誰が為のカサブランカ


私にはずーっと違和感があった。竈や井戸の使い方が分からなかったし、お金も見たことない物だった。着物の着方が分からなかった時はあの子に馬鹿にされるのを通り越して、呆れられてしまった。
それなのに、読み書きや計算は出来たし植物や動物など物の知識はあった。どうして生活に関わる知識はないのだろうか。
畳敷きの部屋で生活してはいなかったような気がするので、ただ生活様式が違っただけなのかもしれない。

ポンッ ポンポンッ

部屋が変わる時に聞こえる音の正体は鼓だった。音だけじゃ分からなかったけれど、体から鼓が生えてる鬼を見つけた時に見て分かった。
やっと鬼が見つかって斬り込もうとしたけれど、鬼が鼓を叩く度に部屋がぐるりぐるりとルービックキューブのように回転し爪で裂くような攻撃が襲ってきた。

素早い攻撃を間一髪避けられたのは良かったけれど、うっかり目を回し着地に失敗し骨折部分から体に痛みが走り、剰え箪笥の角に頭をぶつけてしまった。
部屋が変わり鬼が居なくなっていたので、そのまま箪笥に凭れて呼吸に集中する。
髪の生え際の辺りを切ってしまったみたいで血が顔に垂れてきた。包帯が無くなってしまったので、集中して出血を止め軽く血を拭うだけで再び鬼を探し出した。

それから早三日。鬼とも邸に入っただろう猪男とも遭遇することは無く、見つけたのは屍体だけ。
私でも猪男でもいいから早く倒して休まないと、骨が上手くくっつかないかもしれない。肩が上げにくくなったら仕事に支障が出てしまう。

「女だ!お前も稀血か?旨そうだなぁ」

襖を開けると廊下で人間を喰ってる鬼がいた。私に気付くとカマキリのような腕を伸ばしてきたので、腰を屈めて攻撃を避け刀を抜きながら腕を斬り落とし間合いをとった。

星の呼吸
漆ノ型 "漆黒の縮退星しっこくのしゅくたいせい"

体の捻り体を回転させながら出すこの技を片腕が無い分突進しながら鬼の頸を狙って刃を振った。

「女の稀血も居たというのに!食べれば強くなれたのにぃ!」
「…」

ボロボロとまるで燃えて灰になるように消えていく。
鬼が消え始めたのを確認して別の襖を開けようとした時、襖が開く音がした。
同じような服を着て刀を持っているところを見ると鬼殺隊士のようだ。相手はこちらを見て驚いた顔をしている。

「ど…どうしたの?」
「大丈夫だよ。鬼はいないから」

幼い女の子の声がした。鬼から救った人を保護したんだろう。怪我をしているかもしれないと私は駆け寄って声をかけた。

「鬼殺隊士の咲です。階級はみずのと
「俺は竈門炭治郎。階級は同じ癸だ」

竈門さんは真っ直ぐ私を見て自己紹介すると、ぐるぐる巻きになっている私の左肩を凝視している。
答えてもいいけれど、その前に確認しなければならない事がある。
襖の向こうを覗き込むと七歳くらいの女の子が怯えた顔をしていた。鬼に襲われたんだから怖かったんだろう。
しゃがんで怪我はしていないか少女に聞くと首を振った。隣の隊士が言うには攫われた兄を追って来たんだという。

「勇敢だね」
「えへへ」
「君の方こそ怪我してるんじゃないか。血の匂いがする」

女の子は少しはにかんだ表情になった。怖がらせないように注意して優しく声を掛けたおかげだ。
竈門さんからは分かりきった質問をされた。けれど廊下にも血を流して亡くなってる人がいるのに、私が血を流したのが分かるなんて思わなかった。
肩の包帯は大量の血が出るような怪我じゃないと説明した。なんだか釈然としない様子だったけれど、喋っていては仕事にならないので人探しを手伝いつつ鬼を倒すことにして竈門さんと別れた。

