背も高ければ手足も長く衣装から覗く脚や腕は、きゅっと引き締まっていてデザイン性豊かな衣装をかっこよく着こなしている。以前のミヤならば見惚れて、呆けて背中を丸めたまま隅っこで眺めるだけだった。
けれど今は違う。ここにいるどのモデルも努力して今の体型を維持しているし、日々自分を磨き続けているからこうしてショーに出られるのだ。それが己の自信に繋がる。
自信なら私にだってあると、ミヤは気後することなく支度を終えると他のモデルと同じようにスタンバイした。一ヶ月の超スパルタなメニューと戦ってきたのだ。この衣装を美しく見せることが出来るのは、ここにいる他の誰でもない私にしか出来ないのだ。と鳴り出す音楽に合わせて自分の鼓動を感じた。
『随分
『努力の成果を見せてきます』
『ふん、いい表情だ。俺は客席で見ているからな。終わったら控え室でいい子に待っているように』
『いってきます』
音楽が会場全体に響き渡っている。間もなくミヤの番だ。ステージの袖で会場に入る前に交わしたクルーウェルとの会話を思い出した。客席のどこかにクルーウェルがいると思うと、震えそうな脚に感覚が戻ってくるようだった。
前のモデルが袖を出て中央に行った。一歩。足を踏み出すと滞ることなく自然と足が交互に出た。震えそうな手に感覚が戻ってきて、眩しい照明の中でもしっかり目を開きネージュと交差する。
打ち合わせの通りのポージングをする。見て、私を見て、この素晴らしい衣装を見てとアピールするような力強い視線と軽やかなポージングをネージュと合わせて行った。
視線を下げることも彷徨わせることもなかったミヤは、袖に戻って他のモデルと合流してフィナーレに備える。緊張が解けそうになるも他のモデルの真剣な顔つきを見て、緩みそうになる気を引き締め直した。
フィナーレにモデル全員が列をなしてランウェイを歩く。その際もミヤは会場にいるといったクルーウェルを探すことはしなかった。その代わりどこにいようが自分を見て欲しいと、堂々としたウォーキングをする。私を見て、私だけを見て、貴方のおかげでこんなにも私は輝けているのだと全身でアピールした。
弾丸のように着替えて歩いて、また着替える。ステージ上にいる時間なんて準備の期間に比べたらあっという間に終わってしまった。たった数分のことなのに、ミヤは立てないくらいに疲れてしまい控え室のソファに倒れ込んだ。
他のモデル達は帰る支度が済むと素早く退室していった。彼女らがいなくなった途端、緊張の糸が切れてヒールの高いパンプスで立っていられなくなったのだ。他人の目を気にする必要がなくなったミヤは、そのままソファに身を預けた。
クルーウェルに選んでもらった服に身を包んだまま、シワになったら怒られるかもしれないなと思いながら重力に負けていると、ドアノブがガチャっと音を立てた。
「お行儀が悪いな」
「あ!クルーウェル先生」
「だいぶお疲れのようだな」
「・・・きゃっ」
「危ないッ!」
ノックの後に入ってきた人物に慌てて体を起こすと、疲労困憊な脚がもつれて情けなく転びそうになった。それを助けようとしたクルーウェルの胸に倒れ込んだため、痛い思いをすることはなかった。
ミヤはもたれるような体勢が恥ずかしくて急いで離れようとしたが、クルーウェルに引き寄せられ膝裏に腕が回されたかと思えばそのまま抱き上げられた。
俗に言うお姫様抱っこなんて恥ずかしすぎて顔を上げられないミヤ。ゆっくりソファに座らせたクルーウェルは、膝裏からするっと手を滑らせ彼が自ら選んだパンプスを脱がせた。
「靴擦れはしていないな」
持ち上げられたひんやりする足を触る手が熱くて、ミヤの頬も熱を持ってくる。学園ではいつもしている手袋をよりによって今日は着けていない。両足とも靴擦れは無かったようだが、彼女にとっては足元でクルーウェルが跪いている方が気になる。据わりが悪い感覚に口をつぐんでいたらクルーウェルと目が合った。
ニヤリと笑ったと思えば視界が暗くなり、クルーウェルの鋭い眼光がミヤをソファに磔にした。ミヤの横に手をついてる事とか、片膝がソファに乗り上げてる事とか、何より目の前にクルーウェルの顔がある事に頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「俺が贈った服に早くも皺をつけるとは、躾が必要なようだな」
「ぁ・・・ごめん、なさ・・」
「それとも、もっと皺になるような事でもするか?」
「え・・・あ、やっ」
服のセンスが無いという理由から見立ててもらったブラウスのリボンがしゅるりと解かれた。立襟のV字に開いた胸元にクルーウェルの手が伸ばされるのがミヤには、スローモーションのように見えた。
早鐘を撞くような鼓動を感じながら、触れそうな程近づいてくるクルーウェルから逃げるように、ぎゅっと瞼を閉じた。手のひらを握りしめるほど緊張していたというのに、その時がいつまでも来ない。恐る恐る目を開けると耳元に熱い息がかかった。
「冗談だ、仔犬」
意地悪に笑みを浮かべたクルーウェルは、解いたリボンをミヤが結ぶよりキレイに首元につけてやると、パンプスを持たせて再び抱き上げた。仔犬を躾けるのもケアするのも飼い主の務めだと言って、会場を後にする。
当然、すれ違うスタッフには見られるし知り合いには揶揄われるし、ミヤは恥ずかしくて終始顔が上げられなかった。