ベッドに座ったところで、額にキスが降ってくる。
子どもにするような、軽い触れ方。今日も良い夢が見れるようにと思いの込もったそれを―――物足りなく思うなんて、いけないことなのかもしれないけれど。
離れて行こうとする袖を掴んで、「他のはないの?」と銀の散った焦げ茶を見つめれば、「他のとは?」と首を傾げられてしまった。常に気配りを欠かさず、ユーリが名前を呼ぶだけで何を求めているのか察して正解の動きをしてくれる護衛役には、らしからぬ返事だった。
―――分かっていて、あえて言わせようとする恋人の意地悪に、
「分からないの?」
まだ直接求めるには恥じらいを感じてしまう主は、唇を尖らせる。袖を掴んでいた右手を取られ、逆に彼の左手に掴まれた。コンラッドは床に片膝をつき、己の眼前にユーリの手を持って来る。
「貴方から、俺を求めてほしいんです」
そう言って、ユーリの人差し指の先に唇を押し当てた。ユーリが小さく体を震わせたのに構わず、次は中指。薬指と順に触れ、最後は小指の先に。強い力で握りこまれているわけではないから、ユーリが嫌だと振り払えば簡単に解けてしまう。
僅かな動きすら触れた所から伝わるのがたまらず、ユーリは無意識に止まりそうになる呼吸の中で彼の動きをじっと追っていく。
コンラッドは小指から唇を離すと、次は左手を取る。そして同じようにそれぞれの指の先に唇を押し当て、ユーリに己の熱を伝えると、悪戯のように人差し指の先に歯を立てた。痛みはなく、甘噛み程度。口を開いて解放してやっても、彼女の肌には跡一つ残っていない。
「…そんなところにキスとかして、何か楽しいの?」
指は性感帯じゃないはずなのに。さんざ見せつけられたユーリの顔は熱を帯びて真っ赤になっていた。
「貴方に触れるんですから、楽しくないわけがありません」
「……名前、呼んで」
「ユーリ」
甘く呼んで、ユーリの頬に左手を添える。何度か頬を撫でた後、下の方に滑らせて顎を捉えた。捉えるといってもほとんど力は入れておらず、下唇に押し当てた親指で小さく口を開かせる。濡れた赤がちらりと見えたのは一瞬、惑うように奥へと姿を消してしまう。僅かに開いた隙間の前に、コンラッドは指を差し出た。
―――彼が何を求めているのか、ようやく気づく。
僅かな前に何が楽しいのかと問うた口で、彼が自分にしたのと同じことを望まれている。
ユーリはコンラッドの顔を両手で挟むと、さんざ勿体ぶられたそこに口付けた。
「我慢できなかったんですか?」
口付けの合間、見透かすような問いかけられた言葉に、「コンラッドのせいだもん」と煽るように返す。
気持ちいいことを知ってしまった後では、全部がぜんぶ、もどかしい。
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