猛獣使いの姉は砂漠で目覚む

 寝苦しさを感じた。快適さを求めて右を向いたり左を向いたり、また右に戻ったりしたけれど、どこへ行っても暑く徐々に意識がハッキリしてくる。ミヤはのっそりと起き上がった。

「・・・あっつい」

 夏でもないのに寝汗が酷い。そもそも学園は魔法で過ごしやすい空調になっていると聞いた。それなのに、どうなってるんだとイライラしながらシャワーを浴びる。ユウもグリムも起きていない時間だった。オンボロ過ぎて空調がおかしくなったのかと原因を探るが、それらしい物も見当たらず早々に切り上げ寮を出る。
 一歩、寮を出るとあまりの温度差に体が震えた。寒いわけでもないのに寮が暑過ぎて滲み出た汗が一気に冷える。とにかく、植物園に行こう。ミヤは植物園の一画を借りて野菜を栽培している。そろそろミニトマトが食べ頃に色付いているだろう。
 軽い足取りで植物園に入り、目的の場所へ向かう。真っ赤に熟したミニトマトが鈴生りになっている。とても美味しそうだ。その他にもピーマンやレタスなども収穫した。朝取れの新鮮な野菜を食べられるなんて、幸せだなあとミニトマトをプチプチ千切っていると体が勝手に立ち上がった。

「えっ・・・ぇ、なに?ぇえ!?」

 そのままミヤの意思とは関係なく、何かに引き摺られるように出口に向かっていく。リリーンという小さな鈴のような可愛らしい音が耳元で鳴った。
 植物園の外に出たところで体の自由が利くようになったミヤの視界に、金色の光の粒がキラキラと横切って呆然とする。今のはもしかして妖精だろうか。あんな綺麗な可愛らしい妖精は初めて見たなあと、植物園の前にぼんやりと立ち尽くした。

「そこを退きなさい」
「えっ学園長?」
「おやミヤくんでしたか、今植物園に入るのはやめて下さい。さあさあ、退いて」

 各寮の寮長を引き連れた学園長が現れ、邪魔だからと肩を押されて植物園の入口の端に追いやられた。よく分からないが、悪さをしたらしい妖精が植物園内にいるらしい。どうやら魔法石を盗んだようだった。寮長達が薄ら開いた扉から覗き込んでいる様子は、側から見ると寮長達が悪い事をしているように見える。ミヤは中の様子が非常に気になったが、その輪に入っていくのは気が引けたため学園長と一緒に寮長達の会話を聞いていた。
 小さな妖精が盗んだ魔法石を女王のティアラの装飾として使用したらしい。さらに『妖精の郷』の妖精達は春の訪れを祝うために郷を出て、フェアリーガラというファッションショーを行うという。その開催地がこの学園の植物園に決められてしまった。
 もし、この祝祭が中止や失敗してしまったら永遠に春が訪れず冬のままになってしまうらしい。その間は植物園に立ち入ることも出来ないようで、厄介な祭りだなと思った。

「話によると、フェアリーガラの後夜祭は3ヶ月も続くとか・・・あの魔法石がなければ学園全体の空調がめちゃくちゃなままになってしまう!!!」

 暢気に妖精が魔法石を盗んだんだな。植物園が使えないのか大変だなくらいにしか捉えていなかったミヤは、この学園長の言葉で盗まれた魔法石がどれほど重要な物なのかを知った。空調がめちゃくちゃで困るのは当然なのだが、ここでも学園長は生徒たちに問題を解決するよう求めた。
 学園長というのは学園の責任者のような立場だと認識していたが違うのだろうかと、寮長たちを説得し出す学園長をミヤは胡乱な目で見ていた。説得というよりも脅迫のような発言からは、一切優しさなどは感じなかった。
 寮長たちは進級を盾に取られて、渋々了承するしかなかった。かわいそうに。

「そうだ、ミヤくん。ユウくんとグリムくんを呼んできてください。学園長室で待っていますので急いで来るように!」

 嘘でしょと思った。寮長という凄い人たちがいるのだから、その人たちでやれば良いことなのに学園長はいつでもユウを巻き込む。それもユウの猛獣使いとしての謎の才能を見込んでの事なのかと思うと、本当にいい加減な人だなと怒りを通り越して呆れてしまう。
 ミヤは少し早足でオンボロ寮へ戻った。せっかくの朝取れ野菜なのに勿体無いとため息が出る。暑さにだれているユウとグリムに学園長が呼んでいる事を伝えると、「丁度いいから暑いって文句言ってやるんだゾ」とグリムが起き上がった。ユウは嫌そうな顔をして「行ってきます」と力なく言うとグリムと一緒に寮を出て行く。
 二人が出て行った後、朝食の準備をしようにも暑さのせいかやる気が出ない。温くなったミニトマトを口に放り2、3個食べると寮を出た。

「リドルくん、アズールさん、こんにちは」
「こんにちは、ミヤさん」
「さっきぶりだね、ミヤ」
「二人が鏡舎前に居るってことは、どうやって奪い返すか決まったんですね」
「ええ、ありがたいことにカリムさんとレオナさんが解決してくれるそうですよ」
「二人が妖精になりきってフェアリーガラに潜入し、ティアラを偽物とすり替えるんだよ」
「妖精になりきる?」
「サムさんがとても貴重な妖精の粉をお持ちで、それを学園長が経費で購入されたんです。それを振りかければ、人間だと気付かれずに潜入出来るそうですよ。
しかし、妖精の郷でも大変貴重だという品をどうやって入手したのやら」

 アズールが貴重な高価な物を入手した経路やサムの人脈に興味があると話すのを聞きながら、ユウが呼ばれたのはやっぱり猛獣使い的な理由だったんだなとミヤは内心深いため息をついた。