の内部構造を覚えきれず、カーラやマルシベールはよく授業の合間に迷いかけたが、何故か地理を完璧に把握しているロジエールに助けられて遅刻せずに済んだ。

ロジエール、マルシベール、セブルス、カーラの四人は不思議と気が合った。スリザリンは嫌な奴というのがホグワーツでの通説であるが、四人とも性格が全く違うのに何故か一緒にいて嫌ではなかった。しかし四人で行動していると(セブルスは一人で行動することもあったが)、周りの生徒に見られたりヒソヒソ話をされているのをよく感じた。土曜日の昼過ぎに四人で昼食をとりながら、なんだか行く先々で見られて落ち着かないとカーラがこぼすと、ロジエールが君は目立つからねと当然のように言った。カーラは驚いて目を見開いた。

「私が?皆が見ているのはあなたでしょう?」
「まぁそれも否定はしない。ただ君は数少ないスリザリンの女生徒だし、こんなことを言うのは僕としては嫌だが、目を惹く方だから」

ロジエールの説明が抽象的で分かりづらくカーラが首を捻っていると、マルシベールがロジエールの方に身を乗り出してチッチッと舌を鳴らした。

「まどろっこしいなロジエール、それじゃ伝わらないぜ。お前はいいとこの坊ちゃんでハンサムで、その上お勉強もできるらしいときてる——それに一緒にいるカーラ・グレイって女子は綺麗なお顔にブロンドで箒に乗るのがかなりうまいって噂だ、スリザリンじゃなけりゃお近づきになりたかったのに、とまぁこんなとこだろ」

マルシベールの包み隠さない言い方にロジエールは不快そうに眉を顰めたが、何も言わずに昼食のサンドイッチを頬張った。カーラは注目されているのは優等生のロジエールとばかり思っていたので驚いたが、箒に乗るのが上手いと噂になっていると聞いて悪い気はしなかった。ホグズミード村ではよくクィディッチごっこをしてリーマスと遊んでいたので、他の一年生よりも箒の扱いに長けている自信はあった。カーラは二年生になったらスリザリンのクィディッチ・チームに立候補しようと決めていた。

マルシベールは親切にロジエールとカーラの客観的評価を教えてくれたが、カーラからするとマルシベールだって似たようなものだと思った。ロジエールと同じく旧家の生まれで、それなのに『らしくない』フランクな振る舞いは人目を引いていた。

「そんなこと言ったらあなたもそうでしょ、マルシベール。それにセブルスが一回目の闇の魔術に対する防衛術でポッターと決闘しかけたっていうのも大きいわ」
「その話はするな」

カーラが押し黙っているセブルスも逃さないとばかりに指摘すると、マルシベールがぷっと吹き出し、セブルスは苦々しげにカーラを睨みつけた。

「あれはあっちが二人で有利だった」
「ったく、ブラック家の落ちぶれ長男と目立ちたがりのポッターなんかに負けるなんて」
「負けてない!」

マルシベールが傷口に塩を塗るような意地悪を言うと、すかさずセブルスが噛み付いた。カーラはまだ一週間しか経っていないのに、いつの間にセブルスとポッター達はそこまで仲が悪くなったのだろうと不思議に思いながらも、目の前の二人の掛け合いがおかしくて思わず吹き出した。カーラがくすくす笑っているとセブルスは毒気を抜かれたように、大きなため息をついた。




* * *




遅めの昼食を終えたところで、ロジエールとマルシベールは課題をやると言って談話室に帰っていった(マルシベールは昼寝をするつもりだとカーラにはピンときた)。セブルスも読みたい本があるとかで図書館に向かい、カーラは一人ぼっちになった。

課題をやってもいいが、軽い内容だったので明日取り掛かっても十分間に合う。何よりこんな天気の良い休日に薄暗い地下寮で課題をやるのはいかにも馬鹿げているような——カーラはそう思い、日向ぼっこか散歩でもしようと中庭に出た。そして湖のほとりまで歩くと、見覚えのある後ろ姿が二つ見えた。

