負けられない戦いの火蓋

植物園を出るとエース達がトレイの荷物を抱えて歩いている後ろ姿が見えた。ミヤが荷物持ちを代ろうとするのをトレイに止められ不思議に思っていると、トレイが購買部に来た理由が材料であるフルーツをグリムが食べてしまったからだという。そして、それを止められなかった二人は連帯責任で荷物持ちをさせられていた。
ミヤにはタルト作りを手伝ってもらえば良いというトレイの言葉に頷いていると、レオナが不満そうな声を出す。

「まさか、このメンバーでやるんじゃねぇよな」
「そのまさかです!優勝目指して頑張りましょうね!」
「ハッ、無理だろ」
「ちょっと厳しいかもしれないな」

レオナとトレイは優勝が現実的じゃないと言い出すが、ミヤには秘策があった。寮までは少し距離があったので、ポケットに入れていたジェイド作の用紙を見せながら話す。それを聞いたグリムは猛反対していたが、高級ツナ缶を提示すると大人しくなる。ちょろいなとミヤは呆れた。
時間はまだ2時になっていない。タルトもデコレーションをするだけだというから、3時のおやつに間に合う。完璧だとミヤはほくそ笑んだ。

寮に着くと勝敗が決していた。雪男チームのストレート勝ちである。

「イセエビちゃん遅〜い!」
「購買部で随分お買い物されたようで…おまけもたくさん付いて来ましたね」

おまけとはエース達のことであろうが、ミヤにとってそれはどうでもよかった。主催者のジェイドに詰め寄ると、ミヤは声高に優勝は私たちが貰うと宣った。
全員が呆気に取られる中、レオナが口を開く。

「優勝賞品が欲しくてな。ミヤを含む俺たち5人と1匹で挑ませてもらうぜ」
「飛び込み参加なんて許されないでしょう」
「そうだな、それならもう一度最初からやり直すべきだろう」
「アズール達もう負けてんのに口出しすんの?」
「俺はどっちでもいいな!」
「ルール上は問題なさそうたけれど」
「ふむ、竪琴であるミヤさん率いるチーム………では1セットだけ行いましょう。ただし選手は5人までですよ」
「…分かりました。私はチームの監督になります」
「ええ、構いません」

文句のありそうな者、楽しければどっちでもいい者、寒いから早く終わって欲しい者など三者三様のリアクションだった。
優勝争いをさせてくれることにミヤは笑みを深くしながら、勝ったら何か貰えるんでしょとジェイドに確認する。そして、ミヤの顔から笑みが消えた。

「それは、ミヤさんを一日自由に出来る権利ですよ」
「………はあ?」
「ミヤさんが竪琴役でしょう?それを獲得するというのは、そういうことです」

フリーズするミヤにジェイドは口角を吊り上げ、用紙の『3セット行い2勝したチームの勝ちになり、氷の竪琴を獲得することになります』と書かれた部分を指差した。
それを呆然と見上げるミヤに安心してくださいとジェイドは言う。一日自由に出来るのは個人ではなくチームだから何日も拘束はされないと言い笑う。
ジェイドに勝手にしてくださいと全てを任せてしまったのが間違いだった。と後悔しても遅い。

「元々この時間はボクとミヤが一緒に過ごす時間だったんだ。それが還元されるのは当然だろう」
「え〜金魚ちゃん、そんな楽しそうなことしてたんだ?今度からオレも混ぜてよ」
「フロイド、彼らがしていたのは勉強ですよ」
「みんなで勉強するのか?賑やかになりそだな!」
「遊びとはいえレオナさんと戦えるのか、身が締まるぜ」

ミヤの気持ちを置いてけぼりに、雪男チームは勝った気で彼女との時間の使い方について話し出す。
それを聞いて黙っていないのが竪琴チームだ。即席チームといえど彼らも賞品が欲しくてミヤの提案を呑んだのだ。グリムだけは高級ツナ缶のためだが、目指すところは皆同じ。心は一つだった。
ミヤも徐々に現実を受け入れることができ、何としても勝たなければならないという気持ちが出てくる。彼らの好きなように自分の時間を使わせるわけにはいかない。

「それじゃ僕たちはお茶の準備でもしましょうか」
「だいぶ体も冷えたからな」
「折角だからテーブルもいい感じにセッティングしちゃおう」
「確か倉庫にテーブルの予備とかあったと思います」
「お茶菓子はジャミルくんが作るんスよね。ししっ楽しみっスね」

負けてしまった村人チームは今回は仕方がないと、冷えた体と小腹を満たすための準備に取り掛かった。
竪琴チームは村人チームから借りた腕章をつけて、それぞれ雪玉作りを開始した。雪玉の数は90個まで作成可能で、雪玉の作成には魔法が使える。
雪玉の形状には決まりがない。1セット目は普通の雪玉だったが、2セット目からは工夫をしたのだろう。雪男チームはとげとげの雪玉やカチカチに固い物、ぽよんぽよんと弾む物など多様なものを作って行く。
竪琴チームも同じように弾む雪玉や、とげとげの雪玉などを作っていく。グリム達一年生は普通の雪玉を作るので精一杯だったが、レオナとトレイがミヤの指示の元次々と量産していった。

両チーム雪玉を作り終え、それぞれフィールドに入りシャトーの前に整列をするとホイッスルが鳴り、最後の試合が始まる。
両チームがシャトーの裏から飛び出す中、雪男チームは雪玉を抱えてシェルターに身を隠しながら竪琴チームの異様な雪玉に目が釘付けになっていた。