ある団員の目撃証言
セキは長の家系に生まれたが故、小さい頃から長に成るべくして育てられた奴だった。
泥だらけになるまで遊ぶ時間よりも、ポケモンのことやこのヒスイ地方について学んでいる方が長かった。今はそんなことはないが、小さい頃は取っ付きにくいやつという印象の方が強かった。
そんなセキは、今や自他ともに認める実力の持ち主で、コンゴウ団のリーダーだ。同年代の俺から見ても、セキという男は人を惹きつけるものがある。
街に行けばその目立つ容姿から、女子の視線を独占してしまう。
羨ましいこったと軽口を叩くが、セキ本人はさして気にした風もなく、自身に向けられる視線を受け流すばかり。―――これまで俺は、セキはやることはやっていて、だからこその余裕な態度のだと、そう思っていた。
集落にあの少女がやって来ると、セキが必ず対応に出る。
ギンガ団が来るのが見えるとセキは集落の入口に向かって、その中にあの少女がいると、明らかに機嫌が良くなる。
なんならその少女が来る時は必ず集落にいて、真っ先に少女の元へ行くのだから、「わかりやすい」と思う。もちろん、他のギンガ団の面々と円滑な関係を築くために挨拶や情報交換は欠かさないが。
今日は、ギンガ団でクラフト(どういうのかよく分からないが)ってのを施した品を持ってきてくれた。
ギンガ団とコンゴウ団、シンジュ団の三派で、それぞれの土地で取れる品物の流通を図っている。
いずれはこの三つの集落を中心としてヒスイの外まで交易が盛んになればいいとセキが話していたが、それには俺も強く同感だ。
セキには、未来を見据えて実行する力がある。だから俺たちはセキを信頼し、ついて行こうと決めている。
―――そのリーダーは今、自分よりも随分年下の少女にかかりっきりだった。
「わたしの育ったところだと、小さな鳥ポケモンとかが低く飛んでたら雨が降るって言われてて、ヒスイ地方でもそういうのってありますか?」
大雨になる目印とかがあれば知りたいんですと言う少女に、セキがコンゴウ団に伝わる天候の知識なんかを教えてやっている。
更に聞き耳を立ててみれば、キャプテンのヨネさんとその相棒のゴンベとで、新たな異変「ポケモンの大大大発生」に関して、その発生原因や出現するポケモンの法則性について調べるよう課せられており、昼夜問わずヒスイの台地を駆け回っているとのことだ。
合わせて、時空の裂け目が消えたあとも、少女の元にはひっきりなしに依頼ごとが舞い込んでいるようで、今日もこれから紅蓮の湿地内で調査があるらしい。
体は一つしかないのにそんなに多忙で大丈夫なのかと少女の方を見ようとすれば、仲間から積荷を下ろす作業を手伝えと指示が飛んできて、あわてて手を動かし始めた。
「―――相変わらず忙しいんだな。あんまり、無理するんじゃねえぞ」
わ、わ、と頓狂な声がして、何事かとそちらに視線を戻した俺は、思わず目を疑った。声の主はギンガ団の少女だと分かっていたが、その原因は、セキだった。(まああの子の近くにはセキしかいないから当然なのだが)
そのセキがなんと、頭巾の上からだが少女の頭を撫でていた。
あまりの自然な手つきに普段からしているのかと思いきや、対して少女の顔は不意打ちを食らったかのような顔をしている。
「セ、セキさん……!」
「ん?」
「これは、ちょっと……」
ん?なにがだ?なんて聞き返しながらも少女の頭を撫でる手を止めないセキの表情は、とても楽しそうだ。
街で向けられる視線を受け流していたのは、本当に興味が無かったのだと分かってしまうくらいには、セキがその子に向ける表情は、俺の知っている普段のものと違っていた。
無意識に態度に出てしまっているのか、それとも敢えて周りに見せつけているのか―――どちらかは分からないが、セキは本当にあの少女のことを気に入っているようだ。
「もう、子ども扱いしないでくださいよ」
「してるつもりはないんだがなあ」
「そう言って、集落の子たちにも同じことしてるのを知ってるんですからね」
「あいつらにしてるのと、あんたにするのは別に決まってるだろ」
楽しそうなセキとは対照的に、少女の目がどんどんじとっとした半目になっていく。このままではギンガ団の要たる彼女との間に亀裂を生じてしまうのではないだろうか。
止めに入ろうとしたその時、傍にいた仲間に後ろ襟をぐいっと掴まれたのと、材料をしまう保管庫の方からセキを呼ぶ声がかかったのは、ほぼ同時だった。
名残り惜しげに少女の頭から手を離し、
「さて、オレは戻るが―――カナ、帰る時にまた顔を見せるだろ?」
「気が向いたら、寄らせていただきます」
だから早く行ってくださいと、少女は急かす。
我らがコンゴウ団のリーダーが年下の少女にあしらわれて遠ざかる後ろ姿を見送り、それにしてもあれだけの色男にああもあからさまに好意を示されて、それでも連れない態度をとるとは流石だと。
残された少女の方を見たとき。
俺は、自分が思い違いをしていたことに気付かされた。
両側から垂さがる黒髪の隙間から覗く耳を真っ赤にして。先程までセキに触れられていた場所をくすぐったそうに撫でている。
愕然と立ち尽くす俺に対して、仲間が「いい加減働け」と両手で抱える袋の上に更にもうひとつ載せられて、おまけに後ろから蹴飛ばされた。いてえ。
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