怪談話もほどほどに

怪談話も程々に

───この旅館、出るのよねぇ

そんなことを聞いたのは、たまたま旅館のフロントにお饅頭を買いやっに来た時だった。
私はたまたま、宇髄の秘湯探しに連れてこられ、山奥の旅館に来ていたのだ。露天風呂は申し分ないくらい見事で、今度雛鶴さん達も連れてこようかと話していた。
風呂から上がり、ご飯も食べ、デザートに温泉饅頭でも!と思った矢先、聞いたのだ。
いや待とうか??出るってなぁに??いや、だいたい予想つくけど、あ、宇髄??なんでそんなニヤニヤしてるのかな??

「出るって、一体何が出るんだい?」
「あらやだお客さん、聞いてたの?」
「あぁ、たまたま耳に入っちまってね、それで、何が出るってんだい?こんな旅館に」

や、やめろーーッ!!聞くなよッ!!なんで聞くの?!曖昧にしとこうぜそこはよォ!!
抗議として奴の腹筋にドスドス拳を入れれば、まあまあ落ち着けって、と拳を突き出した手を取られてひょいっと抱かれた。
離しませいッ!!耳を塞げないように手をとるな!!はな、離せえええ!!!

「あらあら、元気なお子さんねぇ」
「いや……まあいいか、それで?」
「東の一番奥の間なんだけどねぇ……なんでも、首を吊って死んでしまった人の霊が出るみたいなんだけど……その部屋に泊まった人達が相次いで不幸な事になって……」
「ほぅ……その部屋は今どうなってるんだ?」
「もちろん封鎖されてるし、誰も入らないようにしてるわ、御札もいい所のものを頂いてはらせて頂いてるの……ただねぇ、それでも、たまーーにこの旅館の中をうろついてるのか、白い人魂を見た人が……」

もはやそれを聞いて限界だった。拘束されてない方の手でばんばん彼の胸元を叩き、ぐいいいっと押し、暴れる。
嫌だって無理無理なにそれ?!それってさぁ、御札貼っても意味ないってことだよね??それか漏れ出したとかして旅館の中漂ってるってことでしょ!?ヤダヤダ無理無理無理無理っ!!!

「ぐっ、こら、雅風!地味に暴れんな!」
「ならこの手を離せ!!馬鹿宇髄!!」
「誰が馬鹿だ!!」

喧嘩がこうして勃発した。

「ほんとにもう、君って、やつは、もう、」
「お前ほんとこの手の話派手にダメだよな」

お饅頭の気分でもなくなり、私達はさっさと寝て早くここを立とうと、床の整えられた部屋に戻ってきていた。
そして、頭を抱え、文句を垂らす私に向かってゲラゲラと笑い声をあげるそいつに、私は枕をぶん投げた。が、それは避けられ畳に落ちる。

「んなの当たるわけねぇだろ?それよりも、そういやぁここって東の方だよなぁ」
「うっ」
「しかも、端の方に近い……」

急に声を落とし始め、すっと表情を消し、行灯の明かりで顔に影を落とすようにして俯く。おいやめろ何しだしてるんだやめろ。

「なあ、静かにしてるとよ……襖の斗を引っ掻く音が聞こえてこねぇか?」
「そんなの聞こえないしそんな音しない」
「いやいや、ほら、こう耳を済ませてみろよ……かりかり、かりかりって奥の方から……ぐっ」
「だか、ら!やめろと言ってるよね!?」

堪らず彼の口元を両手で覆えば、むごむごと口を未だに動かしている。ていうか君がそんなこと言うから寝るのが怖くなるだろうが!どうしてくれる!?どうしてくれる!!
そう彼を睨んでれば、手のひらからぬろっとした感触がして、思わず声を上げながら手を離した。

「舐めたぐれぇで派手な反応だなぁ?」
「っ!!」

自分の顔に熱が上がるのを感じながら、こいつほんと殴ってやろうか??と拳を握ったその時、突然プツン、と行灯の明かりが消えた。

「え、な、なに?なに?」
「俺はなんもしてねぇぞ」

本当かどうか疑わしいな!!
さぁぁっと血の気が引いていくと共に、先程の従業員の話の続きを思い出した。

─────そうえば、人魂を見る前にお客さんたちみんな突然部屋の明かりが消えて、重たい錆びた戸を引くような音がしたって言ってたわねぇ

その言葉が頭をすぎた瞬間、襖の外の方から、キィィッというなにかを引く音が────

「ひぁぁあぁあっ!?」
「うおっ」

もはやなりふり構っていられなかった。身体の震えを感じながら、宇髄に飛びつけば、声を上げながら彼は私を受け止めつつ後ろにひっくり返った。

「おと、うずい、おときこえ、きこえたぁぁ」
「お、おーー、そうだな聞こえたな」
「むり、むりだって、もう、やだぁ」

恐怖で体が震えて、なんかもう涙まででてきた。首元に抱きつきながら、首元に顔を埋めれば、大きな手のひらで頭をぽんぽんと落ち着けと言わんばかりに撫でられる。背中にも手を回され、さすられた。

「大丈夫だ、ただの家鳴りとかとそういう音だ」
「で、でもっ、あかり、きえた」
「ただ油が切れただけだろ」

だから平気だから落ち着け、と、彼は優しい口調で私に語る。
それでも震える私に、宇髄は呆れたように言葉を漏らした。

「こわい、むり、め、あけられ、なぃ」
「ほんとなんで鬼は平気なのにこれ系ダメなんだよ」
「お、鬼は波紋で倒せる……おばけは倒せない……」
「お前って派手に脳筋だよな」
「君がそれいうの?」

ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、 思わずじとっとした声でいえば、お前可愛げねぇなぁと返された。そんな私に惚れて外壁埋めて逃げられなくしたのはどこのどいつだ。
腹いせに涙を肩口でぐりぐり拭いてやりながら、うずいのばかなにしてくれてんだと恨み言を零せば、なぜだかぴたりと宇髄が動きをとめる。

「……なぁ、雅風、こういう時どうするか、お前知ってるか?」
「?、急に、な、にっ、?!」

低い声でそう言われた瞬間、ぐるん、と体が回転させられ、ぽすり、と背中に布団が触れた。驚いて思わず目を開ければ、闇に慣れた目で、鼻先数cmの所にある宇髄の顔を見ることになった。暗がりに光るその目が、どことなく熱が籠っているように感じ、首に回していた手を解いて、そっと、彼の胸板を押す。

「ま、まって?うずいさん?ねぇ、」
「先に押し倒して誘ってきたのはそっちだろ?」
「さそっ!?」

いや別にそんなつもりなくて押し倒してなんてないですよ!?いや、あれ?おしたお……押し倒してないよ!?

「ひゃっ」

ぐるぐると目を回していれば、内腿をつつっと指先で愛撫され、思わずでた声に顔を赤くすれば、ぐっと顔を近づけられた。

「やれば、怖いもんもなにも、考えられなくなるだろ?」
「あぅ、んっ」

低い声で耳元で囁かれ、ぴちゃり、と音を立てて耳孔を犯すの様に舐められる。恐怖で震えていたからだは、いつの間にか彼の情欲に、震えていて、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。

「き、みっ、もし、かして、さいしょから、その、つもり、でっ」
「さあな、」

まあ、その答え合わせは朝でもいいだろ、と、彼はそんなことをこぼし、私の浴衣の帯に手をかけた。

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