「日に焼けましたね」
小麦色のように焼けた肌を見て、コンラッドは素直な感想を言った。
彼の愛しい主は、最後の仕上げてあるセーラー服のスカーフを結びながら、「そう?」と自分の腕とコンラッドの顔を見比べた。
草野球チームを作ったのだと、そう彼女が嬉しそうに話してくれた時から季節は巡り、ユーリの世界では二度目の夏を迎えていた。
時間の流れは違うけれど、眞魔国でも短くない時間を過ごしている。己の容姿に無頓着なところのあるユーリの変化に気づくのは、気にかけてくれる周りの人たちーーー特に、いつもそばにいてくれるコンラッドだった。
他人に言われて、自分が日焼けしたことを自覚したらしいユーリはのんびりした様子だ。
「日焼け止めは塗り忘れないようにしてるんだけどね。ムラケンと海に行ったから、それでかも」
ダイケンジャーこと村田 健に誘われて、この夏も海の家でアルバイトをしたのだ。
夏の海といえば、バンドウくんに襲われかけたり小さな渦潮に飲まれて二人でスタツアして大変な目に遭ったこともあるけれど、それはそれ。
異世界で国を動かす立場にいても、地球では一介の高校生。草野球チームの財政状況を支えるために、勉強時間を惜しんで夏のバイトに勤しんでいた結果、こんがり焼けた肌を見た王佐に卒倒されてしまった。ギュンターはユーリが地球に帰ってしまい、動静が定かでない環境下で何か変化があるとひどく心乱されてしまうのだ。それなりに時間を重ねてきたけれど、きっと彼の心配性はずっと続くだろう。
「痛かったんじゃないですか?」
「今は何ともないよ。……最初のときは、お風呂に入ったときは少ししみたけど」
気遣わしげなコンラッドに、ユーリははにかむ。日に焼けて肌が赤くなった時はお湯などの刺激に痛みを感じたけれど、いまはもう何ともない。スタツア直後のお風呂もゆっくり楽しませてもらった。
秋が過ぎて冬になる頃にはきっと薄くなることだろう。
セーラー服の半袖を二の腕が見えるくらいまで捲ってみて、肌の境目を探す。
「……あれ、どこだろう」
けれど肩あたりまで捲られた肌は、手首から肩へ至るまできれいに焼けていた。一年前は、半袖ユニフォームのところで境界線が引かれていたのに。
コンラッドも首を傾げる。「……あ」声を上げたのはユーリだった。あることに気づいたというような、一人納得した風な。
けれど、コンラッドとてユーリのことはよく知っている。誰よりもユーリのことを知り、彼女のことは分かるという、自負があった、それを裏付けるように、彼も同じような予想に至っていた。
夏。極度に日焼けをするようなアルバイト。腕や肩、首まで晒すような格好といえば。―――ヒルドヤードの大浴場で入浴着を渡されたユーリの言った言葉を、コンラッドは忘れていなかった。あの時はさすがに別々の浴室だったけれど、水着を着て働いたとなると、コンラッドとしては見過ごせない。
あまり女性が肌を晒すのはいかがなものかという名付け親としての親心ではなく、自分の預かり知らぬところで無防備な格好をすることを快く思わない恋人として、彼女の向こうでの生活について追求する。
「水着で……その肌を、他の男たちに晒したんですか」
あらぬ誤解を招きそうな言い方はやめて欲しい、とユーリの背に嫌な汗が伝う。噂好きの侍女に聞かれたらどうする。
「違うからっ、服がノースリーブだったっていうだけだから」
変な勘違いしないでとユーリは距離を詰めてきたコンラッドから離れる。まだ納得のいっていなさそうな彼に、
「っていうか、へそ出しとか露出の多い服なら、上がいるじゃない」
「あの人はいいんです。話を逸らさないでください」
ソファの後ろに逃げこもうとしても、身長の高い彼はソファの背もたれ越しにユーリへと手を伸ばす。
「どうして逃げるんです」
「コンラッドがなんだかこわいからですけど!」
僅かな攻防の末、コンラッドはユーリを捕まえて抱き上げた。捕まえるという意志を見せたどこかの国の特殊部隊にいたという経験持ちの現役軍人に、日本育ちの女子高生が敵うはずなどなかった。
下ろしてーと足をばたつかせるユーリの抵抗など構わず、コンラッドは片手で彼女を抱きながら、もう片方の手で彼女の首元に触れる。襟の中へ手を入れることも容易いだろう。
「貴方の肌を見たいんです。俺にはダメなんですか?」
触れる許可を求めて来られても、ユーリは簡単に頷けなかった。なんとなく。日焼けした肌を晒すのは恥ずかしい。
「水着の跡を確かめないと」
きっと俺のつけた跡は消えているんでしょうね、とコンラッドは残念そうな、それでも楽しそうに言った。
せっかく糊付けして綺麗に整えてくれた制服か乱れてしまう。ーーー脱がすなら、皺やつかないようできるだけ早めがいいな、と考えながらユーリは抱擁の熱を受け入れた。
その後、日焼けが薄くなるまでコンラッドに肌を見せるのはやめようと改めて決めたユーリと、てっきり袖なしのシャツかと思っていたらユーリの水着(セパレートタイプだった)の証拠を見てしまい不機嫌になったコンラッドの攻防が、再び寝室にて繰り返されることになる。
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