ギャハハハハ!と、離れていても聞こえてくるのは男子特有のバカ笑い。この暑さだからどうせ外の水場で水を掛け合って騒いでるんだろう。
いいなぁ、男子は。何も気にせずにああやってバカ騒ぎができるんだから。
そんなことを思いながら、水がこっちに飛んでこない距離を保って真横を通り過ぎようとした瞬間だった。
あ!と言う複数の声とほぼ同時にターゲットを失った水が勢いよく命中したのだ。
………私に。
「…………」
「うわぁあ!す、すんませんっ!」
びっっくりしたぁ。
まさか想像以上の水圧の水がかかるとは思ってもみくて、ボタボタ落ちる水滴を拭いながらこちらに走ってくる人物に目を向けると、バレーボール部の新主将で同じクラスの二口堅治だった。
「わり」
「いいよ、いいよ。もう帰るだけだし。まあ、ビックリはしたけどね」
笑っちゃうくらいずぶ濡れなんだけど、この気温だし、今日は自転車で来たから家に着く頃には乾いてるはずだ。それに、暑かったからちょうど良かったかも、なんて思っていると、目の前の二口がすごい顔していた。
「なに」
「……」
「ちょ、退けてよ。さすがに早く帰りたい」
「おっまえなぁ、正気?」
「はぁ?どういう意味?」
いくら二口でも意味が分からない。こんだけずぶ濡れなんだから早く帰りたいと思うのが普通だ。それなのに、なんなのよ。正気?って、正気に決まってんじゃん!
「………てん、だよ」
「え?なに?」
「透けてんだよ!」
「ああ、大丈夫。これキャミだから」
「透けてんだよ」「!!!!早く言ってよバカ!」「ん」「なに」「これ着ろ」「……これ部活のじゃないの」「いいから、着ろ」「……ありがと」「ん」
手渡したジャージを着たのを確認してからもう一度悪かったと謝ってから二口は部活に戻っていく。🌸はブカブカのジャージを着たまま家に帰るとたまたまその日早く帰ってきていたお父さんが彼氏のか!とビックリ+ショック。事の経緯を説明するとお母さんはあらとにんまり。お父さんは気が気じゃなく、二口の事をどんな奴なんだと根掘り葉掘り聞いてくるがそこまで仲良くないし、そもそもクラスは別だから🌸もよく知らないと答える。予め滑津に明日の部活は何時まで?と聞いていた🌸は、バイト終わりにジャージを返しに体育館にやってくる。🌸にすぐに気付いた滑津が二口を向かわせて、「どした?」と首を傾げる姿に笑いながら「返しに来た。ないと困るでしょ」ってジャージの入った袋を渡す。「別に困らねえけど」「明日練習試合でどっか行くのに、主将だけ上着てないのどうかと思われるよ」「…そこはなんとかなんだろ」「とにかく、はい。ありがと。あ、安心してちゃんと洗ってあるから」「お、おう」「じゃ、部活がんばって」「おう」って🌸は颯爽と帰ってくんだけど、あの日の光景がぶわっと脳裏に蘇って顔が赤くなっていく。あの一件、🌸は異性であると認識しちゃったもんだから姿を見かけるだけでドキッとするようになる。そんなある日、🌸が後輩に告白されている現場に遭遇。バッチリ目が合う二口。気まずっと思いながらそーっとその場を離れようとした瞬間、「アレ私の彼氏」と爆弾発言。後輩いなくなった後「彼氏いるって言ってもしつこくて二口使った。ごめん」「おまっ、俺じゃなかったら本気にすんぞ」「うん。だからあそこ通ったのが二口でよかった」「通らなかったらどうしてたんだよ」「走って逃げる」「いや、逃げ切れねえだろ。あいつサッカー部だぞ」「それは無理だね。良かった、二口通ってくれて。君はいつも助けてくれるヒーローみたいだね」なんて言ってくるからぶわわって赤くなりそうな顔を必死に耐える。そしてこの後輩くんから瞬く間に広がってしまった『二口と🌸が付き合っている』という噂。否定して回るのも面倒だから否定も肯定もしないでおこうと決め、いつも通り過ごすんだけど🌸が困ってたらすかさず助けてあげてる二口を多数目撃され噂に信憑性が増していき、気付けば学校公認カップルになる。でも本当は付き合ってなんかないし、なんならお互いの連絡先すら知らない仲。部活引退後、とっくに自分の気持ちに気付いてる二口があの噂が広がってから初めて「一緒に帰るぞ」と🌸のクラスまできて周りは大騒ぎ。
「一緒に帰るって、どういう意味?」「あ?そのまんまの意味」「……?私と二口が一緒に帰るの?」「そ」「なんで?」「っ!いいから帰んぞ」って半ば強引に連れ出して一緒に学校出て歩く。学校からある程度離れたところで二口がやっと口を開く
「あのさ」「ん?」「お前、今はどうなの」「何が」「男」「いないけど」「んじゃ、本当にしちまおうぜ」「何を?」「俺らの噂」「付き合ってるってやつ?」「ん」「え、なに。二口って私のこと好きなの?」「…………」「好きなの?」「………」「私は好きになったよ。二口のこと」「………ダーッ!くそ!先に言うなよ」「意気地なしだったのはそっちじゃん」「🌸、好きだ。俺と付き合え」「口悪っ」「返事」「はいはい」「はいは1回」「それ二口が言えるの?」「………帰んぞ」「もう帰ってるけどね」「おっまえ」「なに?」「…………なんでもねえ」「なんか勝った気分」「あんま調子乗んなよ」「乗ったらどうなるの?」「こうなる」って触れるだけのキスをする二口とみるみるうちに真っ赤になっていく🌸。その姿にケラケラ笑ってるんだけど、カチンときた🌸が二口のネクタイ引っ張って顔が前に来たところでやり返して今度は二口の顔が赤くなっていくのを見て大満足。これから大人になっても2人は一緒に歩んでいくんだと思う。