ぼくのもくば
牛若丸と幼いマスター
標高6000メートルの雪山に位置するこのカルデアの、雪景色の見える廊下は、息を吐けば白くなるほどに寒い。
そこがペタリとなってる編み上げブーツの踵で足音を立てながら、七星は目の前の、自分のサーヴァントである牛若丸のことを見上げつつ、揺らめく袖に手を伸ばす。
「主殿?どうかなされたのですか?」
牛若丸は自分袖を引く幼いマスター
────────七星に目を瞬かせると、身体を向け、ひょいっと目を合わせるようにしゃがみ、まん丸の大きい双眸と見つめあう。
牛若丸を、萌葱色に収めた七星は、少し眉を下げると、またくいっと彼女の袖を引く。
「うしわか、さむくない?」
ぽつりと、そうつぶやくようにでた小さな声はしっかりと牛若丸に届いた。
不思議そうにしながらも、小首を傾げつつ、「ええ、大丈夫ですが……?」とそういえば、七星は袖から覗く牛若丸の手を握り、温度のほとんどないそれにきゅと口を一文字にする。
そして、じっと見つめてくる様子に、改めて自分の姿を思い浮かべ、確かに他の者より布面積は少ないが…… そのことを気にして自分を心配してくれたのか、と改めて理解し、自分のことを思ってくれるこの幼いマスターが可愛くてしょうがないとばかりに、牛若丸は満面の笑みをうかべ、右手で片手で握りきれるほどの小さな手を包む。
「心配はありませんよ主殿、私はとても頑丈なので……それに寒さなんてなんのその!英霊であるこの身はそういったものにも強いのですよ!」
ぽんっと左拳で自分の胸元を叩く彼女に、ぱちぱちと七星瞬きをし、次にはムッとした顔をする。言っていることはなんとなく理解しつつも、けれど、自分の手を包む手の温度に納得がいかないらしい。
七星は、包み込んでくる牛若丸の手から両手を抜くと、自分の首に巻いている薄緑色のマフラーを解き、しゃがみつつ目線を合わせてくれている牛若丸に自分の体温が残るそれをくるりと巻き付けた。
「ええっと?」
突然の行動に、小首を傾げれば、「……まいてくれないとやだ、うしわか、やっぱりさむそうだもん」と、ぷっくりと桜色に染った頬を膨らます。
それに慌てて、ふるふると牛若丸は首を横に振る。
「いえ、それでは主殿が風邪をひく恐れがあります」
「これくらいなら、さむくないからへいきだよ」
「ですが……」
マフラーを解いたら許さないと目で言ってくるマスターにいやはやと頬をかけば、きゅっと自分の手のひらを小さな暖かい手が重なった。
「そんなにしんぱいなら、えねみーなんてばんばんやっつけちゃってよ」
「主殿、」
「うしわか、とってもつよいらいだーだもん
だから、おわったらえみやさんのとこでいっしょにおちゃしてるーむにかえろ」
そう言うマスターはふんにゃりと笑うと、はやく、うしわか、と彼女の手を取って駆け出す。歩幅の違いで少し早歩き程度で、身体を前屈みにしながら引っ張られる牛若丸は、自分の手を引く幼いマスターに目を細める。
───なんて、暖かい……
シミュレーションルームに着くまで、手はしっかりと握られたまま、そして、エネミーを葬る牛若丸の首には薄緑色のマフラーが巻かれたままでいたのだった。
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とっぷ