毎週日曜、午後1時に

最近のミヤには週一の楽しみが二つある。一つはケイトとの約束であるお茶デートで、もう一つはリドルとの勉強会である。
勉強と聞いて辟易する人もいるだろうが、ミヤには未知のことへの知識欲があった。ホグワーツでは学ばない学問についてリドルから教授される度に見聞が広がるような気がしていた。
これから、その勉強会があって図書館でリドルと待ち合わせをしている。今日は、彼が得意としている実践魔法について学ぶ予定である。

「相変わらず早いね」
「リドルくん待ってたよ」
「全く…今日は何分前に来ていたんだい?」
「リドルくんが来る10分くらい前かな」
「待ち合わせ時間の30分も前じゃないか」
「そんなこと言ったらリドルくんだって20分も早いよ」
「毎回君を待たせないように気を遣うのも大変だよ。一体何分逆算して時間を決めればいいんだろうね」
「私もリドルくんを待たせないように気を遣ってるから、なんとも」

返答に困って苦笑するミヤにリドルは小さい溜息をつき微笑んだ。
遅刻するよりはいいし、彼女のために時間を捻出するのも悪くないとリドルは毎回思っている。それに、早く始められれば彼女と一緒に過ごす時間が長くなる。
リドルは勤勉なミヤと過ごす日を楽しみにしており、彼女と同様にこの世界にはない理論や知識を得るのは自分の糧になると感じていた。

「また話し込んでしまったね…外は寒い。早く中に入ろうか」

図書館の入口という人の出入りの邪魔になりかねない場所で、ついお喋りしてしまうくらいにはミヤの前ではリドルの厳格さが緩くなる。
本人たちの預かり知らぬところで、あの・・リドル・ローズハートがたわいもなく立ち話をしている。相手は一体誰だ?あんな奴学園にいたか?と噂されている。
図書館で勉強していても、一部の人は二人の会話が気になり本を取りに行く振りをして態と近くを通ったりして、立ち聞きをする人もいた。
当然、小声でやり取りされる会話は全て勉強に関する事なので聞いた人は"真面目過ぎてつまらない"と落胆した。

ミヤは真剣に勉強に付き合ってくれるリドルに感謝はしているけれど、彼が選んだ厚さ8cm程の本5冊を一週間で読むというノルマは大変だった。
もちろん嫌がらせでもなんでもなく彼なりにミヤのことを考えての事なので、文句を言わず読む。
実践魔法と言うだけあって、日常生活で使用するような魔法が多くミヤにも馴染みのある魔法だった。それなのに、自分が知っているものと異なるのが面白くて時間を忘れて読んでしまった。
もちろん、使用法が限定的な魔法もあってミヤはとりあえず見たことのない魔法に目を止めて印をつけていた。

「キミの付箋の魔法はとても便利だね」
「同じような魔法はあるでしょ?」
「使用者の意思で貼ったり剥がしたりしてくれる付箋ならあるけど、手で触れずに本が開くことはないね」
「でも付箋が見えてると貼った事忘れなそうで良いね」
「普通は忘れないんじゃないかな」

ミヤが少し忘れっぽいことがバレてしまったところで、リドルの講義が再開された。
読んでいてよくわからなかった、物に様々な要素を組み込んで全ての動作を自動オートにする魔法。
魔法を付与する順番や下準備などが複雑で、付与する要素の数に比例して複雑になっていく。
ミヤの世界には魔法石が存在しないため、魔法道具は全て作り手の魔力や魔法界に存在する動植物の一部を用いて作り出される。
魔法石は簡単には手に入らない。
ミヤはリドルに魔法石のことや術式の仕組みや組み立て方などを教えてもらい、自動お掃除機を作りたいと考えていた。

「なるほど…それなら魔法士が錬金術で作った宝石にミヤが魔法をかけて代用するのはどうだろう」
「宝石?」
「うん。魔法士が作った宝石には微量の魔力が混ざるんだよ。魔法石ほどの力はないけれど、代用できる可能性はあるんじゃないかな」

リドルの提案に食いつくミヤだったが、宝石を入手するのは困難だなと少しガッカリした。
しかし、そもそも魔法石を別の物で代用するという考えが無かったリドルが、ミヤの"代用する場合"について真剣に考え一つの可能性を示してくれたのにはとても感謝したし、その場で可能性を見出せるリドルはとても優秀なんだと尊敬のような気持ちが彼女の胸を温かくした。
そんな優秀な人が生徒でもない自分に貴重な時間を割いてくれるなんて、とても有難い事なんだと再びリドルに感謝の言葉を述べた。

「なんだい急に」
「学生でもない私の勉強に真剣に向き合ってくれて嬉しいなと思って」
「ボクだってキミとの時間は勉強になってるよ。それに、真剣に学びたいと言っている人に学生かどうかは関係ない。真剣なキミに相応なことをしてるだけだよ」
「ありがとう。リドルくんに頼んでよかった」
「ミヤは勤勉だからね、頼るならこれからもボクにするといい」
「ふふっ頼りにしてます」
「ああ、もうすぐお茶の時間じゃないか」
「お茶菓子の準備はしてあるから寮まで来て」
「今日はどんなお菓子だろうか」
「着いてからのお楽しみです」

楽しげに微笑み合った二人は、机に広げていた本やノートを片付けると腕に抱えて図書館を出た。外は少し雪がちらついており、体を寒さに震わせながらオンボロ寮まで向かう。
時折目を見合わせ、「また来週の日曜に勉強会をしよう」と楽しそうに話しながら歩く。二人の姿を目撃した生徒は、厳格で有名なハーツラビュルの寮長のあんな顔見たことないと二度見をしたりガン見をしている。

リドル・ローズハートは、ミヤの前では厳格さが緩くなるのだ。