着せ替え人形のみる夢

「カリム!!!お前はどうして面倒ごとを安請け合いしてくるんだ!?そういう時は『一度持ち帰って検討します』と言えって伝えただろ!」
「レオナさんっ!!オレを面倒ごとに巻き込まないでくださいよ!どうせ面倒なことは全部オレに押し付けようって魂胆でしょ!?」

 ご立腹なジャミルとラギーを見て、ユウ自身も言えるならば学園長に同じことを言ってやりたい気持ちでいっぱいだった。こんな状態の彼らと問題を起こさず潜入作戦を成功させなければならないのが不安だし、面倒ごとを生徒に押し付けるなんて学園長は全く優しくないだろうという怒りと呆れでため息を吐きたかった。
 ミヤはユウを含む保護者的立場の人は大変だなと、冷たいお茶を出しながら考える。グリムに至っては、砂漠のような暑さでオンボロな床にぺったりお腹をくっつけるように伸びていた。

「じゃあ、みんな仲良く『留年』ということで・・・」

 収集がつかなくなりそうだったところ、ユウのおかげで無駄な言い争いが終わり、漸く潜入した後の計画を考えだす。魔法を使えば敏感な妖精はすぐ気付く、ならばどうすればいいか。魔法がダメなら直接すり替えるしかない。
 そこで指名されたのはラギーだった。器用な彼ならばササッと偽物のティアラに交換出来るだろうとレオナは言った。問題は取り替える間とうやって女王の注意を引くかということだったが、それもあっさり解決案が出た。妖精のファッションショーに出るというジャミルの案に、苦言を呈するものもいたが最終的にはそれしかないということで同意した。
 ミヤはジャミルと手分けしてある人を呼びに行っていた。それは、この潜入作戦において重要な戦力になる人達だったが、ジャミル曰く苦渋の決断らしい。

「失礼します。クルーウェル先生はいらっしゃいますか?」
「珍しい仔犬が来たな、俺に何のようだ?」
「先生がファッションにお詳しいと聞きまして、お力添え頂けないかとお願いに来ました」
「どういったシーンで着用するんだ?」
「シーン・・・?」
「デートやパーティなど、いろいろあるだろう」
「あっ、ファッションショーです」
「ファッションショーだと?」

 クルーウェルの値踏みをするような居心地の悪い視線に耐えかねて、勘違いしているクルーウェルにショーに出るのは自分ではないとティアラ奪還作戦について慌てて説明した。するとクルーウェルは一つ息を吐くと、ランウェイを歩く三人の素材は悪くないが、ショーを成功させたいのであればシェーンハイトにも声を掛けておけと言った。
 ミヤはクルーウェル、ジャミルはヴィル・シェーンハイトを呼びに寮を出たのだ。そう伝えるとバイパーは良く分かっているなと笑い、ならば何の問題もないと言って魔法薬学室を出た。ミヤの三歩先を歩くクルーウェルは背も高ければ足も長く、モデル体型というのだろう。それに、歩いているだけなのに身に付けているもの全てがクルーウェルという人物の一部のようで、彼が動く度に視線が釘付けになる。

「ずいぶん熱心に見ているようだが、興味はあるのか?」
「えっまあ、人並みには」

 クルーウェルは「そうか」と言ったきり何も聞かなかった。ミヤは何か話題を振った方がいいのか悩むも、相手は教師であって友達じゃないため気安く話しかけることもできない。そうしているうちにオンボロ寮に着き、ジャミルやヴィルと合流してから談話室へ行き彼らが協力してくれることなったと報告した。
 その時の反応は大袈裟でも何でもなく、妥協は許さず徹底的にやる二人の姿勢にミヤ達の気持ちがついていかなかった。エキゾチックというテーマのもと、色や形、装飾に至るまで、あれはどうだこれはどうだと目紛しく布を当て試着し脱ぐという行為を繰り返したのだ。ショーに出る人はもちろん、フォーマルな場に行くのだから全員漏れなく"毛並みを整える"必要があるとクルーウェルは言った。
 ミヤもクルーウェルの指示で奔走し、その目まぐるしさに脳が酸欠した時のように思考が止まっている。ぼんやりとウォーキングしている姿や注意を受けている姿を眺めているミヤに、クルーウェルは「ついてこい」と声を掛けて立たせると二人でボールルームを出て行った。

「仔犬、お前は潜入作戦に参加しないんだったな」
「はい、参加しません・・・あっ片付けなら手伝います!」
「ミヤ、ファッションショーに出る気はあるか」
「妖精の粉は6人分もありませんよ」
「違う。人間のファッションショーだ」

 スラッと背も高く手足も長いモデル達が颯爽とランウェイを歩く。歩くたびに揺れ、ひらめく裾や袖。視線を奪われ、ショーに見入っている観客。それらのイメージがミヤの脳内を夢のように過った。写真でしか見たことのないファッションショーをもし会場内で見られるのなら、一度見てみたいなと思う。
 ミヤの夢想するような顔を見たクルーウェルは小さく笑うと「衣装を合わせるぞ」と言った。衣装はさっき全員合わせ終わり、今はウォーキングなどのパフォーマンスの練習をしている。理解が追いつかないミヤにクルーウェルはため息を吐くと駄犬と罵った。

「お前は別のファッションショーに出てもらう。といっても絶対ではない。お前の仕上がり次第だ」

 やってみるかと不敵に笑うクルーウェルにミヤは口の渇きを感じながら静かにうなずいた。