「ねえ、藍ちゃんはさ運命の恋はあると思う?」


地球の裏側から帰ってきた幼馴染、及川徹が唐突に聞いてきた。しかも、そんなのあるわけないじゃんって答えるよりも先にワイン片手に運命について語り始めたのだ。


「出会った瞬間ビビビビ〜って分かるのもあれば、偶然が3回続いて、この人が運命の相手だって分かるパターンもあるんだってさ☆」


人間ってすごくない!?って言った顔は、酔いが回ってるのだろうと一目見れば分かるくらい赤くなっている。お酒そんなに強くないのにワイン開けるから。お兄なんてずっと喋ってる徹を完全スルーして1人で飲んでるし。


「ねえ、なにかあった?」
「フラれたんだと」
「ああ。それで」
「ちょっと、藍ちゃん!ああ、ってなに!?フラれると思ってたってこと?!ひどいっ!」
「………うん、思ってた。ごめん」
「俺も」
「うっそでしょ!?なんで?!」


試合会場で何度か見たことがある程度だったけど、たぶんあの子は徹が好きだったわけではない。他校の女の子たちからキャーキャー言われていた "青葉城西の及川徹が自分の彼氏だ" ということが良かったのだ。だから、無名になってしまった "アルゼンチンの及川徹" には興味がなくなり、彼女は去ったのだと思う。

目を潤ませながらなんで?と聞いてくる徹にそんなこと言えるわけがない。お兄はそもそも答える気はないようで、空になったボトルを捨てにキッチンに行ってしまった。


「………徹の、」
「うん」
「運命の人じゃなかったから…かな」
「それはそうかも」
「大丈夫。いつかきっと出会えるよ!」
「及川」
「なにさ」
「お前は何をしに向こうに渡ったんだよ」
「バレーだけど」
「全員まとめてぶっ倒すんだろ」
「うん」
「ならいつまでもメソメソしてんじゃねえ」
「爽が岩ちゃん並みに男前すぎて惚れそう」
「やめろ」
「んもぉ〜っ、照れちゃって☆」
「照れてねえ!って、こっち来んな!おい、藍!こいつなんとかしろ!」
「それはちょっと難しいお願いだね。だからお兄、がんばっ!」
「おい!」
「爽〜〜、愛してるよ〜〜」
「愛すな!離れろ!暑い!重い!クソゴリラ!」
「お兄も充分ゴリラだと思う」


失恋モード全開だった徹にはお兄の喝がすごく効いたらしい。翌朝、目が覚めると2人仲良くロードワークに行ったようで家の中は静まり返っていた。



◇ ◆ ◇


「え、まだ続いてたの?とっくに終わってると思ってた」
「ね」
「それで及川さんは?やけ酒中?」
「ううん。お兄に喝入れられて、吹っ切れたみたいで一緒にジム行ってる」
「仲良しじゃん」
「お兄は絶対に認めないけどね」


同じ中学出身の親友はお兄と徹とは高校も同じで、例のあの子のことを知っていた。だからこそ数日前の出来事を話した。少なくなったお酒を飲み干して、彼女は言った。


「ま、良かったんじゃん?変な女と別れられて」
「徹には優みたいな子と一緒になってほしい」
「なんで」
「ちゃんと見ててくれるから。それに、近くにいなくても平気そうだし」
「やめて。あれは恋したらダメな類の人種だからね」
「なにそれ、そんな類とかあるの?」
「あるのよ。好きになったら最後、沼から抜け出せなくなって終わる。あ、ちなみにあんたもその類だからね」
「は、?」
「これから出会うメンズは大変だ。あんたから抜け出せなくなって、骨抜きにされちゃうんだから」