この日のために何個も作ったてるてる坊主たち。パパ似の子が作れた自信作たちが飾ってある窓のカーテンを思い切り開ける。
すると窓の向こうには一面の青空とキラキラな太陽が輝いていた。

今日は絶好の運動会日和だ。
だけど運動が苦手ななまえにとっては最悪の天候だ。

嫌だ、運動会なんて嫌いだと叫びながら布団に再び潜り込むと階段下からパパの叫ぶ声が聞こえる。

「なまえ!早く起きないと遅れるぞ!」

パパに怒られるのは嫌なので渋々布団からずり出て運動着に着替える。全く効果のなかった"逆さまの"パパ似のてるてる坊主は外して全部ゴミ箱行きだ。パパを捨ててるみたいでちょっと罪悪感がわくが仕方ない。

どんより気分で階段を降りると、美味しそうな甘い卵焼きを焼く匂いが漂ってくる。それだけじゃない。唐揚げやポテトサラダなどたくさんのおかずが作られている。そのおかずの全てが飛鳥の好物なのでさっきまでのどんより気分がちょっとだけワクワク気分に変わった。

「やっと降りてきたな。ほら、急いで準備しろ」
「はーい。パパ、おはよう」
「ああ、おはよう」

屈んでくれたパパのほっぺにキスをして朝の挨拶をする。なんでもこの挨拶が長谷部家に代々続く挨拶方法なのだそうだ。
挨拶が済んだら歯磨きや顔を洗って、お待ちかねの朝ごはんだ。

ホカホカのご飯に、出来たてのワカメとお豆腐のお味噌汁。そしてお弁当に入れているであろうおかずともに朝ごはんを食べる。パパのご飯はいつ食べても美味しい。
お店でご飯を食べるよりパパのご飯を食べるのが一番だ。
そう正直に伝えたことが一度あったのだが、その時のパパはそうかとだけ顔を色を変えずに言うだけだった。けれども代わりに背中から桜の花びらが舞ったように見えたのだが何度聞いてもパパはそれは気の所為だと言う。

「よし、準備出来たな。行くぞ」
「はーい」

朝ごはんを食べたら戸締りをして学校へと向かう。
いつもは途中の分かれ道でバラバラになってしまうが今日は最初から最後までずっとパパと一緒だ。途中でパパが手を繋ぐかと尋ねてくるが、そんな幼い歳でもなく同級生に見られるかも知らないリスクがあるのに繋ぐことなんてできない。だから嫌と一言だけ伝えて断った。

学校につきパパは保護者席へ、私はクラスの席へと向かう。すると仲良しのお友達がすぐに声をかけてくれる。

「おはよー!なまえちゃん」
「おはよう!」
「なまえちゃんのパパってすっごくカッコイイよね!」
「えーそうかな?」

見る目がありますね和音ちゃん(友達)。
そう、パパはカッコイイのだ。身長も高くてすらっとしているし、ファッションセンスだっていい。それに勉強もできるそうだし運動神経だって抜群なのだ。顔もかっこいいしダメなところなんて一つもないカッコイイ自慢のパパなのだ。
だがしかしあえて私はそうでも無いよーという態度を友達に見せる。パパのことを褒められて嬉しい気持ちは押し込めてファザコン感もゼロでスマートに対応するのだ。

でも私はパパに対して一つだけ不満はある。なんでパパは運動神経いいのに私はこんなに足も遅いし球技も何もかも苦手なのだろうか。そこら辺の遺伝子もちゃんと私に受け継いでほしかった。
ブー垂れていると程なくして運動会が始まった。最初の競技の徒競走は案の定ビリ。玉入れは1個も入れれなかった。綱引きは2位だったがクラス競技なのでノーカンノーカン。

神は残酷だ...!パパには二物も三物も与えているのに...!!なんて嘆いていると午前の競技が終わったのでお昼休憩となる。キョロキョロとパパの姿を探すと背が高いおかげですぐに見つかった。

「なまえ、よく頑張ったな」
「...全部ビリみたいなもんだもん」
「そんなことない。頑張ることに意味があるんだ」

卵焼きを口に詰め込んで不貞腐れているとパパは困ったように笑う。運動神経のいいパパにはわからない悩み事だったようだ。
しかし、私にはいつまでもふてくされている訳には行かない理由がある。何故なら午後の2学年ずつのダンスが終わったら、父兄の徒競走があるのだ。全力で(心の中で)応援をしなければならないのだ。

昼食時間が終わり午後の部が始まるとのアナウンスがされたので私はポンポンを持って集合場所に集まり、流行りの曲に先生達が考えた創作ダンス踊ったり組体操をして終える。そうしてクラスの席に戻る途中で父兄の徒競走に参加する人の集まりの中にパパの姿を見つけた。

「パパ!」
「なまえ、可愛かったぞ」
「ほんとに?」
「ああ、ほんとだ」

パパにダンスを褒められて嬉しくなる。
パパともっとお喋りをしたいところだが席に戻らなくてはならないので持っていたポンポンを振ってパパの応援をしてから私は席に戻ることとする。

「パパ頑張ってね!」
「...ああ!」

ほかの学年のダンスを見て楽しんだら、お待ちかねの父兄の徒競走だ。
パパは第四組。同じ列に並んでいる人たちもみんな足が早そうでパパが一位になれるのか不安になってくる。
一組目が終わり、二組目が終わり、三組目が終わり、ついに四組目だ。

スタートのピストルの合図が鳴る。
頑張れ頑張れと心の中で応援していたのだが不安は杞憂に終わった。
パパがぶっちぎりの一位だったのだ。二位に大差をつけてゴールしたパパはとってもカッコよかった。これにはクラスの女の子達もビックリしたようでみんなして私に話しかけてくる。

「今一位だったのってなまえちゃんのパパだよね!?」
「すごーい!カッコイイし足も速いなんて羨ましいな...!」
「ま、まあね!パパはすごいんだよ!」

いつもはしない自慢を今日だけはしてもいいかもしれない。


全ての競技が終わり、閉会式も終了して迎えたパパとの帰り道。朝のどんより気分はどこかに行ってしまったのか、今の私は嬉しい気持ちでいっぱいだった。

「今日のパパ凄かった!足、ホントに早いんだね!」
「ああ、もちろんだ。そうじゃないと守れないからな」

優しく微笑むパパは私の頭を撫でる。

「守るって何を?」
「大好きななまえのことをだ」

つんっと頬をつつかれて笑われる。
その態度にちょっとだけムカついたが今日だけは素直な気持ちをパパにぶつける。

「なまえもね、パパのこと大好きだよ」
「ああ、ありがとう。愛してるよなまえ」

夕焼けに染った地面に二人の影がのびる。
今日は特別に手を繋いで帰ろうか。