魔法という特殊な力が普通に存在する世界。ここでの生活は魔法が使えなくても困ったりはしないが、ナマエが通うようになったのは魔法を学ぶための学校である。数学や音楽といった元の世界でも学んでいた授業はあるものの、全生徒が使える魔法が使えない事はとてつもないハンディキャップだ。
ナマエにとって一番辛かったのは飛行術。箒といえば掃除道具で、それ以上でも以下でもない。それに跨って空を飛ぶなんてファンタジー映画でしか見たことがない。当然、魔力のないナマエは飛行術の授業はどうにもならなかった。
では、その授業の時間は見学でもしているのかと思えばそうではない。バルガス先生は体力や体作りというものに大変熱心なため、授業中は筋トレや運動場にあるトラックを何周も走らされる。
「大丈夫か、ナマエ」
「あんだけ走らされたら誰だってこうなるって」
「オレ様も箒に跨るの大変なんだゾ〜」
「その前足じゃあな」
「午後も授業あんだから、少しは食べた方が良いぜ?」
ナマエは食堂の机に伏したまま、うんともすんとも言わない。普段から口数は少ないが、指一本も動かせないほどに疲れているんだなとエースとデュースは思った。グリムだけは、オレ様が守ってやるしかないくらい弱っちいなとランチを口一杯に詰め込んだ。
食事をする音や話し声がする中で、腹の虫が控えめに鳴るのが聞こえた。いろんな料理の匂いが鼻を刺激するが、食べるくらいなら休んでいたい気分だ。
このまま食堂の机と一体化しそうだと思っていると、誰かに肩を叩かれた。今はそっとして欲しいのに、誰だろうか。
「なにこれ。マツバちゃんついにフジツボになっちゃったの?」
「フジツボは貝ではなくカニなどと同じ甲殻類ですけどね」
「疲れて寝てるんじゃありませんか?何の反応もありませんし」
顔を上げないままでいたが、オクタヴィネルの三人だと分かると尚のこと顔を上げたくなかった。ナマエには何が面白いのか分からないが、フロイドに面白がられてよく声をかけられるのだ。
授業で作ったからあげると言いながら効果のわからない魔法薬を渡されたり、これまたテキトーに作ったという謎の鉱物を渡してくることもあった。どうすればいいか分からないので寮の棚にしまってある。
今日は本当に疲れていて、フロイドに振り回されたくないナマエは彼らを無視してそのまま机に伏していたが、信じられないことに両隣に誰かが座ってきた。寝たふりだと思われないように、それこそフジツボのように彼らが去るのを待った。
「おーい、ナマエ!俺らもう行くけど」
「反応ないな」
「本当に寝ちまったんだゾ?」
「休ませときゃいんじゃね」
「このまま寝てたら授業に遅れるだろ」
「カニちゃん達って次何の授業なの?」
「魔法薬学ですよ」
「授業の前に薬草を取りに行くんだゾ」
「それならオレがマツバちゃんのこと起こしてあげる」
だからさっさと取りに行きなと追い払うようにフロイドが言うと、グリムは「ナマエが居なくても完璧な魔法薬を作って驚かせてやるんだゾ」と意気揚々と去っていった。
一人置いていかれるかもしれない状況で一つも反論しないところを見ると、ナマエは本当に寝てしまったようだ。そうでなければ、授業に遅れるかもしれない状況で立ち上がらない筈がない。
フロイドはさっきの授業中、偶然にも運動場を走っているのを見てナマエが相当疲れているのだと知っていた。先週も同じように食堂の机に伏していたから、今日のように走らされたのだろう。机に伏してさらに小さくなったナマエを見ながら、体が小さいから体力もないんだろうなと思った。
小さく上下する背中を見ていると本当にか弱い小エビに見えてくる。以前は小エビちゃんなんて呼んでいたフロイドだったが、あまりにも喋らないのを知ってエビというより貝だなと思った。特に特徴のないナマエにはどんな貝が似合うだろうかと観察してると、感情がわかりやすく顔に出てることに気付いた。ご飯を食べている時だって、美味しい時は幸せそうな顔して食べるのに口に合わない料理だと顔をしかめているのだ。
