星の悪食


私の記憶は四人家族に拾われたところから始まっている。それ以前の記憶は名前と出身は思い出せたけれど、それ以上は何も分からなかった。
山で仕事をしていた時に、倒れている私を見つけて家まで連れてきてくれたらしい。見たところ裕福そうではないのに、私なんかを快く家に迎え入れてくれた。とても不安で心細かったので、すがるような思いでその家族を頼った。
私と同じ歳の子がいて、その子だけは私を受け入れてくれなかった。私の傷付く言葉を選んで言っているような言動に胸が痛くなった。それを咎める家族の姿を見て、この子の言う事は悲しいくらいに正しいのだと当時九歳の私にも理解できた。そしてたまらなく胸が苦しかった。

助けてくれた恩を返したいと思った。何も持っていない私が差し出せるのなんてこの身一つしかないから、精一杯お手伝いをした。
何も分からない私に一から沢山のことを教えてくれた。あの子に厳しいことを言われたりもしたけれど、正論だったし頑張る以外私に出来ることなんてなかった。
それに、頑張っていればあの子にも認めてもらえるんじゃないかって、彼が大切に思っている家族の一員にしてくれるんじゃないかって毎日精一杯働いた。

いつか、きっと。そうなれたら、とっても幸せだなあ。


ーーー夢はただの儚い夢だった。


それから三年が経ち私は今、 藤襲山ふじかさねやまで行われている鬼殺隊に入るための最終選別に参加している。
本殿からお借りした日輪刀で、初めて鬼の頸を斬り落とした。ごとりという音の後ぼろぼろと崩れながらも恨み言を言う鬼は、骨も残さず消えていく。
さすがに服は消えないんだなぁと考えていたら何処からか悲鳴が聞こえてきた。声のする方に走って行くと黄色い髪をした少年が鬼に追われているのが見える。
こちらに向かってくるので鬼を倒さなければと足に力を込めて走り出した刹那、もう一体の鬼が右から飛び出してくる。鬼の爪を限り限り刀で防いで素早く間合いを取った。

久しぶりの人肉だなどと最初に倒した鬼と同じような言葉を繰り返し言っている。鬼が飢えていようが関係ないし、食べさせる訳ないよと頭の中で答えながら刀を握る手に力を込めた。
抜刀した刀を振り被り力強く地面を蹴る。

星の呼吸
壱ノ型 "妖星の煌ようせいのきらめき"

刀を振り抜くと、ぐらりと鬼の首がこぼれ落ちた。
もう一体の鬼はどこに行ったのだろうかと辺りを見渡すと、黄色い髪の少年が刀を構えていた。次の瞬間鬼の首がずるりと地面に落ちた。
刀をいつ抜いたのか分からなかった。こんなにあっさり倒せるなら逃げる必要はないし、体力の無駄なのにと少年の行動が理解できなかった。

少年は大丈夫そうなので刀を鞘に納め立ち去ろうとしたところ、少年の体がぐらと傾いた。顔が地面にぶつかったら痛いだろうと思い、すかさず少年の体を抱きとめた。

「ふぐッ!!?」
「...大丈夫?」

ちょっと受け止め損なって少年の鼻が私の腕にいい感じに当たったみたいだ。少年は私を見て驚いたあと鬼に追われてるんだと慌てキョロキョロし、朽ちる鬼の体を見て悲鳴を上げた。

「死んでる!?鬼死んでるよ!??俺もう死んだと思ったのに助かった!!!でももう死ぬわ俺」
「...」

酷く饒舌で情緒がおかしい人だった。あまり大声を出すと鬼が寄って来そうだから声量を抑えてもらいたい。少年から離れようとしたけれど、がっちりと腕にしがみつかれていて動けない。力が強いなぁ。

「そうだ!!鬼倒してくれたんだろ!?ありがとう〜〜〜助かったよ〜〜〜このまま俺を守ってくれよ〜〜〜」
「大きな声やめてよ」
「わかったよ〜〜〜やめるから見捨てないで〜〜〜」

ここで拒否しても平行線になりそうなので頷いた。泣きながら再び感謝された。何でもいいから大声は出さないでもらいたい。
暫くすると再び鬼に出会し戦闘になった。修行をしたとはいえ、鬼狩りとしては初心者な私たちが七日間も離れずにいられるわけがない。少年(名を我妻善逸という)が居ないと気付いたのは、初日の夜が明けてからだった。
初日にこれほど鬼と戦闘になるとは思わなかった。

太陽が出ている間は休み、日が沈むと鬼の襲撃に備えていつでも動けるようにして7日間を過ごした。
日を追うごとに人を見掛けなくなり、鬼と遭遇する回数も減った。もちろん我妻さんと会うこともなかったけれど、特に心配はしていなかった。

「お帰りなさいませ」
「おめでとうございます。ご無事で何よりです」

七日後の早朝。藤が辺り一面に咲いている場所に再び戻ってくると、最初の説明の時と同じように双子のような少女二人に迎えられた。
二十人くらいいた参加者は私も含めて五人になっていた。中には我妻さんもいて、ずっと死ぬ死ぬ言っている。
早く刀をくれと騒ぐ人もいたけれど、同じく参加者の額に痣のある少年によって止められていた。
刀が出来るまで日数がかかると言っているんだから、急かしたって意味ないのに。しかも腕が折れたらしばらく刀は握れないのにね、騒いで損したね。

その後玉鋼を選び隊服を受け取り手の甲に階級を刻まれた私たちは、それぞれその場を後にした。


星の呼吸と主人公について

壱ノ型 妖星の煌(ようせいのきらめき)
水平に振りかぶった状態で敵に突進し斬りつける。白い刃の軌道は尾を引く彗星のごと。

名前:咲
年齢:山で発見9歳→鬼殺隊入隊14歳
身長:発見時122cm→入隊時152cm
体重:発見時20Kg→入隊時43Kg
容姿:背中まで伸びた白銅色はくどういろの髪は動きやすく一本の三つ編みにしている。特徴的な瞳をしているため大きな丸眼鏡で誤魔化している。

11歳の時から修行を始めて星の呼吸を会得した。14歳の時最終選別に合格する。

title by : 天文学

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