夢中になっていた短編集から顔をあげると、ガラス越しに雨粒が爆ぜていた。漫画以外に本なんて読まなかった僕が、珍しく文庫本なんて読んでるからかな、と自嘲した。集中力が着いたのはいいことだ。本を読みはじめて没頭するようになり、周りの煩雑なアレコレを遮断できるようになってからは一層のめり込んだ。
固い椅子から立ち上がり、ぐっと伸びをした。雨はやむ気配を見せず、いつの間にかこの図書館の中にも雨の匂いが広がり、人は減っていた。

傘は持っていなかったが、5分とせずに帰れる距離に自宅はある。読みかけの本を閉じて元の書架に戻し、出ていこうとしたとき。
「借りて行かないんですか?」
カウンター越しに声をかけられた。薄いピンクのエプロンと白いブラウスにメガネの、ちょっと太り気味のおねーさんは、ニコニコしながら話し掛けてきた。たまにふらっと来て、借りていくでもなくそそくさと帰るのがそんなに不思議なんだろうか。
「貸出カードをお持ちでなくてもすぐに発行できますし、1週間まで貸出してますよ。」


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銀の弾丸