柿色の着物を来た男の子を探しながら襖を開けて開けて開けまくった。誰にも会うこと無く、ただひたすら開け続けた。
今まで頻繁に部屋が変わっていたのに今はピタリと部屋が変わらなくなった。今の隙に全部屋の襖を開けていこうと意気込んだ時にまたポンと鼓の音が鳴った。

「あ…」

突然体の浮遊感に襲われた。すかさず何かに掴まろうと右腕を伸ばすも掴めるものはなく、そのまま落下する。
自分で開け放った襖の方に体が落ちていく。最初にいた部屋の襖は反対側しか開けていなかったのを思い出し刀を構え、来るだろう衝撃を緩和させるべく備えた。
しかし何故かその襖が勝手に開いてしまい、その先は眩しくて見えなかったけれど外のようだ。

もし二階であれば、襖にぶつかるより危ないと思い気を引き締めたけれど、見えたのは地面に生える草や砂利だった。つまり私は一階の扉から外に放り出された。
負傷した方を何とか庇うのが精一杯で、落下の勢いそのままに草の上を転がり滑った。
青臭い匂いがする。包帯に緑色の染みができていたけれど、服は破けていないのが幸いだった。

「やめろーーーーー!!」

必死な力強い叫び声がした方に駆け出した。
そこには猪男から箱を守っている我妻さんがいた。我妻さんの背に庇われている箱は"たんじろう"さんの大事なもので、鬼が入っているのを知ってて守ろうとしている。
その我妻さんの姿は最終戦別で悲観していた彼と同一人物とは思えないくらい気迫がみなぎっている。

「そんなに大事なら刀を抜いて戦え!!」

猪男が我妻さんを蹴った。容赦なく殴ったり蹴ったりする猪男。それでも刀を抜かない我妻さん。
私は二人の所へ勢いよく突っ込み、その一方的な暴力を止めようと猪男の右腕を掴んだ。力で負けないように全神経を集中させて腕をぎっちり掴んだ。

「あぁ!?」
「鬼を斬るのは"たんじろう"さんから理由を聞いてからでも遅くないよ」
「意味分かんねぇな!鬼殺隊士は鬼を斬るのが仕事だろうが!」
「まだ日が高いから鬼は箱から出て来られないでしょ。持ち主から理由を聞くまで待ってって言ってるの」
「昼も夜も関係ねぇだろ!!」

力一杯掴んでいた手を振り払われ、突き飛ばされた私はあっさり尻餅をついてしまった。
患部を押された訳じゃないのに、左上半身に痛みが走った。疲労で呼吸が出来ていなかった。筋肉を意識し骨が近くの神経を刺激しないように集中して呼吸をしていた。
それが鬼を倒した後からただの呼吸になっていた。やっぱりまだ四六時中は出来ないんだと実感した。
痛みを我慢して猪頭の暴力を止める為に声を張る。

「ぐっ…そうじゃない、我妻さんを蹴る必要が無いって!言ってるの!」

私の言葉には耳も貸してくれない。このままじゃ我妻さんが大怪我を負ってしまう。蹴るのをやめない猪男は遂に我妻さん毎斬ると言い出した。
私は力の入らない腕で刀を握り、猪男に突っ込もうと立ち上がる。その時、誰かが叫びながら猪男を吹っ飛ばした。

黒と緑青色ろくしょういろの市松文様の羽織が目の前でひらりと揺れた。
"たんじろう"って竈門さんの事だったんだ。


星の呼吸と主人公について

漆ノ型 "漆黒の縮退星(しっこくのしゅくたいせい)
身体の捻りと回転を利用した技。空気の密度が高い平地では体が引き寄せられるように感じる。
この技の縮退星はブラックホールを意味します。技はファンタジー。

咲の頭にはこの時代には考えられなかった事や物の名前などの知識が入っている。
普通に話している言葉が通じない事があると寂しく感じていた。また、常識外れの人のように見られることもあった。

title by : 天文学

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