一雨来そうな天気だった。分厚い暗雲が太陽を覆い隠し、ごろごろと唸り声を上げている。近づいてくる雨の気配を遮断するように、コンラッドは大窓のカーテンを閉めた。
「残念ながら今日の遠乗りは中止ですね」とコンラッドが告げると、ユーリは少し口を尖らせながら「残念だね」と返した。カウチに座り、両足をぷらぷらと揺らしている。
せっかく乗馬用に新調してもらったブーツの出番が先送りになるのが、ずっと前からこの日を楽しみにしていた分、どうしても残念でならなかった。
しばらくして、ユーリは自分でブーツを脱ごうと腰を浮かせた足を持ち上げてストラップに手を伸ばした。しかし、まだ慣れない靴の硬さに指先が上手く動かず、少し苦戦している様子だ。
その姿を見たコンラッドは「手伝いましょうか?」と声をかけた。ユーリは一瞬彼を見上げ、「大丈夫、自分でするから」と言いながら頑張ろうとする気持ちが顔に出たけれど、侍女に履かせてもらったブーツは、一人ではなかなか簡単には脱げそうにないデザインだった。
「手伝いますよ」と言って、コンラッドはユーリの前に膝をついた。
彼は片方の足を優しく持ち上げ、ブーツの縁に指をかける。しっかりとフィットした革靴が足に馴染んでいるのを感じながら、革のしなやかな音を立てて靴を少しずつ脱がされていく。
「新しい靴は、慣らさないと少し硬いかもしれませんね」と、彼は穏やかに語りかけながら、ブーツをするりと足から外した。
「ありがとう、コンラッド」
コンラッドの手が自分の足に触れる感触は温かくて、意識がその優しい手に集中する。
ブーツを脱がせてもらっただけーーー何でもないことなのに、侍女に履かせてもらった時とは明らかに違っている。
コンラッドの指先が、足の甲に触れた。足の裏から足首までをなぞられて、くすぐったいような不思議な感覚が体を走る。
これはよくない。
「なんか、人に靴を脱がせてもらうのって、はずかしい」
「そうですか? でも、この手の靴は一人で履くのは大変でしょう」
「そうだけど、コンラッドはなんかこう……人にするのが手慣れてるね」
コンラッドは少し驚いた顔をして、それから小さく肩を竦めた。
「そう見えますか? 多分、ヴォルフラムが小さい時に手伝ったからかな」
コンラッドはユーリの右足に手を添え、ゆっくりと爪先に顔を近づけた。そして、足の甲に優しく唇を押しつける。
「こ、コンラッ……」
ユーリが驚いて足を引っ込めようとすると、コンラッドは逃すまいと右足の足首を掴んだ。そのまま踝に唇を滑らせて、それから小さく音を立ててキスをする。
「な、なに……してるの」
「ユーリが、俺に脱がされるのを恥ずかしがるから。だったら、もっと恥ずかしいことをすれば恥ずかしくないかと思って」
コンラッドは悪戯っぽく笑って見せた後、足の甲にもう一度キスをした。それから踝へと唇を滑らせて、今度は強く吸い上げる。
「あ……っ」
思わず声を上げたユーリは、慌てて口を塞いだ。しかし時すでに遅く、コンラッドにはしっかりと聞こえてしまったようだった。彼は足首から手を離し、代わりに足の裏を優しく撫で上げた。
「くすぐったい?」
「う、うん……もうやめてよ」
ユーリはくすぐったさに身を捩りながら、コンラッドの手を捕まえて引き離そうとした。しかし彼はそれを許さず、さらに足の裏を愛撫する。爪で軽く引っ掻くと、今度はびくりと体を震わせた。
「や、やだってば……コンラッド!」
ユーリは顔を真っ赤にして抗議した。しかしコンラッドはそれを無視して、さらに足の指に舌を這わせた。
「ひ……っ」
指の間を舐められると、ぞわりとした感覚が背中を駆け上がる。思わず変な声が出てしまい、ユーリは慌てて手で口を塞いだ。コンラッドはそれを見て小さく笑い、今度は親指を口に含んだ。そしてそのまま強く吸い上げる。
「やっ……!」
びくんと体が跳ね上がりそうになるが、足首をしっかりと掴まれているのでそれも叶わない。コンラッドの舌は指の付け根から指先までを舐め上げていく。その度にびくびくと反応してしまう自分が恥ずかしい。
「お、おねがい。もう……」
どれくらいの間、続いていたのか。懇願するように訴えると、コンラッドはようやくユーリの足を解放した。しかしほっとしたのも束の間で、今度は足首からふくらはぎにかけてゆっくりと撫で上げられる。
「あ……っ」
ぞくぞくとした感覚が背中を駆け上がり、無意識に声が出てしまう。コンラッドはそんな反応を楽しむかのように何度も同じ動作を繰り返した。やがて手が膝まで下りてくると、そこで一度止まる。それからまた上へと戻り始めたが途中で止まり、今度は太股の内側を優しく撫でる。
「や、……ぁ」
ひとしきり愛撫を繰り返した後、コンラッドの手が止まったときにはユーリの顔はとっくのとうに真っ赤になっていた。
「きょ、今日はしない予定じゃなかったの」
本当なら外出する予定だったのにと、ユーリはコンラッドを睨みつけた。真っ昼間からこんなこと、という本気ではないながらも非難を込めて。
「すみません、ユーリがあまりに可愛いから」
コンラッドは悪びれた様子もなくそう言うと、ユーリの体を優しく抱き寄せた。
「でも、ユーリが本当に嫌ならやめます」と耳元で囁く。その声が少し掠れていて、それが余計に煽ってくるので困る。
しかも、ユーリの本心もいやじゃない。
跪かれて肌に触れられた時からユーリの体は熱を持ち始めていた。
「……ばか」
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