それから、リアクションがいい。最初は陸で見て珍しかった蝶を捕まえて、ナマエの目の前で手のひらに閉じ込めていた蝶を放ったのだ。その時のリアクションといったら驚きすぎて腰を抜かしていた。小さな悲鳴でもあげるかなくらいに思っていたのに、尻餅はつくし、更には声を出して笑うフロイドに対して怒って背中に拳をポカポカと叩きつけるのだから驚いた。一緒にいたグリムや近くにいた生徒はナマエの行動を信じられないと見ていた。
フロイド自身も叩かれるとは思っておらず、別に痛くはなかったけれど軽くシメてやろうとナマエを見下ろした。そんな彼の目に飛び込んできたのは眉をひそめ自分を見上げる怒りをあらわにしたナマエの姿(全然怖くない)だった。
ナマエは、いつになくハッキリした声で「生き物を使った脅かしはやめてください」と言った。そんな彼女の姿は珍しく、また、自分の事が嫌でやった訳じゃないのだと知り「わかった」と、意外にもすんなり受け入れられた。
それからフロイドは、ナマエのことを"貝の中でも活動的なところが松葉貝みたいだから"という理由でマツバちゃんと呼ぶようになり、ナマエに話しかけたり何かしたいと思った時は自分で作った魔法薬や、テキトーに作ったけど上手くいったなというお菓子、実験で生成した物まであげるようになった。当然ナマエの迷惑などは一つも考えてはいない。自分が彼女にあげたいと思った物を贈り続けている。
「ねーマツバちゃん、もうそろそろ起きようよ。オレ飽きてきちゃった」
自分を呼ぶ声に眠っていた意識がふわっと持ち上がる。ハッとして頭を持ち上げると正面にはフロイドの顔があり「あ、起きた〜」という緩い声がした。というより、フロイドの声しかしなかった。
慌てて立ち上がり食堂内を見渡すも自分たち以外に人がいない。寝落ちしてしまう前の喧騒はどこにもなく、端に掛かっている時計は残酷にも授業の終わりの時間を指していた。クルーウェル先生に叱られることを想像してナマエの顔が青ざめていく。
「マツバちゃん、オレが声かけても全然起きねーんだもん。相当疲れてたんでしょ?だから、そのまま寝かせてあげようと思って」
あくまで慈悲の精神でそうしたと、善意だと主張するフロイドに対して怒るのはお門違いで、ナマエは自業自得だと落ち込んだ。そんな丸わかりな態度を見ながら、フロイドはもやもやとしていた。授業に出たい気分じゃ無かったのもあるけれど待つ必要は無いし、待って暇を持て余すくらいならどっかで昼寝しても良かったのに何でわざわざ起きるまで待ってしまったんだろうか。
どうにも胃袋の辺りがスッキリしなくて、ポケットの中を探れば昨日買ったミントキャンディが出てきた。気晴らしになるかもしれないと、袋を破って取り出した飴を摘むと口を開いた。
「マツバちゃん、口開けて」
「んっ…」
「ただのミントキャンディだよ。もしかして嫌い?」
唇に押しつけられた飴に警戒するも、薄ら香ってきたハーブ特有の爽やかさが鼻から喉を通って、胃袋を刺激した。口を開き優しく舌の上に乗っかった飴を口の中で転がせば、ぶわっと唾液が口内に溢れてツンと舌を刺激しながら独特の清涼感が喉の奥に流れていった。
今になって空腹を感じていると、目の前でもう一つの飴玉を口に放り込んだフロイドが、ガリガリと噛み砕いていてナマエはギョッとした。最初から噛む人初めて見たと顔に書いてあるような表情に、フロイドは面白いくらい分かりやすいなあと思った。
ナマエの小さな口の中でコロコロと飴を転がしているような唇の動きと、ぽこっぽこっと両頬がちょっぴり膨れるのを飴が無くなり口寂しさを感じながらフロイドは静かに眺めた。
