おきにいりのあの子

 鏡の前で後ろ髪の長さを気にしている主君を見て、コンラッドは「伸ばさないんですか?」と訊いた。
 肩につくかつかないかという長さの髪は、初めて会った時とそう変わらない。地球にいる時に長さを整えているのだろう。
部屋に籠って何かをするよりも外で体を動かす方を好む彼女には合っていると思うが。
ユーリが、コンラッドの方を振り返った。

「コンラッドは長い方が好き?」

「こだわりはないけど、ユーリなら長い方も似合うと思いますよ」

 お世辞等ではなく、素直な感想だった。
 髪が短くても長くても、コンラッドは彼女の髪が好きだし、髪を伸ばした姿も見てみたいと思った。

 ゆっくりと彼女の首元へと手を伸ばす。指ですくうと、さらりと滑り落ちた。もし長さがあれば、背中に流れる髪の堪能することもできるかもしれないなと俄に思う。

「でも、伸ばしたら運動の邪魔になるんじゃありませんか?」

 だから伸びてきたら切って、短いままにしているのだと思っていた。
 ユーリは、そうなんだけど、とはにかみ笑いを浮かべた。

「ツェリ様とかアニシナさんの綺麗な髪を見てたら、いいなって思えてさ」

 横髪をいじっていた手で、ユーリの耳の付け根をなぞっていく。顎の下に指を添え、上を向かせたところで口付けを与える。触れるだけの、軽いものだ。

「俺はどんな貴方でも好きですよ」

「…知ってる。私がただ、…」

 言いにくそうにしたユーリはもそもそと口の中で理由をこねる。そして、

―――コンラッド、…よく髪を撫でてくれるから。好きなのかと思って…。

 小さく零れた彼女の本音。
 抱きしめた時や、上手にできて褒める時、眠りにつく彼女の頭を撫でてやっている覚えはあった。形の良い頭と黒髪の撫で心地がよくて、思い出した中でも恋人同士の時間のはじまりは、頭を撫でるところから始めたのが多い。
 黒髪だからとか女性の長髪に特別な魅力を感じることはあまりない。触れるのは、ユーリに触れたいからだ。許されるなら腕の中に閉じ込めて気の済むまで愛でたりしたいのだか、そこを耐えて、頭を撫でるのに妥協しているところもあるくらいだ。

 いじらしい年下の恋人に、「可愛い」と囁く。
 髪が伸びた彼女に送る髪飾りは何にしようと考えながら、彼女の変化の様を一番傍で見るのは、自分が良いと思っていた。



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