勝利のフラッグを手にするのは

雪男チームと竪琴チームの雪玉が錯雑する中、一つの雪玉がゴロリゴロリと転がる。雪男チームは転がる雪玉を壊そうと雪玉をぶつけるが、雪玉はびくともせずに転がり続ける。

「なんだ、あのでかい雪玉!独りでに動いてんのか?」
「あれだけ大きいと自動で転がしたところで投げる事は出来ないし、避けるのも容易いだろうね」
「じゃあ、何のためにこっちに来るんだ?」

カリムとリドルは、第2シェルターから雪玉を投げつける。自動で動き続ける雪玉を作って一体何の得があるのだろうか。ただ動揺を誘っているだけなのか。相手の狙いがわからない。
雪玉はシェルターにぶつかる事なく進む。まるで意思を持っているかのように、器用に避けながら雪男チームの陣地に侵入した。
第1シェルターに身を隠していたジャックの目の前を直径50cmほどの雪玉が通る。
片手で簡単に進攻を阻止する事は出来るが、止めに出ていけば恰好の的だ。ジャックは手持ちの雪玉全てを目の前を転がる雪玉に力強くぶつけた。

「なに!!?」

大きな雪玉はゴロリゴロリとジャックに向かって転がる。決して動きが速いわけじゃないから避けられる。しかし、80cmもの雪玉を避けるとなるとシェルターから出なければならない。
走って後退するかとジャックが体勢を変えた時、カリムとリドルが雪玉に向かって一斉に雪玉を投げつけた。
パスパスッパシュッと軽い音を立てながら雪玉が大きな雪玉に当たり崩れ落ちると、今度はカリムとリドルの方に向かって転がり始めた。

「グリムくんです!」

ジェイドがシャトーから顔を出して言った。大きな雪玉の中にグリムが入っており、雪玉が当たった方向を目指して進んでいるのではないかと言う。
そのとおりであった。泡頭呪文で窒息しないように頭を覆い、グリムの周囲を球体状に雪で囲った雪玉だ。グリムは雪玉の中を滑車で回るハムスターのように前進している。
進む方角はジェイドの推測通り雪玉が当たった方向、つまり敵チームに向かって進んでいるのだ。

「こんなの簡単に阻止できるじゃないか!」
「カリム!触ってはいけないッ……遅かったか」

グリムが入った雪玉に触れた瞬間、ホイッスルが鳴った。何が起きたか分からないカリムに、フロイドが呆れたように「おっきくても雪玉なんだから触っちゃダメじゃん〜」と言った。
まだ理解していないカリムに、ミヤが雪玉に当たったことになるのでアウトだと伝えると、騙されたぜと笑いながらフィールドを出る。雪男チームにとっては笑い事ではない。
残り1分程で、竪琴チームのフラッグを奪うか相手チームの人数を減らさない限り負けてしまう。折角獲得した竪琴に逃げられてしまうのだ。

「僕たちも積極的にいきましょうか、フロイド」
「いいねぇやっちゃおうぜ、ジェイド」
「それならボクが雪玉を供給するよ」
「あざっす。俺はこのまま進みます」

相手が本気になったのを見てデュースはやる気を出したが、エースとレオナは深いため息をつきトレイは困ったように笑った。
レオナとトレイはシャトーの裏から全ての雪玉を第2シェルターに運んでいた。エースは第1、デュースはセンターシェルターから、雪玉がぶつからなくなり進む方向がわからないグリムに指示を出す。

「グリム!そのまま真っ直ぐッうわっ」
「注意力散漫だが、今のはよく避けたな」
「ジャック、俺とサシでやろうってか?」
「ああ、隠れながらってのが性に合わないんでな」

二人は互いに雪玉を投げ合い、華麗に躱す。当然、そんな二人を放っておくわけがなく標的にされるが、その雪玉さえも避け続ける身のこなしは鮮やかだった。
運動神経のいい軽やかな二人の雪合戦は、あっさり終わった。

「バカじゃんお前ら」
「も〜なにやってんの、ウニちゃん」

アウトのホイッスルが鳴り、がっくりと肩を落とす二人がフィールドから出ると試合が再開される。竪琴チームが有利なまま残り30秒となった。
フロイドとジェイドがセンター裏から第1シェルターの様子を窺う。雪玉が飛んで来ない隙を狙って、フロイドが雪玉を抱え第1シェルターに滑り込むと反対側から雪玉が降ってくる。エースはこの時を待っていたのだ。
しかし、それが読めないフロイドではない。持っていた雪玉を仰向けの状態で降ってくる雪玉に当て、そのうちの一つがシェルターを越えてエースの頭上に落ちた。

ピピー!

「さすがですね、フロイド」
「でも雪玉なくなっちゃった〜」
「そういうことは黙っておくものですよ」

ジェイドは呆れながらフロイドがいる場所まで雪玉を転がす。と、ジェイドの頭上スレスレを雪玉が飛んで行った。
すぐさまシェルターに身を隠す。第2シェルターの裏に緑色の頭髪が見えた。

「まさか、トレイさんがそこまで"竪琴"が欲しいとは思いませんでした」
「"賞品をあげる"からチームに入って欲しいとミヤに直接頼まれたからな、仕方なくだよ」
「仕方なく、であれば譲っていただけませんか?」
「俺が譲ったところで俺たちの勝ちは揺るがないと思うけどな」

互いに雪玉を投げ合いながら、譲る気もないがと言ってニヤリと笑うトレイに、ジェイドは嫌な予感がして振り返る。
フラッグが立っていた位置までグリムの雪玉が転がっていた。リドルがシャトーから出て、第2シェルターから雪玉を投げつけている。
フラッグを押し倒したグリムの雪玉は、変わらずびくともしない。どうしたものかとリドルが考えあぐねていると、何かを掻く音が聞こえた。

「ひぃえぇぇ〜冷たいんだゾ」
「なんだ?」
「高級ツナ缶一つじゃ割りに合わないんだゾ〜」
「まさか、掘ってるのか」

グリムは雪玉の内側からシャリシャリと必死に掘ってフラッグに触れようとする。リドルはルール上問題は無いと、僅かに見えるフラッグを掴み場所を変えようと引っ張る。
フロイドはジェイドからもらった雪玉をトレイに向かって投げつけ、フラッグを奪いに走る。それを阻止しようと雪玉を投げるトレイ。フロイドに雪玉を当てないようジェイドが雪玉をぶつける。
レオナはくあっと大きな欠伸をし、ミヤは固唾を飲んでグリムを見守っていた。