「リーマス!ピーター!」

駆け寄りながら二人を呼ぶと、ピーターが何故かギクリとした様子で振り返った。リーマスは笑顔で手を振り返してくれたが、少し顔色が悪く疲れているようだった。

「ああ、二人と話ができるチャンスを伺ってたのよ!最初の一週間はどうだった?」
「カーラ、一週間ぶりだね。会えて嬉しいよ」

リーマスは弱々しく微笑んだ。カーラがピーターの方を向くと、ピーターはもじもじしながら曖昧に挨拶を返したが、しばらく話をすると用事を思い出したと言って城の方に走って行ってしまった。

「リーマス、ピーターは私が……」

リーマスはカーラの言葉を途中で制し、首を横に振って君は何も気にしなくていいよと言った。カーラはこちらを振り返ったピーターの顔を見た時に、なんとなく察しがついていた。グリフィンドールとスリザリンの生徒は対立し合う傾向にあると入学前から知ってはいたし、この一週間でその傾向が想像以上に顕著であることを実感していたが、実際に汽車で仲良くなったと思っていた友人に避けられると胸の奥がちくりと痛んだ。

「ピーターは周りに影響されやすいんだ。僕らの友人で、寮同士のいがみ合いの伝統に忠実なのが二人いるから」
「そう……。残念だけれど、仕方ないわね。でもスリザリンも悪い人ばかりじゃないのよ」

カーラは寂しい気持ちがじわじわと胸に広がるのを感じながら、情けない顔でリーマスを見上げた。グリフィンドールとスリザリンがいがみあっているからといって、幼馴染のリーマスとまで疎遠になりたくない。そんな気持ちが伝わったのか、はたまたカーラの顔にそう書いてあったのか、リーマスは安心させるようににっこり笑った。

「うん、分かってるよ。僕、のんびりしたい時はここに来るから、カーラも気が向いたら来てよ」

カーラはほっとして、もちろん、と返事した。そして二人で湖のほとりに腰を下ろし、ホグワーツでの最初に一週間について語り合った。魔法薬学が思った以上に難しかったこと、飛行術の共同授業でジェームズ・ポッターがずば抜けてうまかったこと(リーマスはカーラとジェームズが上手かった、と言ってくれた)、フィルチが呪いの石像ではなく城の管理人だったこと——などなど。ひとしきり話した後、リーマスはあ、と思い出したようにカーラの方を向いて言った。

「そういえば、汽車で言いかけてたことは何だったの?ホプキンスさんが何とかって」
「あ!そうそう。なんかね、あのルシウス・マルフォイが私に何か一緒にをしようと誘ってきたとしても、すぐにイエスと言ったらいけないって」
「何かって、例えば……?」
「それが詳しく聞く時間がなくて、分からずじまいなの。考えてみたけど、あのルシウスが私に何かやろうって持ちかけるなんてありえないと思うわ。談話室でも目も合わさないのに」

リーマスにもホプキンス氏の本意が分からず、うーんと首を捻った。

「イエスと答えるなってことは、何か良くないことだよね?うーん、何も考えつかないなぁ。ホグワーツの中で悪さなんて出来ないと思うし」
「そう、よね……。私にもさっぱり。今の所何もなさそうだけど、もしそんなことがあったらリーマスにも相談してもいい?」
「もちろんだよ。役に立てるか分からないけど」

それからは他愛もない話をして暖かな午後を過ごした。ルシウスが何か良からぬことを企んでいるのかもしれないが、全く見当もつかない今は一旦忘れておくことにした。そうでなくても課題やなんやらで考えることが多いのだから。二人は夕方まで湖のほとりで過ごした後、大広間のテーブルで一緒に手紙を書き、ふくろう小屋に赴いてカーラはロスメルタに、リーマスは両親にそれぞれ手紙を出した。カーラは充実した休日を過ごすことができ、大満足で夕食を取りにスリザリンのテーブルへ向かった。




SILEO

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