「ありがとう、ございます…フロイド先輩」
そう言ってペコっと頭を下げたナマエは足早に去って行く。フロイドは軽い衝撃で一歩出遅れてしまい、起きたら言おうと思っていたことが言えなかった。追いかければ簡単に追いつけるが、フロイドは混乱していてそれどころではなかった。初めて名前を呼ばれたことが嬉しくて、心臓まで嬉しそうに跳ねていて意味がわからなかった。
一方ナマエも初めてフロイドからもらった物の中で一番ありがたく感じていた。彼の気まぐれな優しさに感謝しながら嬉しさで食堂を出るまで、とても軽やかな気持ちだった。当然それは長くは続かない。食堂を出て少し進んだところで、白と黒のコントラストが美しい先生の美しくも恐ろしい顔に震えることになった。
「魔力がないからといって心配することはない。オレが考えたトレーニングメニューをこなせばお前も立派な肉体を得ることができる」
それから数日後の飛行術の授業。憂鬱な気持ちで、バルガス先生から渡されたトレーニング表を眺める。安心してトレーニングに励むように言った先生は、得意気に「オレに近付くには全然足りないがな」と言い残して他の生徒のところへ行った。空を仰いだナマエは、綺麗な青空とハードメニューに頭がくらくらしている。まずは筋トレか…と盛大なため息を吐いて、せめて木陰でやろうと他の生徒から少し離れたところで腕立て伏せを始めた。
腕立て、スクワット、それからクランチのループが5回を超えたところで限界が来て、そのまま仰向けに寝転んだ。だいぶ前に真面目にやり過ぎて「やはりこの程度は簡単だったようだな」と白い歯を見せながら、鬼のようなメニューに変えられたのは忘れられない。それから適度に手を抜くようにしていたけれど、鬼メニューは変わらないし出来なさ過ぎると補習になるから、結局はへろへろに疲れてしまうのだ。
「あ〜マツバちゃんがサボってる〜」
うっかり目を閉じていたナマエは、フロイドの不意な声かけに慌ててしまい、けらけら笑われた。幸いにも先生は米粒に見えるくらい遠くで他の生徒の指導をしているため、ここでの会話は聞こえないだろう。
先生の方をぼんやり見ていたら「どこ見てんの〜?」なんて顔を覗き込まれて、思い切りのけぞった。こんな至近距離で顔を見たことがなかったため、馬鹿みたいに心臓が速く跳ねた気がした。今日はフロイドのクラスとの合同授業で、簡単なテストをするという話だったが終わったのだろうかと疑問を浮かべた。
「今日は調子いい気がしたから一番最初にテスト受けて来たんだ。んで、今は自習中なの」
「…えっと、それじゃあ、一緒に走りますか?」
「はあ?ヤダよ、無駄に汗かくじゃん」
飛行術の自習って何だろうかとは思ったが、何かしていないと先生に目をつけられてしまう。目をつけられてメニューを増やされでもしたら敵わないので、フロイドに構わず立ち上がった。しゃがんでいた彼に目をやり「じゃ」と言葉にせず片手をあげる。そんなナマエの手をフロイドの手が掴んだ。
行かないでよと自分を見上げるフロイドに新鮮さと可愛らしさを感じたナマエは、自分を見つめ続けるフロイドの隣に大人しく座る。ナマエの行動に満足したフロイドがあっさり手を離すと、ナマエは少し名残惜しさを感じて彼を見た。同じ高さで自分を見るフロイドの顔があって、少し苦しくなった。
「オレの秘密のサボり場所、マツバちゃんに教えてあげる」
そう言って、見つからないうちに早く行こうと歩き出すフロイドの後をついていくナマエ。割と歩くスピードが速い方であるナマエも歩幅の差には負け、置いてかれないように必死に彼の後を追った。
木々の間をすり抜けるように歩くフロイドの体は動きに無駄や迷いがなく、歩調が乱れる事も足が止まる事も無くすいすい歩いている。ナマエは、そんな彼の後ろ姿を眩しいものを見るような顔で見ていた。
