「なにが宝の持ち腐れなのかな、顔だけ男くん」
「なんすか、事実を言っただけなんスけど」

いかにも一触即発といった空気が体育館に流れる。何故かっていうと他校のイケメンとうちの部きってのイケメン(女子)がメンチを切り合っているからである。正直に言おう。めっちゃ怖い!!!
こうなったのも全部あのバスケ激うま金髪イケメン野郎(僻み)のせいなのだが、説明のために時間を今日の部活前の時間に戻そう。


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「フリ、部活行こ」

ホームルームが終わり、荷物を纏めていると声をかけてくれたのはクラスメイト兼バスケ部のマネージャーを勤めてくれている木吉咲良。俺よりも高い身長、中性的な見た目、ハスキーな声で身を飾る羨ましいほどのイケメンなのだが残念ながら女子なので僻みのひとつも言えない。
容姿端麗、文武兼備、その上性格までいいと来たらモテないはずがない。だがしかし咲良は女子!!
入学早々の席替えで隣の席になったこともあり、移動教室の時なども必ず声をかけてくれるので最近では学校生活でも部活でも咲良と行動するのが当たり前になっているのだが、咲良と一緒に過ごしていると嫌でも聞えてくる咲良への黄色い声。だから!お前は女子でしょ!!なんでそうスマートに女子が重いもの持ってたら手伝ったりとか、転びそうになった子を咄嗟に抱きとめたりとかそんな少女漫画のヒーローみたいなイケメンの振る舞いが出来るんですか!俺にも伝授してください!!
...話を戻そう。そんな咲良と部活に向かっていると自然と今朝のカントクの"スキップ"についての話になる。

「朝のカントクが言ってた練習試合の話ってマジ?」
「マジマジ。今週は神奈川の海常高校と練習試合だよ」

今朝の朝練中カントクはスキップをしながら学校にやったきた。日向先輩たち2年生はやばいやばいと口々に言うものだから何なんだろうと思っていたがすぐにカントクから爆弾発言があり俺達は固まった。

「キセキの世代がいる高校と練習試合組んじゃった」

いやいやいや、キセキの世代ってあれだろ?黒子がいたバスケ部のめっちゃ強い奴らでしょ?やばいじゃん!!
そんなこんな話しているうちに体育館に着いてしまったので咲良とは一旦別れて部活の準備をして練習に向かう。
時間になり部活が開始されて、アップを済ませるとカントクから集合の合図がかかり練習試合に着いての説明が始まった。

「「「海常高校と練習試合!?」」」
「そ!相手にとって不足なし!」
「不足どころかすげえ格上じゃねーか」

日向先輩の嘆きの声をマルっと無視してカントクから咲良に詳しい説明は任せたと匙がなげられた。てか、咲良って部活中はジャージに着替えるから女子って気づける唯一の要因(スカート)が無くなるからもう男子にしか見えない。そのせいで最初俺たち1年は咲良のことを男子だと思い込んで接していた。そのことを謝ったらいつものことだといって笑って許してくれたので優しいやつだ。ほかの女子だったらガチギレさせれていただろう。

「神奈川の海常高校は全国クラスの強豪です。IHとか毎年普通に出てます。それに加えて今年はキセキの世代の黄瀬涼太が海常高校に入学してます」

咲良の説明によって皆がザワつく。しかも黄瀬涼太はモデルをやるほどのイケメンということも判明してバスケも上手くてイケメンとか羨ましすぎるという僻みの声まで零れてた。
そんな俺たちを呆れたように見るカントクと咲良。...すいません。
再び咲良が説明を始めようとした時、カントクが体育館内が黄色い声で溢れていることに気づいた。

