降り積もる冬、雪、きのこ?

植物園内の温室に生徒が自由に植物を育てられるスペースやプランターがある。その一角で周囲の葉より青みがかった頭髪がチラと、葉の隙間から覗いていた。
実験用の白衣を着た生徒は、うっとりと目を細めてプランターを眺めている。
プランターではカラフルなキノコがひょこひょこと沢山生えていて、色は赤色、黄色、紫色など色彩豊かであるが、共通して透けるような傘をしていた。

「採取したのは一種の菌だったはずですが、こんなに色取り取りのキノコが育つなんて興味深い」

ジェイドはキノコの予想外の成長にとても満足したように笑うと、すっと立ち上がり、さくさくと歩き出した。
図書館へ行き、成長したキノコがどういった物なのかを調べ直すようだ。心なしか、スキップでもしそうなほど足取りが軽やかだった。

キノコの事を考えながら歩いていても、注意が散漫になったりはしない。
ジェイドの後ろ、20mほど離れたところを着かず離れず歩く人がいるのに気が付いた。オンボロ寮の方から歩いてくるということは、監督生か管理人だろうと考えた。
まさに、その通り購買部に向かうミヤがジェイドの後を追う様に歩いていた。

ミヤはジェイドの後を付けているわけではないが、姿を見た時から、ずっとジェイドの事を考えていた。
それは当然、先日見たハッピービーンズデーの写真が原因である。
ジェイドは背も高くフロイドと並んで歩くと人目を引く印象だが、実のところ目立つのは好きではないというのをミヤは聞いたことがあった。
シンプルな服装を着ているイメージだったので、派手なカモフラージュ柄を着た写真のジェイドが印象的だったのだ。

ミヤは、ジェイドの派手なカモフラージュ柄が似合っていたなあ。スタイルがいいから何着ても似合うんだろうなあ。などと考えていた。
ジェイドの後ろ姿をぼーっと見ながら歩いていたため、うっかり購買部への別れ道を過ぎるところだった。
そうして購買部への道に入ったところで、今日は何を作ろうかと冷蔵庫の食材を思い浮かべた。

「こんにちはミヤさん」
「っっっジェ、ジェイっドさん!」
「はい、ジェイドです」
「えっ?いきなりなんですか」
「熱い視線を感じたので話しかけられるのを待っていたんですよ。それなのに、ミヤさんったらそのまま行ってしまうから」

わざとミヤを驚かせたジェイドは、冷たい人ですねと彼女を非難するように悲しい表情をした。
ミヤは混乱して少し申し訳ない気持ちになったが、ジェイドの悲しんでいますという態度のわざとらしさに気付くと、縮こませていた背筋を伸ばしジェイドを見上げた。
その顔は戦地に赴く兵士のようであり、漁に向かう船長のようでもあった。

「用がないのなら行きます。買い物しなくちゃなので」
「用事という程ではありませんが、ミヤさんが僕を見ていた理由が気になりますね。僕なんか観察しても面白くないでしょうに」
「不快にさせてすみません。ただ、ぼーっと見てただけなので」

観察だなんて大袈裟なとミヤはナイナイと手を振って答えた。ただ、ジェイドを見てハッピービーンズデーの写真を思い出しただけで、他意はないと伝えた。
ジェイドは、すぐにケイト達と撮った写真だと分かったが随分前に終わったはずの行事で、今になって思い出すほどのものだろうかと疑問に思った。
ミヤは、実は、とジェイドに事のあらましを話した。自分がハッピービーンズデーに参加したかったという気持ちも含めて話した。
それを聞いたジェイドは、あの行事は楽しい。今年は特に楽しかったとわざと楽しい思い出に浸るような言い方をして、ミヤの興味を引いた。
ミヤも弟とは違ったスリリングな話を聞いて、ますます参加したかった参加したいという欲求が強まった。

「楽しそう。私もやりたい」
「学生じゃないミヤさんは参加出来ないんですよね、かわいそうに」
「なんですかそれ、憐み?」
「まさか、悩み事ならアズールに相談すればいいのにと思っただけです」
「対価に何奪われるんだろ…やっぱり魔法かな」
「それくらいしか取り柄ないですからね」

その通りではあるが、自分で言うならまだしも誰かに言われるとなると向っ腹が立つなとミヤはジェイドを恨めしく見た。
ジェイドは意地が悪いと思いながらも揶揄うのが楽しくて仕方がないと、ニヤつく口元に軽く手を当てながら笑った。
アズールに頼んだら、対価次第では学園長と上手く話をつけて参加させてくれそうだなとミヤは思っている。
けれど、アズールが求める対価は分かり切っている。魔法は自分のもので、この世界の誰に教えることも譲ることも絶対にしないというミヤの意思は固い。

「そう怖い顔をしないでください。僕に任せてもらえませんか?ミヤさんの願い、叶えて差し上げますよ」
「いえ、いいです。怖いので」
「そう遠慮なさらずに、対価はいただきませんから」

好意の押し売りのようなジェイドを訝しげに見る。この笑顔は、どっちなんだろう。本当に対価を支払わなくていいのか、それとも"今は"支払わなくていいという意味なのか。
いくら考えてもミヤにジェイドの真意を知る術はない。ミヤはジェイドの言う事を信じてみることにした。

「ありがとうございます。楽しみにしていてください」

そう言ってジェイドはにこやかに去っていく。自分の提案からとんでもない事が起きてしまうんじゃないかと、ミヤの頭に後悔の二文字が過った。
空から雪がちらちら降り始め、ミヤは体を震わせると、購買部へ急いだ。