16年生きてきたけれど、ここまで上手に自分の体を使いこなすことは常人であるナマエには無理だ。フロイドが人魚であるという先入観のせいだろうが、木々の間や枝の隙間を優雅に泳いでいるように見えた。
フロイドは、こんな簡単に他人に着いて来ているナマエのペラッペラな警戒心が心配になりそうだった。わざと置いて行くような速さで歩いているのに文句ひとつ言わないし、どこまで行くのだろうかと疑問を口にしたっていい頃だろうに黙ってついて来る。
とっくに目的の場所は過ぎてしまったが、この辺りも隠れて昼寝するには良さそうな場所だなとフロイドは足を止めた。振り返ると同じようにピタリと足を止め、きょろりきょろりと見渡しているナマエがいる。
「どお?休憩するのに良い場所でしょ」
あたかも最初から目指していた場所であるかのように言えば、ナマエはこくこくと首を縦に振った。その時の顔がとても嬉しそうに口角が上がり目がきらきらしているように見えて、フロイドは連れてきてよかったと思った。
フロイドがテキトーな場所に尻を下ろせば、少し離れた場所にナマエも膝を抱えて座った。木の下というのもあって、幹を背もたれにすると視界に互いの姿が入らない。フロイドはなんとなく不安で尻一つ分離れていた距離を腕一本分まで縮めた。
あまりの近さに目を丸くするナマエの反応にもっと近付いたらどんな反応するのか見てみたいと思ったフロイドは、「オレの方に寄りかかっていいよ」と彼なりに優しく言葉にした。唖然として彼を見上げるナマエの目には、フロイドが企みも何もなく純粋に肩を貸してくれる優しさと少しの気まぐれで発言したように見えた。
「マツバちゃん疲れてんでしょ?ちょっとなら寝ていいよ。今度はちゃんと起こしてあげるから」
体力にあまり自信のないナマエは確かに疲れている。言葉に甘えて寝てしまっても良いだろうかと悩んでしまうのは、前に食堂でうっかり寝てしまった時に授業が終わってから起こされたからだ。今回は授業には出ているけれど、先生が見ていないからといって居眠りするのはあまりにも不真面目ではないだろうか。
ナマエは悩んだものの、座っているだけだから寝てしまっても10分いや15分くらいで起きられるだろうと、静かに彼の二の腕辺りに頭を寄せた。すると「おやすみ」という優しい囁きが耳元に降ってくる。落ち着かないなあと思っていたナマエも、たまに吹く風の心地よさにいつの間にか眠っていた。
ぼうっと揺れる葉っぱの隙間から見えるきらきらとした空を見上げていたフロイドは、自分の腕にのしかかる重みにふと視線を落とした。寝ている気がするけれどまつ毛が邪魔で目を閉じているのかどうかが分からない。
声を掛けて起こしてしまったら嫌だと思ったフロイドは、腕を動かさないようゆっくり上体を起こして覗き込もうとした。いくら体が柔らかいフロイドでも身長差による距離は埋まらず、ナマエの体は支えを失ってそのまま彼に倒れ込む。
「っ…」
起こしてしまったかと息を呑むフロイドだったが、太ももの上に倒れ込んだナマエは身じろぎをしたくらいで静かに眠っている。起きている時も静かだが、寝ていると一層静かだと思いながら顔の見える安心感にフロイドの顔が綻んだ。
無防備に寝ているナマエの穏やかな寝顔を見ていると、紙一枚分もない警戒心に少しずつイライラしてくる。こんなに体が小さくて体力もないのに、無防備に寝顔を晒して何かされたらどうするんだとフロイドは感情の赴くままナマエの両頬を片手で掴んだ。フグのような間抜けな口になるナマエに少しだけ気分が晴れる。
「やわいほっぺだなー」
さっきまでは起こさないようにしようと思っていたフロイドだったが、ナマエの頬の感触が面白くふにふにと弄っている。眉根を寄せているところを見ると、いよいよ起きそうだなと思い手を離した。ここまで好き勝手されているのにまだ寝続けようとするナマエの姿にフロイドは「マジかよ」と呆れた声を出した。