「何!?なんでこんなギャラリーできてんの!?」
「...お久しぶりです、黄瀬くん」
「こんなつもりじゃなかったんスけど...とりあえず5分待って貰えます?」

黄色い声が溢れる原因は今まさに話題になっていた男、黄瀬涼太がなぜかプチサイン会を開いていたせいだった。
本当に5分でプチサイン会を終えて女子を捌けさせた黄瀬の話を聞くと、どうやら黒子に会いに来たらしい。今週練習試合があってどうせ会うのに態々神奈川から来たの?なんて思ったが空気を読める俺はお口チャック。しかし、この男と火神は空気を読まなかった。
突然火神から1on1を黄瀬にしかけたのだが結果は火神の負けに終わった。しかし、ただ負けただけでなく先程のアップで火神がしていたダンクをそっくりそのまま真似た、そのうえ火神よりもキレててパワーも上なダンクを披露してくれたのだ。
そしてこのイケメン野郎は俺らにこう言い放った。

「やっぱ黒子っちください。海常においでよ、また一緒にバスケやろう」

俺たちの中に困惑が広がる。
しかしそんな俺らを置いてけぼりにしたまま黄瀬は言葉を続ける。

「マジな話黒子っちのことは尊敬してるんスよ!こんな所じゃ宝の持ち腐れだって」

そうこの言葉がきっかけだった。俺の近くにいたはずの咲良が黄瀬に向かって全力でボールをぶつけてからメンチを切り始めたのは。

「誠凛のこと何も知らないくせに宝の持ち腐れなんて言わないでもらえます?」
「少しは知ってるスよ。去年の決勝リーグでボロ負けしたんでしょ?黒子っちはこんな所じゃ本領発揮できないっスよ」
「...っ!!!先輩達が去年どんな思いで!!それからどんだけ頑張ってきたかも知らないくせに!先輩達の努力を侮辱するようなことを言わないで!!」

でも、やっぱり男の俺から見ても咲良はカッコイイのだ。
今だって普段は温和で優しいやつなのにその怒りという感情を露わにしているのは先輩達や俺達の名誉のため。
自分じゃないやつのためにあんなに真剣に怒れるやつがカッコよくないわけないんだ。

「誰にも、もちろん君にも、先輩達の努力を侮辱する権利はない!!」
「...黄瀬くん、せっかくのお誘いですが丁重にお断りさせていただきます」

黒子が咲良と黄瀬の間に入り、咲良を黄瀬から遠ざけた。その隙に水戸部先輩が咲良を体育館の隅に手を引いて連れていく。

「火神くん、それに咲良さんとも約束しましたから。キミ達を...キセキの世代を倒して日本一になると」
「やっぱらしくねースよ。そんな冗談言うなんて」
「冗談苦手なのは変わってません。本気です」

キッパリと黒子に断られた黄瀬は渋々といった様子で帰って行った。
残す問題はウチの怒るイケメンがどうなったか、なのだが...

「あんな顔だけ男に負けて帰ってきたら先輩が許しても私が許さないから」

まだお怒りのご様子でした。

「「「はい!咲良様の仰せのままに!!」」」
「ぜっったいにギャフンと言わせてきて!!」
「「「イエッサー!!!」」」

そんなこと俺ら1年トリオに言われてもどうせ試合に出るのは火神や黒子だけだろうし、俺らにはどうしようもないのだが咲良の気迫に押されつい返事をしてしまう。
...ん、帰ってきたら?

「咲良は練習試合にこないのか?」
「うん、兄さんの手伝いに行かなきゃいけないから」
「そう言えば咲良って普段の練習でも土日は居ないもんな」
「金曜のうちに必要なことは全部用意してくれてあるから居ないって感じしなかったけどな」

俺たちの言葉にありがとうと微笑み返してくれた咲良にはもう怒りの感情は見えなかった。きっと言いたいこと言ってスッキリしたんだろうなんて思う。
やっぱり咲良は女子なのだから怒ってる顔より笑ってる方が絶対にいい。
だから、咲良の笑顔と俺らの心の平穏のために俺たち1年トリオはベンチで応援頑張りますか!



喧嘩は嗜む程度で
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