日差しの強い日が増え、購買部に日除けグッズが目立つようになった。監督生と週末過ごす時用のお菓子を少しだけ買おうかなと、夕飯前に寮を出た。日が長くなり夏が近付いているのを感じながらも、暮れてくると少し肌寒くナマエは捲っていたシャツの袖をそっと下ろす。
木製の店内は、温かみを感じるランタンの灯りと窓から差し込む夕日でノスタルジックな雰囲気を漂わせていた。そこで見知った顔を見つけ駆け寄る。ケイトだ。どこか気不味そうに笑うケイトに違和感を覚え、軽い挨拶だけにとどめるとナマエはお菓子が並ぶ棚を眺めた。
グリム達が帰ってくる前に寮に戻り、買ったお菓子を隠さなければならない。見える場所やグリムの手が届くような場所に置いておくと、監督生やナマエの隙をついて食べてしまうのだ。
「Hi, 小鬼ちゃん。お探しの商品お待たせ」
「ありがと〜サムさん」
「ケイトさん……それってもしかして……」
ケイトは頬をひきつらせた。可愛さを求める女の子の前で可愛いと言えないものを買おうとしている。見られないうちにさっさと買って帰ろうとしていたのに、ツイていないと内心うんざりしながら言い訳を考えていた。
「ちょっと気分転換に食べてみようかな〜なんて、」
「購買部に売ってたんですね! これ、美味しいんですよ!」
「えっ……ナマエちゃん、これ好きなの?」
思ってもいなかった食いつきに目を見開くケイトと、赤いパッケージに目を輝かせるナマエ。サムはにっこり笑って「そっちの小鬼ちゃんも、ご所望かな?」と問いかけ、返ってきた反応に笑顔で返し倉庫へ取りに戻った。
お茶会に誘われて寮に来た時、幸せそうにトレイの作ったタルトを食べていたからてっきり辛い物は得意ではないとケイトは思い込んでいた。しかし、目の前の少女は確かに美味しかったと、タルトを前にした時のような顔で言ったのだ。
姉ちゃんたちは、辛いものを食べる自分を信じられないような目で見てきたというのに。そりゃあ女子にもいろいろいるよなと、彼女のギャップに驚きつつもそういう子なんだろうとカップ麺片手に購買部を後にした。
「ケイト先輩、今日は学食なんすね」
「こんにちは、ケイト先輩!」
「やっほー、エーデュースちゃんと監督生ちゃんたち!」
生徒たちで賑わう昼時の大食堂の列。そこに丁度並んで来たのは監督生達だ。ケイトの前にはリドルもいて、気楽な挨拶を交わし同じ寮生同士で会話を弾ませる中、「あ!」と素っ頓狂な声を上げたのはナマエ。どうやら、クルーウェルに昨日提出した課題の事で呼ばれていたのを忘れていたらしく顔を青褪めさせながら慌てて出て行った。
監督生は、ナマエにランチを"同じのでいいから頼んでおいて欲しい"と言われたが、自分が食べたいと思う物に彼女の苦手な物が入っていそうだった。どうしたものかと、悩む監督生に声をかけたのはケイト。
「じゃあ、オレと同じのでいいんじゃない? この前、こういうの好きって言ってたし」
「えっマジ!? アイツこういうの好きなの? 意外だわー」
あまり交流がないケイトもリドルも見た目の印象からはわからないものだなと思いながら、級友たちは自分達のとナマエのを注文し席へ着いた。ただ一人監督生だけはこういうのを食べてる姿見たことないけどなと違和感を覚えるも、戸棚にそれらしいパッケージを見た気がしてケイトの断言にそのまま押される。
そして、注文した物に手をつけ始めた彼らのところに戻ってきたナマエの戸惑う姿を見てちゃんと思ったとこは言わなきゃダメだと、監督生は申し訳なさと共に反省した。
「あ、あれー? こういうの好きって聞いたから、ほら前にサムさんとこで言ってたよね!?」
「えっ、えっ……あ、もしかして」
激辛が好きだなんて言った覚えがないと思ったナマエだったが、ケイトと購買部で会った時に好きだとインスタントラーメンを指していったことを思い出し後悔する。パッケージが似ていただけで全く別のラーメンのことを言っていたのは後から気付いたことだ。
今さら間違いを正したところで、さあどうしようとナマエは刺激的な香りに生唾を飲む。ケイトは少しばかりかわいそうに思うも、一口も手をつけていない食べ物を棄てるという行為は勧められないでいた。
「いただきます」
意を決して挑むその顔に誰も彼女を止めようとはしない。自分の言葉に責任を持ち食べようと麺を摘むその姿をなぜか応援したくなった。真っ赤に染まる麺を口に運ぶ姿を固唾を飲んで見守る。みんなの口も呼応するように半開きになっていた。
(続く)