さっきまでの穏やかな表情から、少し表情が硬くなった気がしてフロイドは訝しげにナマエを見つめた。もしかして起きてたりするのかなと思っていると、弄り倒した頬が赤くなっているのに気付いた。そんなに強くしてないのに、肌も弱いんだなあと痛々しい頬にそっと触れる。
「フロイ、ド先輩」
「マツバちゃん…」
「わあっ、ち、近いッ」
目を開けたナマエの視界いっぱいに逆光気味のフロイドの顔があって、驚きのあまり手を突っ張り体を押しのけると転がるように体を離した。こんなことならば、さっさと起きていればよかったと後悔する。ナマエはほとんど寝ていなかったのだ。
眠りが浅く、フロイドの脚に倒れ込んだ時に一度起きた。体感的にまだ3分も経ってないと思ったナマエは、未だ存在する睡魔にそのまま意識を委ねてしまった。意識がふわふわしていたので頬をいじられたのも気付いてはいたが、フロイドの邪魔をして機嫌を損ねてしまいたくなかった。頬を触られるのは嫌ではなかったのに、優しい手つきで触れられたとたん恥ずかしくなって耐えられなかった。
「なんで逃げんの?」
体を離したナマエの手首を掴んだフロイドだったが、勢いそのままにナマエを押し倒してしまった。草の青臭い匂いが鼻先を通り過ぎていく。二人で驚いた顔をしている。ナマエは顔の近さと手首から伝わるフロイドの体温に堪らず顔を逸らした。
フロイドは、そんなナマエの態度が気に入らない。自分を避けるような行動や態度に腹が立ち、もう片方の手首も掴んだ。「これでもう逃げられないね」という言葉に反応して自分を見上げるナマエの表情に、フロイドはドキリとした。
「は、恥ずかしいので…どいて、ください」
目の前の可愛い生き物は何だろうかとフロイドは固まってしまった。困ったような眉に桃色に染まった頬、戸惑いの色が見える自分を見つめる瞳、緊張で引き結ばれた唇から目が離せない。今のこの状況がとてもいかがわしい事のように思えて、ナマエの頬の赤みがフロイドにも移った。
どくんどくんという鼓動を感じながら、そっと離れた二人は「戻ろっか」というフロイドの小さな呟きで、さり、さり、とゆっくり歩き出した。ちらりと振り返れば、俯きがちなナマエが見える。フロイドはドキドキする胸を押さえながら彼女の見え方が変わった気がしていた。けれど、ナマエを見た時に湧いてくる感情は以前と変わらないという事にホッとする。
「あ、そうだ」
「……?」
「今日のお昼一緒に食べよ」
ナマエは変な空気になってしまった事を気にしていた。自分が意識してしまった事でフロイドが"そういうべったりした関係は嫌"と、言われてしまうのが怖かった。あくまでそれはナマエの勝手なイメージによる妄想で、事実そんなこと微塵も思っていないし彼女への好意は変わらずあるのだから不要な心配であった。
態度の変わらないフロイドに安心したナマエは、ハッキリとした声で「はい」と答えた。喜びが顔に表れているだろうなと思ったけれど、そういったプラスな感情を隠す必要なんかない。フロイドにも十分ナマエの嬉しい感情が伝わって、誘ってよかったと気分が上がる。
今なら箒で三回転出来そうな気分だなと足取りが軽くなるフロイド。テンションの上がっている彼を見ているのが好きなナマエは、スキップでもしそうなくらいだ。授業をサボった事も忘れる二人の元に優しい風が吹いて、それに乗って授業終わりのホイッスルの音が届いた。
"マズイ"という顔を見合わせると何か妙に楽しくなって、全力ダッシュするくらいの速さでグラウンドに戻った。息切れのおかげでサボりがバレずに済んだことが、いたずら成功のような達成感があって示し合わせたように笑った。
さわやかな風が吹く麗かな日のことであった。